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第3話 ジンは虹が見たい。

 近所というか隣の家に、滅多に家から出てこない引きこもりの友達、若菜が住んでいる。その更に隣には同い年の若菜の親戚が住んでいる。その子はジンよりもシュノと仲が良い。

 ご飯食べ終わると、シュノに遊びに行くことを伝えて家を出る。そして一分も掛からずに着くいた、若菜の家。インタホーンを押して出て来たのは、若菜の保護者である仙人を自称する仙だ。本人は仙ちゃんと呼んでほしいらしいが、ジンは呼び捨てで呼んでいる。仙ちゃんと呼ぶ人の方が、少ないんじゃないだろうか。


「ジンちゃん、いらっしゃい」

「こんにちは。お邪魔する」

「はーい! 上がって。ヘビこんにちは」

「ぴいい!」

「わぁっはは、ヘビは元気だね」


 ヘビは仙が好きらしく、ジンの肩から仙の肩へ飛び乗った。でも仙に見下ろされるのは好きじゃないようで、肩での滞在時間は短く直ぐに頭の上に移動していた。それと仙はジンよりも二十センチメートルも背が高いから、いつもより高い視線が楽しいらしい。だから仙の頭の上にいる時のヘビは上機嫌な事が多い。ジンは百七十五センチメートルあるけど、ジンよりも背が高いヨナの頭の上には乗らないのにな。本当にヘビは、仙が大好きらしい。それに仙はヘビと同じ青い目をしているから、親近感をヘビに抱かせるのかもしれない。


 家の中に上がり、若菜を探す。気配は若菜の部屋にあった。若菜は引きこもりではあるが、家の外に出たがらないだけで自分の部屋に引きこもってはいない。若菜の部屋は二階にあるから、階段を登り部屋のドアを開ける。


「…‥ノックは」

「とんとん、入る」

「はあぁ」


 ノックをせずにドアを開けたら、ノックをしろと言われた。でも面倒なので口で言いながら部屋に入ってベットに腰掛ける若菜の隣に勝手に座ると、若菜は大きな溜息を吐いた。幸せが逃げてしまうよ。

 夏でも寒さに耐える為に重装備な若菜だが、家の中はすごい薄着になる。冬でも家の中なら薄着で、季節感が迷子になる。もちろん夏も冬もエアコンを動かしているけど、そういうのじゃないんだ。


「で、何しに来た」

「遊びに行くって送った」

「……遊べる物なんて無い事くらい知ってるだろ」

「散歩でもするか?」

「外は嫌いだ」

「散歩するか」

「おい」


 散歩する事にしたから、若菜の腕を掴んで立ち上がる。若菜はかなり押しに弱いので渋々着替え始めたので、マフラーを探す。


「何してる」

「マフラーどこ。ジンがあげたやつ」

「ほら」

「おまじないをかけ直してあげよう」

「そう」


 若菜の方にあったらしいマフラーを投げ渡されて、ジンはマフラーに気を込める。ジンがマフラーをあげた当時は、おまじないと聞いて少し目を輝かせていたのに知識がついてからは態度が素っ気ない。ただ気を込めても同じ効果にはならないんだからな。

 若菜が暖かくなるように。若菜が凍えてしまわないように。若菜を守ってくれるように。毛糸の一本一本を意識して、端から端まで気を巡らせる。


 気を込め終わって、顔を上げると若菜がジンをじっと見ていた。スマホを見ると既に二十分も時間が過ぎていたが、こんなもんだろうと思って若菜を見る。


「新しいの編もうか」

「……いい。それがいい。何度も言わせるな」

「そうか」

「うん」


 若菜にマフラーを渡して、部屋の外に出る。若菜がマフラーを巻き終わるのを待ち、若菜が部屋を出たらドアを閉める。前を歩く若菜に続いて階段を降り、仙に挨拶をして外に出る。家から離れていく程に、どんどん悪くなっていく若菜の顔色を見ながら、土手を歩く。歩く事十数分、人目がつきにくい位置に座って、ジンはただ前を眺めた。

