第12話 5月1週目(上)
桃川達から、ラズに占いを頼みたいというメッセージが届いた日から数日後。土曜日。今週、暇してそうなラズの予定が空いていたのが土曜日だけだった。
魔法使いなのに暇じゃないんだ。ジンは思ったし、ラズにも言った。
確かに何するんだって話だけれど、ジンの発言にラズは気分を害した様子もなく、普段何をしているのかを教えてくれた。そういえば、何してるのか話したこと無かったねと。
「日本で魔法使いの仕事はほとんどないけれど、日本にだって魔法使いはいるのよ。日本人のね。弟は魔法学校で魔法を教えてるの。外国人の先生に言葉を教えてもらう授業、日本にあるでしょう? あれと同じよ。私は授業で使う素材集めとか、魔法使いが作った建物やらなんやらの点検や魔法の重ねがけとか、結構色々やってるのよ。--魔法使いの頼み事は魔法使いにしか出来ないからね」
「なるほど。理解した」
「よし! なら占ってみようか。本当に何にも情報が無いから……あれだけど」
「よろしくお願いします!」
「わんわんわくわく」
今日いるのはあの時の四人から二人削った、猿連犬牙の二人。他は仕事だ。日曜日に空いているのがこの二人だけだった。
鳥島と桃川は魔法使いに会いたい占い見てみたいと、有給を使おうとしたけれど話を聞いて面白がっていた隊員達に睨まれたそうだ。自分達も魔法使いに会ってみたいのにズルい、だそうだ。
場所は優お姉ちゃんが働いているカフェ。少し前から働き始めたココのジオが、注文した飲み物を持ってきてくれた。
黒色の髪に黒色の目。ココには珍しい色。古い個体ならば、その色を持つこともあるからジオもそうなのだろう。長く生きて暇だから、隠居してカフェの店員してるのかな。
ココにも隠居の概念があるのか、否か。ジンは分からない。
「どうぞー」
「ありがとう」
ジオはシュノと仲が良く、今ではジンとも気安い。
何故カフェなのか、それは涼しいから。ラズの家の中には色々魔法道具があるから危ないから外にしようと、ラズが言うものだからカフェに来た。ジンの家もダメ。仲はいいけど家の中にあげるほどの仲ではないからだ。
五月が始まったばかりだというのに、日本はすごい暑い。もう夏だと思う。なのに八月になったらさらに暑くなるのだから、最悪だ。
星占いかと思ったけれど、どうやら違うらしい。ラズが杖を一振する。すると、テーブルの上に水晶が出てきた。
「水晶だ」
「これあれ? 映像が映るとか? 邦画に出てくる」
「そうだよ。よく分かったね。でも水晶ではなくて脳裏に映像やイメージが出てくるんだよ」
「そうなんだ。それでも、わんわん、楽しみ」
「知っている事は、女の子で、未成年。--当時も今も成人は二十だよね、日本では」
「そうだよ。ヤジン以外の人の成人はそうだね」
「あと何かないかな。流石に少ないな……とりあえずやってみようか!」
「おー」
ラズはそう言うと目を閉じて、水晶に両手を翳した。心做しか周囲が暗くなり、水晶の周囲がキラキラ光っているように見えた。ジン達は静かに待つ。
ラズが目を開けるとそれは無くなり、元に戻った。
「どうだった」
「どうっどうっ」
「わーん」
「んー……もも、いろ?」
「桃色?」
「すごい映像が全部桃色だった。……そうだ、命ちゃんの髪の色に似た桃色だったよ」
「ほえー」
「……別のこと考えたりした?」
「……桃のタルト頼んだから、頭に浮かんだ。少しだけ……引っ張られちゃったかなぁ。もう一回やってみるよ」
「桃タルトは仕方ない。美味しいから。わんわんっ」
そしてもう一度やったが、今度は--。
「色が濃くなったっマゼンダー!!」
「命ちゃんの好きな色じゃん」
「ありがとう、ニコラ。スイーツも来たし、食べよう」
「わん」
「……ごめんね」
「元々期待していないよ。夕紅も何も分からなかったし」
「彼も? 中々の実力者でしょうに。まぁ、情報も無ければ調べられないか」
「うん」
桃。皆桃のスイーツを頼んでいる。桃のゼリーや桃のアイス、桃のタルト。この桃は早く実ったのを親戚から貰ったと、店長さんが教えてくれた。
