第12話 5月1週目(下)
ジンとラズにシュノとヨナの四人で過ごしていた時、ヤジン管理連盟に爆破予告が届いていた。
『今日の十六時に、ヤジン管理連盟本部を爆破します。』
送り主は『フィリア』。記載されている爆破予定時刻は午後十六時。この予告に人々は騒然となり、急いで避難と重要な書類やデータを避難させた。
避難が完了した中で爆弾らしき物を対爆スーツを着た足が早い獣人達が残って探すが、見つけられない。時間ギリギリまで機会の裏や排水溝の中、開けられるありとあらゆる扉を開けて探した。
自衛隊や警察、来られるヤナシ討伐部隊を呼び警備を増やす。救急車と消防車も離れた所に待機していた。これは爆発だけではなく『フィリア』に所属する者達からの襲撃に備えるため。
そして午後十六時。爆発はしなかった。だが誰も気を緩めてはいない。イタズラの可能性は皆無。何故なら今まで『フィリア』は、必ず予告した後に被害をもたらしてきたからだ。
緊張状態の中、通信が入る。それを聞きながら一人また一人、空を見えげた。視界には伸びる雲を捕らえている。数秒経ってその雲の先にある鉄の塊を、人々は理解する。
「……っ!! た、退避! 退避!! 下がれ!! 」
それは接近しながら上昇を続ける。落ちるまでに出来るだけ遠く離れようと、人々は足を動かす。
着弾。
大きな爆風が体を浮かせる。ガラスを舞散らせ、建物をただの瓦礫に変えていった。
大きな煙が空に登りる様子を折れた足を引き摺りながら、血を流す同僚の応急処置をしながら、人々の下敷きになりながら、近くにいた人に背負われながら、見つめる。
「……確かに、爆発しましたね……」
「ドアホ。黙らんかい。……傷に響くだろ」
「……はい」
「っいや、やっぱり喋れ。あと少しだからな」
「……はい」
足を引きずる上司に背負われた新人は、そう言って目を閉じた。失った片足からは、大量の血が流れている。
急いで離れた救急車と消防車等が戻ってくる。何処まで届くのではないかと思わせるほどの、大きなサイレンを鳴らしながら。
自分の痛みを無視して、上司は足を早めて前に進む。
『フィリア』--それは三千年前からある、ヤジン管理連盟と敵対してきた組織。
最初の方は社会からは犯罪者集団ではあったけれど、正義の味方のように思われていた。
何故なら、『フィリア』は誘拐された女性達を探し出し家に返したり、違法実験を行う施設壊してそこで働く者を殺したり関わった組織を潰したりする、当時の狂気に立ち向かった人々の集まりだったからだ。
それは現代でも変わらなかった。けれど犯罪者集団である事には代わりなく、今回のような過激な手段によって周囲の建物等への被害が大きく、巻き込まれて関係ない一般人が死んでしまうことが多々あったからだ。
『フィリア』はずっとヤジン管理連盟という名前になる変える前から、組織を潰そうと画策していた。何度、世界の支部が襲撃されたことか。
ヤジンが増えて千年ほど経つと直接攻撃してくることは減ったが、それでも業務を妨害したり犯罪予告を送ってくることがある。律儀に毎回送って来るので、避難する時間があることは有難いが、攻撃自体が大変迷惑である。
今まで何人もの『フィリア』に所属する者達が捕まったが、未だに拠点などの情報が一切手に入っていない状態だった。
誰がどのような目的で『フィリア』を作ったのか。作った理由は察することができるが、だとしてもこの軍事力はなんなのか。どこから財源を確保しているのか。
『フィリア』の謎は多く、また『フィリア』による被害も多かった。
今回、皆は疑問を抱いていた。
予告があるのはいつもの事。だが、予告から犯行時刻が当日だったことは一度もない。数日後、短くても翌日だった。
犯罪内容と時刻のみという簡潔な物だった事に、一瞬『フィリア』の名前を使うイタズラかと思ったほどだ。今までイタズラはあったが、そのどれもこんな本物に似せていたため、驚いたものだ。
いつもは、襲撃される理由と証拠まで送ってくれていたから。それ故に、襲撃される理由が分からない。
困惑と疑問が、冷静に考えられる思考を保った者達の頭を埋め尽くす。だがそれらに構っている余裕は無い。
なぜなら、襲撃はミサイルだけでは終わらないからだ。この後、今までの経験上必ず『フィリア』の者達が襲撃して来るだろうから。
そのため怪我人を速やかに移動させて、瓦礫に埋もれる人々を救助する救助隊を守るために、ヤジン達は周囲を警戒をし続ける。