 その間ジンと若菜の間に会話は無かったが、座ってぼーっとしているだけで若菜の顔色は良くなっていった。今はそんなに寒く無いだろう。外だけど知らない人は此処にはいない。歩いてた人もいないし、此処にはジンと若菜しかいないから。若菜には苦痛だと思うけど外に出る事は大事だから、度々ジンはこうして若菜を外に連れ出す。土手じゃなくても、歩ける範囲で人がいない場所なんていくらでもある。移動中にすれ違うのは諦めて欲しい。ジンは車の運転免許を持ってないから。

 今日会った時の会話は少しずつ内容は違うが、いつも似たような会話しかしていない。散歩以外にもでちゃんと遊んだりもするんだ。ジンが持って来たゲームをしたり、一緒にテレビ見たり、二人でお料理教室を開催したりとか。


 若菜の首に巻かれた、オレンジ色のマフラー。編み物初心者のジンが適当に買ってきた毛糸で編んだ、ちょっと下手なマフラー。恥ずかしいんだよな。今の方が絶対もっと上手く編めるのに、新しいのをあげると言ってもこれがいいと言って聞かないんだ。

 まだマフラーを諦めきれないが、なら他のをと思って耳当てと手袋を編んだ。どれも完成した勢いであげてしまったばかりに、使えなくなるまで他のは要らないとか言ってマフラーと同じ結果になった。手袋は大きさが変わるから貰ってくれていたけど、もう大きさは変わらないだろうから、同じになってしまった。マフラーは長く使えるように、マフラーなんてどれだけ長くてもいいでしょと編んでしまったから、今じゃ若菜に丁度いい長さになってしまっている。沢山気をこめられるようにしようと思ったのもある。


「色違いとかどうよ」

「静かに」

「……うん」


 何がそんなにいいんだよ、新しいのも嬉しいと思うんだけど。何個あってもいいと思うんだ。


「最近、その……どうだ。若菜は」

「何?いつも通りだけど」

「ご飯は、ちゃんと食べてるよね……」

「食べてる」


 若菜は意外とバカなのでマッチョなのだ。寒いなら筋肉増やせば暖かくなるんじゃないかと考えて、筋トレを始めたけど全く暖かくならなくて落ち込んでいた。

 そりゃそうだ。若菜の寒がりは若菜の感情に影響を受けた気が冷たくなり、その感情の対象が若菜自身だから気が内に留まり続けているんだ。どんな感情でも対象が他者ならば、他者に向かって気が放たれる。ただ生きているだけで、生まれつき気を放出できない者以外は、呼吸をするだけでも勝手に気が体外に出ていく。若菜は小さい頃はこれが出来ていたのに、若菜の家族が一緒にいた若菜だけを残して亡くなってしまってからは、気を放出できなくなってしまった。


 もう十一年も経つと言うのに、若菜はずっと寒がりのまま。でも家の中や親しい者の側なら安心できるし気が緩んで、寒くならない。心の問題だからだ。若菜は外が怖い。若菜は知らない人親しくない人が怖い。根本にある感情にプラスしてそれらに対する恐怖がより、若菜を凍えさせる。トラウマなのだ。夏でも関係ない。体の内側から凍えてしまうのだから。

 さすがに十一年も経てば多少はマシになはなっている。例えば家の中でも寒く感じなくなって、逆に暑か感じるとか。最初の方は命が危なかったし今でも気にかけてあげないと、内側から凍えて死んでしまう。外からの物なら対処はできるけど、内側からはどうしようもできない。心の傷は簡単に直るものでもないし。

 だからジンをマフラーをあげたんだ。市販の物をどれだけ着込んでも、親しい人から貰った服とか手作りなら尚更暖かく感じるでしょう。実際相手を思うのだから長時間触れている分、手作りの方がより想いを気を込めやすい。誰かを好ましく愛おしく想う気持ちは、暖かくいものだからプレゼントには良い。ジンを真似して、シュノも仙も若菜の親戚のみことちゃんもみことちゃん家の姫も、若菜に手作りの物をあげていた。 皆からの贈り物が沢山あって、若菜を想う仙一緒に住み親しい人がよく遊びに来る家。みことちゃん達なんてほぼ毎日遊びに来ているみたいだし、昔と違い家とは若菜にとって安心できる場所になったから、とても暖かいの。