ジンはラズと同じ桃のタルトを頼んだ。美味しい。桃って当たり外れあるけれど、これは美味しい桃だ。苦い桃は口の中に残る苦さをしているから、甘いのだけ食べたいよね。ジンは今まで食べた桃に思いを馳せた。
食べ終わったあともう一度やってみたけれど、今度ば何も映らなかったらしくそのまま解散することにした。猿連と犬牙の、水晶との記念撮影をしてから。
ジンとラズはそのままにカフェに残って、他のスイーツ頼んで食べた。後でシュノとヨナと合流するのだ。ヨナの仕事を手伝うとかではなく、ただ会いたいから会う。
ラズと雑談しながらシュノとヨナを待っていると、優お姉ちゃんが話しかけてきた。
「さっき何してたの? 水晶だよね、もしかして占いとか? 気になって」
「そうだよ。占いしていたんだ。でも結果は散々だよ。いつもは具体的な、人物だとか建物だとかテレビの映像のように見えることがほとんどだったのだけれど……色だけだったな」
「へぇ……何色だったの?」
「桃色とマゼンダ」
「ふーん。何を占ったの」
ジンはラズと目線で語り合った。話していいのか話したらダメなのかを。だが待てよと、ジンは思った。ラズやジン、夕紅達にだって話しているのだから、ジン達が優お姉ちゃんに話しても問題ないのではないかと。
というか、ヤジンの祖を探そうとする人は沢山いる。ツチノコやネッシーと同列に今、ヤジンの祖が並んでいるのだ。命令とかの話は伏せて話してしまおう。何も悩む必要などなかったと、ジンは優お姉ちゃんに話すことにした。
「ヤジンの祖」
「!!……あぁ、探す人多いもんね。……ジンちゃんは、いや一緒に居た二人に頼まれたの? ジンちゃん興味無さそうだもんね、そういうの」
「うん」
「そっか。……ラミューズ、私も占いしてくれない? 占い興味あるの」
「いいよ」
「ありがとう!」
笑う優お姉ちゃんはラズの隣に座り、占って欲しいことを話す。
「具体的なこと隠したいから言えないんだけど、抽象的でもいいかな?」
「構わないよ。そうしたら、映像も何故か抽象的になるけれど、それでもいいかな」
「すごい……連動するのね。うん。それでお願い」
「では、何を占いたいかい教えて」
「--昔ね、宝物を嫌いな人達に取られないように隠したの。七つの鍵が無いと開けられない箱に入れてね。鍵はもう壊れてるから、新しい鍵がないと開けられないの。だから……中身がどうなるのか占って欲しいの」
「あぁ。箱によっては中身がダメになったりするからね……。いいよ、少し待っていて」
「うん」
ラズの結果を待つ間にジンは、届いたスイーツを食べる。食べている途中に肩に手を置かれて、手の持ち主を見るとシュノだった。後ろにヨナがいる。ジンは詰めて座り、シュノとヨナも座った。
優お姉ちゃんも二人に気付いたみたいで、笑顔を向けていた。ヨナは笑顔で返して、シュノは真顔で無視した。
「なぁに、占い?」
「そう」
「ふぅん。桃タルト美味しかったぁ?」
「美味しかったよ」
「私、ゼリーにする」
「私もぉ」
ラズの占いが気になって、つい小声で話してしまう。ラズの集中を妨げてしまうのではないかと考えて。
注文を終えてしばらくすると、ラズが目を開ける。食べるとこに夢中になっているヨナとは違って、シュノはメニュー表を眺めている。
「--箱から鳥が出てきて、飛んでいったよ」
「……そう。ありがとうラミューズ」
「どういたしまして」
「……」
優お姉ちゃんは仕事に戻った。ジンはその後ろ姿を少しだけ眺めた。
ヨナとシュノが、占いをして欲しい頼んで一時間くらい占いをして遊んだ。ジンも占ってもらった。無くしたシャーペンは何処にあるのかを。リビングのソファの隙間らしい。確かにリビングで使ったなとジンは感心した。占いすごい。
客も居ないし、長時間利用してもいいと言われているので、空が暗くなるまで話して食べた。カフェと言ったらパスタ。みたいな連想ができるけれど、このカフェにもパスタとオムライスがある。
夕ご飯はそれらを食べた。ジオがオムライスに文字を書いてくれたのだけれど、とても上手だったし美味しかった。どうもジオが作ったらしい。凄い。
