小話 バレンタイン。
その日と一ヶ月後のみ、ジンはシュノから台所へ入ることを許される。シュノと一緒にお菓子を作るからだ。え、シュノが忙しい日は台所に入っていただろうって? 例外は何事にだってあるさ。
というわけで今日はバレンタイン。今年はジンのリクエストでクッキー缶を作る。シュノもネットで見た立体的なクッキーを作りたいと張り切っていた。
ジンが行う作業は主に三つ。一つはレシピの読み上げ。二つ目は型抜き。三つ目は味見だ。食べる係はジン以外にも、ヘビと白玉がいるぞ。ヨナが夜ご飯を食べに来るので、その時までに完成させたい。ヨナが持ってくるお菓子に思いを馳せながら、ヘビはヨダレを垂らした。
ジンはレシピを読みながら、思う。お菓子作りって面倒だなぁと。ジンはジンだけでバレンタインのお菓子を作ったことがある。小学六年生のバレンタイン。まだシュノと一緒に暮らしていなかった、最後のバレンタイン。ガトーショコラが食べたかったからという理由で、初めてお菓子を作った。しかも一人で。
結果はちゃんとガトーショコラで美味しかった。途中でチョコが足りないから市販の家にあったチョコのお菓子を混ぜたり、そうしたら今度はチョコを入れすぎたからと他の材料を目分量で追加したりと、かなり雑だったが。
美味しかったので良しとする。だけどジンには甘過ぎたのでほとんどシュノに押し付けた。シュノのパパも喜んで食べてくれた。お返しにお金貰った。お小遣いだって。それでジンは市販のガトーショコラを買った。美味しかった。
懐かしい過去に思いを馳せながら、ジンが絞り立体に作られていくクッキー生地を眺める。焼く前の生地って美味しい。シュノにバレないように昔、何度か盗み食べたことがある。いつまでもバレないということはなく、結局バレて怒られてしまってから食べるのをやめたが。
次々に焼かれていくクッキーを、オーブンの窓からヘビと白玉が眺めている。お花の形をした立体的クッキーは綺麗に焼けるだろうか。ドキドキの時間。いろんなクッキーが入ったクッキー缶って憧れる。ジンも時々焼き上がるのが待ちきれず、オーブンを眺めに来る。
シュノはそんなジン達を見てくすくす笑いながら、使い終わった道具を片付けていく。焼き上がってはリビングに広がる、甘い香り。沢山の人に配るから、テーブルの上に置かれたクッキーの量は多い。
「焼きあがったよぉ」
シュノの声で、最後の焼き上がりが告げられた。次第にオーブを眺めることに飽きてテレビを見ていたジン達は、テレビを消してテーブルに集まる。
渡す分だけ最初に箱に詰めて、食べる分以外は冷蔵庫に入れる。立体的なクッキーを多く作ったので、かなり嵩張っている。
来年はアイシングクッキーを作りたいとシュノが言うので、ジン達は何を書くか考え始めた。まだ一年も先の事なのに気が早い。
お菓子作りは時間がかかる。作って出来た物を入れ物に詰める。文字にすると簡単だが、それだけですっかり日が傾いている。
ピンポーンとインターホンが鳴り響いた。予定していた時間より早いが、ヨナが来たらしい。
「やっほー。依頼が早く終わったんだ」
「お疲れ様ぁ」
「ほら、ヘビー白玉ーお菓子だよー」
「何を作ったの?」
「生チョコタルト」
「嬉しい! 好きなんだぁ」
「知ってる」
「美味しいやつだ」
食べるならご飯の後ねとシュノが、冷蔵庫に仕舞った。残念がるヘビと白玉をヨナが笑い、慰めていた。
するとまたインターホンが鳴る。今度は悟空だ。お菓子が好きな悟空はいつもチョコに限らず、おすすめのお菓子を買ってきてくれる。
「いらっしゃい」
「お邪魔する。今年は最近出来たばかりの店で買ってきた、チョコ味のカヌレだ」
「美味しそう」
ジンはしばらくお菓子に困ることは無さそうだと、嬉しく思った。他の知り合いからも貰う予定がある。楽しみで仕方ない。
「ほぉら、みんな席についてぇ」
ジンの声で皆座り、手を合わせる。声を合わせて一緒に。
「いただきます」