 外は違うから、場合によっては若菜は死にかける。一人で外に出る事は絶対にないけど、外に出たら絶対に死ぬ。だから、若菜を外に出す時は親しい人が多ければ多いほどいい。若菜も喜ぶし、外でも長時間活動しても若菜の体調が悪くならない。それに贈り物があれば尚良い。という訳で外にいても、暖かくなればと思ってマフラーにしたのだけれど。若菜は頑固。十一年前に編んだマフラーを今も使い続けるのは、物持ちが良いとは思うけどジンは恥ずかしいよ。新しいのあげるから、そのマフラーは家に飾っときな。本当に。

 


「それにしても、ヤナシを飼うだなんてすごいよな」


 顔色が良くなっている若菜が、話しかけてきた。

 ヤナシは見つけ次第殺処分が決まっているし、普通なら恐怖で近くでなんて見れないだろう。生き死にに興味ない頭がおかしい人は別だけど。


「どうやら、生まれたばかりのヤナシを拾った育てたらしい」

「なんでって思うけど、あんな事件起こす奴がまともなわけない、か」

「うん」

「慣れればヤナシを直接見ても向き合っていられるのか?」

「うん。だからヤナシ討伐部隊は、ヤジン以外でも働けるんだよ」

「あー」

「慣れと、出会った状況にもよると思う。クマだって街中に降りて来たクマと対面したら怖いだろうけど、動物園の檻の向こうから怖くないでしょ」

「ヤナシの動物園……」

「なんか嫌だなそれ」


 ちょっと寝転がっても大して汚れないだろうから、ジンは大の字に横になる。若菜が静かに見つめてみたので、目を逸らして空を眺めた。


「暇だな……うちには守護霊が二人住んでるんだが」

「お父さんか」

「うん。あと、シュノのパパ」

「守護霊ってみんないるの」

「いない人もいる。ジンみたいに。パパが言うには、小さいジンの守護霊になろうと思ったけど、ジンが強かったからママの守護霊になったんだって」

「あーだろうな」

「えぇ」


 ふっと鼻で笑う若菜に、ジンはジト目を返す。すると若菜がジンの視線から逃れる様に前を向いた。今日は天気がいい。あ、飛行機雲。


「シュノのパパは、守護霊なのにほとんどシュノの側を離れて、パパのそばにいる」

「守護霊の意味」

「一応離れてても守れるんだよね。守護霊って」

「へぇ」

「生前から思ってたけど、シュノのパパまじブラコンだわ。パパすごいと思う」

「シュノはシュノのパパと見た目も性格もほとんど同じというか、全く同じだからジンにも言えるじゃん」

「あ……なるほど、慣れか」

「慣れだろうな」


 その後無言がしばらく続いて、時々話してはまた無言になって周囲を眺める。それで三時間くらいずっとそこにいた。


「帰るか」

「うん」


 斜面の上、ちょっと立ちにくいそこからさっさと離れて、伸びをする。


「石は硬い」

「当たり前だ。後ろ向けよ」

「汚れてる?」

「大丈夫」


 若菜がジンの背中をぱんぱんっと手で払ってくれた。ジンは歩くの遅いけど若菜も歩くの遅いからゆっくり歩いて、橋を渡って歩いて階段を降りて歩いて家に帰った。家に帰ると、みことちゃんと姫が居たから、シュノを呼んで皆で夕ご飯を食べた。ジンは雑炊だった。唐揚げ食べたかった。一個だけだよってシュノが小さく切ってくれたけど、シュノが見てないところで若菜が唐揚げを二個くれた。嬉しかった。姫には見つかったけど、姫は黙っていてくれるタイプだから、シュノにはバレなかった。危ない、みことちゃんだったらシュノに教えているところだった。でもその後にはいつも、シュノには内緒ねっ!と言って自分のをわけてくれるか、別のをくれる。仙も黙ってくれるタイプだけど、目敏いからすぐに気付く。そのあとニコニコ笑ってる。