ヤジン達は元々対ヤナシ用の防護服を着ていたのもあって重症は負っておらず、怪我の治癒スピードが早い為全ての怪我が既に完治している。
ヤジン達は、いつでも戦闘に入れる状態にある。無傷又は軽傷な人間と獣人も、ヤジン達の後ろで待機している。
皆、準備万端。『フィリア』よ、いつでもかかってこい。
ミサイル着弾から、四十分後。遂に、奴らはやって来た。
まるでテロリストのように武装して--いや、奴らはテロリストだったな。全身黒色、テロリストに相応しいな。ヤジンの一人はそう思って、鼻で笑った。
ヘルメットの中、皆の鋭い眼光が『フィリア』に向けられる。
戦闘、開始。
『起きろ』
はっきり見えるようになった腕に、白く細い手首を掴まれて、闇の中から引っ張られる。
閉じられた、薄紫の睫毛が揺れる。その後上瞼が僅かに開き、金色の瞳が現れた。
つけっぱなしの扇風機の風に髪を揺らされながら、ジンは目を覚ました。カーテンの隙間から見える空は、熱を容易く想像できるほどに明るかった。
動かしにくい腕をのばして、スマホを取ったジンは時計を確認する。十時八分。
「……んー」
いつもより四分遅い。暑いからかな。これはジンにとって、誤差では済まされない時間だった。
約一時間後、ジンはリビングへ。キッチンでお昼ご飯の準備するシュノを一瞥後、ジンは最近この時間にテレビを見ることにハマっている白玉から、リモコンを奪い番組を変える。
「わんっ!!」
「お前、これ先週から何度も見てるだろう。録画なんだから譲ってよ」
「うー」
低く唸る白玉の上に向かって、綿入りのボールを投げる。白玉は嬉々としてボールを追って行った。ソファに座って、脱力する。ポチポチとボタンを何度か押して、気になった番組を見る。
昨日の出来事を話しているようだった。ジンはクッションを抱きしめ、顎を乗せて半開きの目でテレビを眺める。
《昨日午後十四時頃、ヤジン管理連盟本部を爆破すると『フィリア』から爆破予告が届き、午後十六時過ぎにミサイルが--》
「……やばー」
「ねぇ、それすごいよねぇ」
「--そういえば、昨日スマホ見て慌ててたな……。ちょうどその時間か」
「何がぁ?」
「昨日、猿連と犬牙がさ」
「あぁ。なるほど。確かに、休みならそのまま居座りそうだったのにぃ、居なくて珍しいと思ってたのよねぇ」
「かなりの数集められたみたいだな」
「桃川達はぁ特に暇だからぁら全員行ったかもねぇ」
「メールしとくか」
「いいかもねぇ」
ジンは桃川達とのグルチャ--犬目区のヤナシ討伐部隊全員が入っているグルチャに連絡を入れた。ちなみに、他にも知り合いが何人か入っている。
『大丈夫? ニュース見た』
『俺達は大丈夫ー!』
『わん、生存確認。怪我したけどもう治ってる。わんわん』
『元気だよ』
『俺も』
『嘘、隊長は毒使われて重症! 毒のせいで傷の治りが遅い!!』
『黙れ、冬親!! みんなー! 解毒は済んでるから気にしないでくれよなー!』
『バーカバーカ隊長の嘘つきー』
『ニコニコスタンプ』
『指さし爆笑スタンプ』
『( ᐛ )』
以下止まらずメールが送られてくる。ジンはしばらく見たあと、グッドスタンプを押してスマホを閉じた。元気そうだからよし。後で、白玉の写真を送ってあげよう。桃川も巫兎と同じく、白玉の虜なのだ。
「ジン、ご飯出来たよぉ」
「うん」
お昼ご飯の時間。
所変わって、東京にある城の広間。
多くの人々が上座に座る人に、意見を述べていく。
「将軍様はどうお考えでしょうか、此度の『フィリア』の襲撃」
「--理由が分からぬ、これが最大の懸念点だなぁ」
「はい。では如何様になさいますか」
「全面戦争、今の時代の皆には申し訳ないが、将来的に考えて……潰すしか無いだろうな。我々は、『フィリア』を自由にさせ過ぎた。世界各国では無理でも、日本の『フィリア』だけでも、無くさなくてはな」
「御意」
話し合いは終わり、先に広間を退出した将軍と呼ばれるその人は、太陽の光に照らされて輝く美しく短い黒髪に翡翠の髪飾りを着け、翡翠色の目を細めてた笑みを浮かべて城下を見下ろした。
日本のたった一人の大将軍。将軍は御年七十歳。八咫烏の加護により、加護を授かったその日から美しい容姿は変わらず、ずっと若々しい姿をしている。
不老になった訳ではなく寿命が伸びたようで、あと数百年は生きることになると八咫烏に言われたそうな。
かの人名前は、『日本 帝陽』。日本の敵を征討する日本軍の総大将だ。
間違っても自衛隊を同じ括りにしてはならない。
自衛隊は日本を守るための自衛組織で、戦争をしないし戦争をする為に存在する訳では決して無い。