 若菜の家を出て見上げた空はすっかり夜空に変わっていて、ここの地域から見える星はほとんど無い。いつか沢山の星を眺めてみたいと、小さい頃から思ってる。でも田舎に行かないと見れないだろうから、今のジンには体力的に無理だ。死ぬ前に一度でいいから、星空を見れたらいいなぁ。



 『起きろ』


 起きて着替えて、それから。


「みことちゃん」

「おはよージぃンっ」

「おはよう、なんで……あぁ、姫の誕生日か」

「そぉー!」

「おはよぉう、ジン。一緒にケーキ作ってるのぉ」

「おはよう、そうか。誕生日プレゼントどうしよう。御守りで良いかな」

「ジンはいつも御守りでしょ」

「……御守りは、良い、よ」

「ジンの御守りなぁら効果は抜群だしぃ、姫も御守り持ち歩いてるからいいとぉ思うよ」

「悪いとは言ってない!レパートリーが少ないと思っただけ」

「それはそうだ」


 姫。姫はあだ名で、本名『日桜 伊舞姫』と書いて『フジワラ イブキ』。みことちゃんと結婚している、二歳年上の入婿。二人の間に恋愛感情は無いが、かなり我が強い姫なのでみことちゃんに責任を取らせる為に、結婚という手段をとった。それで、責任とは。

 簡潔に言うと、みことちゃんが十三歳の頃に姫を誘拐したのだ。それでそのままみことちゃんの家で暮らし、自分を誘拐したのだから自分が死ぬまで責任を取れと姫に迫られたみこととゃんは、一緒に居ても不自然じゃない関係性として夫婦を選んだ。


 みことちゃんが姫を誘拐してもバレなかったし、騒ぎにならなかった。何故なら姫には戸籍が無かったから。みことちゃんの両親が、姫の戸籍を作った。

 もっと詳しく説明すると、戸籍どころか名前も与えられないまま十五年生き、家の教育により賢く強くなった姫は家の者達と大乱闘をし勝利を収めて家出を決行。追いかけてくる家の者達から逃亡中にみことちゃんと出会い、みことちゃんは友達が出来たと勘違いして家に招いてしまった。そこから姫を捕まえたい家の者達VSみことちゃんand姫+事情を知り匿うジン達との戦いが勃発して、圧勝。姫の名前をみんなで考えて、姫の要望でみことちゃんと結婚した。

 姫の家はかなりの権力者でちょっとやばかったけど、権力と人数の差をモノともしない程に主に姫とジンと悟空と仙が物理的に強かった。最終的にあちらが折れて、晴れて姫は自由の身。今はみことちゃんの両親が共働きだから、代わりに家事をしてる。一緒に住んでるし、主夫ってやつ。


 姫が一度ジンと二人きりの時に話してくれた事がある。外に出るキッカケをくれたのは、みことちゃんが飼っている小鳥なのだと。かなり自由に過ごさせている小鳥が、姫のところまで飛んで行ってしまったらしい。その時姫は生まれて初めて鳥を見た。その姿は、ただ光を入れるだけの窓に用心深く付けられた鉄格子に遮られていたが、綺麗だった。見惚れていたらその鳥が此れ見よがしに、姫の前で飛んでみせた。飛んでいったと思った鳥はまた部屋の前にやって来て、ドヤ顔をした。姫にはそう見えたらしい。呆気に取られた姫は、ムカついて外に出て行こうと決めたのだとか。姫は短気だからな。挑発と受け取ったみたいだ。鳥の癖に自由が無い姫に、自由な姿を見せつけるだなんて。姫は怒った。勘違いかもしれないが、許せなかった。