自衛隊と違って日本軍は、日本を守るために国内外問わず戦争をするので、混同しないように気をつけよう。
‘’自衛”という文字を見ればわかると思うけれど、間違えないように。学校の授業で習うのに稀に勘違いした奴が現れて、自衛隊を攻撃する事がある。その度に日本軍はそ奴等を片付ける。
自衛隊の日々の訓練は、日本を守るために発揮して貰いたいし、自衛隊はそんな奴等を相手にするために存在しているわけではない。
なので日本軍が代わりに対処する。日本軍がいても自衛隊が居るとは限らないが、自衛隊が入れば日本軍も居ると思って欲しい。
帝陽は歩き、友が居る部屋を目指す。昨日の『フィリア』の襲撃で交戦し、軽傷を負った友の元へ。
部屋の前に着いたら、帝陽は中に居る友へ声をかける。
「入っていいか?」
「……入っていいぞ」
許可を得たので障子に貼られていた札を剥がして、障子を開き中に入る。
中には座布団に座り不貞腐れた、帝陽と違って長く美しい黒髪が着物の上に垂れていた。友は帝陽に向かって、不満を宿した月のように彩られた瞳を向けた。
友の名前は『月元 神夜』。元人間のヤジン。まだ二人が若い頃、帝陽を庇って神夜はヤジンに成った。
今回の襲撃で、勝手に日本軍に混ざって戦いに行った神夜。しかも今回の『フィリア』はどうやって作ったのか、ヤジンの治癒力を人間と同等レベルに下げてしまう毒を使い、神夜含め何人ものヤジンが重症になってしまった。
だが毒の効果は長く続かないらしく、帰ってきた時にはほとんど治りかけていたが、貧血になっていた。なので部屋に軟禁していたのだが、そのため救助活動に参加出来なかったことに不満を抱いているらしい。
「--怪我人なのだから、当然の判断だと受け入れて欲しいものだな」
「ふんっ……分かっている」
帝陽は神夜の隣に座り、神夜の髪を撫でた。その手を神夜は大人しく受け入れている。
「怪我が治ったのなら、医者に見せるといい。外出の許可が降りれば、好きに行動しなさい」
「……言ったな?」
「あぁ。嘘はつかんよ」
帝陽の言葉に神夜はゆっくりと顔を動かして、帝陽を見ながら不敵に笑った。そんな神夜に、帝陽は微笑ましそうに頬を緩めた。
すると神夜は立ち上がって、駆け足で部屋を出ていこうとする。
「こらこら、走ったら危ないぞ」
帝陽にそう言われると、神夜は駆け足を止めて歩いて部屋を出た。
やれやれといったように帝陽も立ち上がり、部屋を出て自身の部下に会いに行き、神夜の護衛を任せた。
「頼んだぞ」
「御意」
「そなた達も気を付けるように。まだ残党が隙を狙っているかもしれぬ」
「大丈夫ですよ、たぶん」
「こらっ」
「はははっよい。この場には俺達しか居ないのだから。自由にせよ」
「はい」
「将軍がそう仰るなら……」
帝陽に相対するは、普段から神夜の護衛を任せている五人の部下。
彼等の名前は『石作 睦月』、『車持 文月』、『阿部 弥生』、『大伴 葉月』、『石上 卯月』。彼等もヤジンだが、神夜と違って養殖ヤジンである。
この順で横一列に並んで座り、上座に帝陽が座っている。
「……月人はどうした?」
言われた通りに姿勢を崩した、阿部が帝陽の問に答える。
「月人はもう既に外に出ていますよ。きっと現場で神夜様と出会えることでしょう」
「おやまあ……そこまで似なくても、いいのにな」
「同意します」
素が敬語なので、姿勢は崩しても敬語は外れない。
『月人』--フルネームは『日下 月人』。月人は子供の頃に、ヤナシに家族を殺されて孤児になったところを、神夜に拾われた。養子にこそしていないが、神夜の子供のような存在。
そして月人は、帝陽のように加護持ちではないし神夜達と違ってヤジンではなく、ただの人間だ。
成人した後は、帝陽の部下になり神夜の護衛として常にそばに居る。親子なのだから自由に傍にいればいいと思う六人だったが、月人がそれを許さなかった。
理由は、養われるだけの無職は嫌だからだそうだ。
なんで嫌なのかあまり理解できなかった、金持ちの神夜含めた七人は頭の中に疑問符を浮かべた。とりあえず成長を喜び、コネなしの実力で帝陽の部下になった時は、盛大に宴を開き祝った。
月人はいい子なので、早々に退散して早寝して早起きした。いい子だけれど、育ての親がじゃじゃ馬の神夜なので、月人もじゃじゃ馬になってしまった。
なに、元気で過ごし無事に帰ってくればよし。と帝陽は、二人を笑顔で見守った。
そんな昼下がりのお昼ご飯が終わる時間、将軍の城での一幕だった。