 大乱闘で勝利し外に出ると、地面の上を影が飛んでいた。上を見るとあのムカつく鳥が飛んでいる。捕まえてやろうと、距離を詰めると逃げられてしまった。鳥との距離が開くと鳥がわざわざ地面に降りて来て、姫を見る。姫はキレた。追いかけて、距離が開くと鳥が止まり、追いかけてを繰り返した。距離が空いていないのに鳥が下降たかと思うと、鳥が女の子の肩に降りた。それが、みことちゃんだった。


『あの時はなんとまぁうざったらしい鳥かと思ったが、今思えばわざわざ俺を迎えに来てくれたのだと思う』


 幸せそうな顔をしながら、姫はそう言った。そして姫は、続けて言う。


『俺はジン程多くは見えないが、縁が見える。あの鳥は命の為に俺を連れて来たんだ。運命というやつだな。初めて会ったのに随分と頑丈そうな縁だったよ』


 縁、太ければ太いほど関係の強さが分かる。すれ違うだけの縁は蜘蛛の糸との様に簡単切れるが、交流を重ねる度に縁は太く頑丈になっていく。だから、初めからある程度の太さを持っている縁は、運命だったりする。太いのとか分厚いのって切りにくいから、多少傷ついても縁は繋がり続ける。だから運命の糸なのだ。

 あと、お互い向ける感情によっては縁の素材も変わってくるから、縁に注視して見てみると暇潰しには丁度いいとジンは思う。縁の太さや素材から関係性や頑丈な考察は、楽しい。


 運命なら尚更、何もしなくても将来必ず出会う事になる。なのに小鳥、きーちゃんは二人を引き合わせた。野生の間というやつなのだろうか、今まで居た環境を聞くと、今後出会えても今の様な関係になれるとは思えない。みことちゃんが傷付くくらいなら姫の未来を変えてでも、とか考えてそうだな、きーちゃんは賢いし。


『運命も出会い方や出会ったタイミングによって、運命のあり方も変わってくるからきーちゃんに感謝しよう』

『きぃに感謝するのは嫌だ』

『流石、姫だ』


 懐かしい思い出だな!今年の御守りはきーちゃんの形にしてあげよう。


「今年は信一郎は、これるの?フリーターなのに昨年は来れなかったじゃん」

「フリーターへの偏見はぁやめなさい、ジン。忙しい人だぁっているんだからぁ」

「今年は誕生日会来るって。昨年はね……前日にまさか足を骨折して入院するなんて、私驚いちゃった!」

「もう、若菜の家庭教師も今年でお終いじゃん、次は何するんだろう」

「確かにぃ。あの人何がぁ出来るのかなぁ?」

「んー……」

「なぁんにもないねぇ」

「仙に憐れみで若菜の家庭教師として雇われた、生活力皆無の男。今度こそ家が無くなったら、獣人のペットにでもなるんじゃない」

「同居ね、同居。獣人は人間を凄いが弱い生き物だと思ってるよね」

「絶滅危惧種の人間を守る事もできるしぃ、かぁいくてぇよわよわな人間と暮らせて嬉しいってさぁ、洗脳教育の賜物ではないかと思うのだけれど」

「急に、話し方戻さないでっ怖い!」

「小さい頃から、人間は弱いから守ってあげてねって習ったらそうなるよ。仕方ない。」

「元々獣人はぁ人間減少による人手不足解消と、絶滅危惧種になっちゃった人間を守る為に作られたぁ人工生命体だもぉんねぇ、本能もあるのかなぁ」

「かもー」

「かも」


 ジンは見ているだけだが、ケーキを作りながら女子会。ヨナも呼ぶかとジンは思い、連絡を入れた。すると十分も経たずにインターホンが鳴って、ヨナが来た。


「駅の方で信一郎見かけた」

「おー」

「元気そうだったぁ?」

「交番の世話になってた」

「何をしたんだアイツは」

「信用ないっ! まぁ、犯罪だけはしない! って言ってたし落とし物とかじゃない」

「まぁ信一郎を気にしたところで……ねぇ?」

「ねぇ〜」

「ねぇー」

「ね」


 信一郎は性格は良い方だけど、かなりダメダメでアホな近所のお兄さんポジを確立している。

 そんな信一郎は、味方を裏切る事は絶対に無いけど、味方を平然と見捨てそれを非難した別の味方に殺されそうになるが、見捨てた味方に擁護されてまた別の味方にその様子を見られながら「次はあいつ囮にしようぜ」と言われてしまうが結局最後の一人に残るタイプで、さらに敵と戦って味方が全滅し自分だけ生き残ると、何故か敵陣営に加わりその敵陣営でも自分以外全滅してたとしても生き残ってしまう。しかも、一人ではさっさと死んでしまいそうなのに、謎に周りに恵まれてしまったせいで、病死も事故死も自殺も孤独に死ぬ事も出来ないのだ。

 死ぬその時まで誰かが周りにいる事が確定している、幸運で不幸な運命を課せられた、ジンから見て憐れだけどどうせ死なないから心配する必要がない人。獣人だから身体能力も高いし人間より頑丈で、超絶健康体だから風邪もひかない。


 すごい長く説明したが簡潔に纏めると、信一郎は寿命以外で死なないんだ。とても可哀想。

だからジンは、信一郎がパチンコで有り金を全部溶かして地面に落ちていようとも、お酒の飲み過ぎで自身の吐瀉物に塗れて寝ていても、大雨の中信一郎の真横に雷が落ちても、恋人では無い人達をメンヘラに変えてしまい刺されそうになっている場面を見かけても、無様に何も無い平らな道で転んだ姿を見ても、スルーしている。死なないからな、あいつ。そんなダメダメでも小さい頃からの知り合いなので、死んだら悲しいと思う。でも死なないから、マジ心配しなくていい。かすり傷だって滅多に負わないし。獣人の頑丈さを十二分に発揮している。あれでライオンの獣人なのだから、ライオンに謝ってほしい。


「はっ! 百重の王だから、死なないのか!?」

「ジン、かしこぉい!」

「なるほどっ」

「かもね(笑)」


 女子会での会話は、いつも適当だった。


 三月三日、姫の誕生日。忘れていたわけじゃないけどあと数日後くらい先だと思っていた。本当はもう御守りは用意出来ているが、シンプルでつまらないからきーちゃんの形にフェルトを切って貼り付ける事にした。部屋に戻りフェルトを持って来て、ちょきちょききょき。御守りに縫い付けて、ペンで目を描いたら完成だ。


「わー! きぃちゃんだ!!」

「いいじゃん、よくきーちゃんと戯れてるし。姫」

「遊ばれてるのぉ、間違いじゃなぁい? ふふっ」


 その後ケーキが完成したからみことちゃん家に移動して、姫と姫の髪を巣にして遊んでたきーちゃんの写真を撮ってからプレゼントを渡した。数十分後に若菜と仙が来て、夕方になるとみことちゃんのパパママが帰ってきて誕生日会が始まった。


「お誕生日おめでとう!」


誕生日会は滞りなく終わった。ちなみに信一郎は、三十分遅れて来た。信一郎は遅刻常習犯で学校も毎日遅刻するやつだった。信一郎が買ってきた、遅れてごめんなさいのお詫びのシュークリームは、美味しかった。


 姫は幸せ者だよ。きーちゃんは高頻度で姫を揶揄うが、姫の事も守っている。見なよ、きーちゃんはのみことちゃんと姫を見あの眼差しを。とても大事に思っている証じゃないか。

 ジンは記憶力がいいからすぐに思い出せる。初めて会った姫の他者に向けていた、射殺すような眼差しを。今の姫からは想像が出来ないわけじゃないし全然面影あるけど、前とは違ってあんなに幸せそうに笑えるようになったのだから、ジンは姫達の幸せを願わずにはいられないんだ。


 ジンは神じゃないから、手に届く範囲の者達を守り慈しもう。ジンは人間だから、強欲なんだ。


『いいと思う』


 ジンは、耳の奥でそう声が聞こえた気がした。






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