帰り道。ラズと別れてジンとシュノとヨナの三人でコンビニに寄ったら、コンビニの目の前の道から信一郎が歩いてきた。両手をダルダルのズボンのポケットの中に突っ込み、今日も雑に一個に括って飛び跳ねている髪。
目の前にいるのに歩きスマホをしていたから、ジンは信一郎声をかけた。
「何してるの」
「--え? 俺が歩いてるの、おかしい……?」
「迷子か。いつも通る道じゃないだろう」
「あー。それな。俺いつも土手の方通るから。……って! 迷子じゃないっ! 流石にこの年で迷子はないよ」
「私達これから、コンビニに行くけど信一郎も来る?っていっても目の前だけど」
「一個だけなら買ってあげてもいいわよぉ」
「まじ? 嬉しい。ありがとう」
コンビニに入っていくジン達。それぞれ散って欲しい物を持ってきたら、シュノが持つカゴに入れる。そしてレジに並んだ。信一郎は、も持ってこなかったので聞いてみたら、タバコが欲しいらしい。人の金で何買おうとしてるんだ。
一個買ってあげると言った手前断れず、買うことにしたシュノ。とても呆れた顔を信一郎に向けていた。可哀想。
「俺、バイトしてるの」
「あんな住宅街で? あぁそういえば若菜の家庭教師してたもんね」
「そうだけど、それとは別の仕事。家の掃除ね。俺の親が所有する家を、定期的に掃除してるの」
「へぇ、そんな事してたのねぇ。……掃除出来たんだ」
「シュノちゃん、俺掃除くらいできるよ……」
シュノの信じられないといった表情に、信一郎は落ち込んだ。
本当にそうかな。この前、仙が代わりに信一郎の家を掃除したが、とても汚かったと言っていたのを聞いたけどな。他人の家を掃除出来るけど、自分んちは掃除出来ないということか。
「信一郎が無職だから、仕事くれたんだね。優しい親だな」
「ジンちゃん! 俺フリーター! これでも一応バイトしてるの、他にもね」
「そうなの? 私すっかり今は無職だとばかり」
「ヨナちゃんまで……? 俺他のコンビニでレジ打ちしてるよ」
「何処の?」
「橋の下」
「あー。あそこ一番くじ以外では行かないなぁ」
「それな」
「ね」
フルボッコだドン。たぶん若菜達からも無職だと思われているよと言いたくなったジンは、言わない決意をした。でも少し考えてみると、要らない決意だった。
「……たぶん若菜達からも無職だと思われているよ、信一郎」
「えっ!? まじかよ……」
「バイト先に顔見に行くね」
「……うーん。分かった。待ってるよ」
「シフトいつ」
「俺、土日の夜勤」
「……ジン行けないじゃん。自撮り送って」
「ははっいいよ」
レジが空いてお会計をする。シュノに冷たい視線を向けられながらも、信一郎は気にせずタバコを選んだ。コンビニを出ると、ヨナが二人で分けれるアイスを買っていたので片方を信一郎に分けてあげていた。
「一個あげるね」
「ありがとう」
信一郎と別れて、ジンの家の前に行ったらヨナともバイバイした。姿が見えなくなったら手を振るのを止めて、家に入る。秒だった。妖怪の身体能力は凄い。
ジンがシュノより先にお風呂に入っていると、ヘビが入って来たので水をかけてやる。楽しそうだったので、タライに水を貯めて風呂に浮かべた。その中にヘビが入ってきて、泳いで遊ぶ。
「新作のパンケーキが売ってたから、買っておいたよ。テーブルの他のパンと一緒に置いてあるからね」
「ぴっ! ぴぃぃ」
ジンの言葉を聞いて嬉しそうに目をキラキラさせて、お風呂の中に豪速球で入水してきたヘビ。かなり高い水飛沫が上がり、頭から水を被ることになった。
金魚の姿になり、お風呂の中を悠々自適に泳いでいた。金魚ってお風呂の温度大丈夫なのかなと一瞬思ったが、ヘビの変化なので大丈夫かとジンは納得した。
最後にシャワーを浴びて、脱衣所へ。ヘビをタオルでくるんで、自分の水気も取ってから早着替え魔法で着替える。そうしたら、ヘビを抱えてリビングへ向かう。
髪をシュノに乾かして貰う。ジンはその間にハンドクリームを塗ると、桃の匂いがした。桃の匂いがするハンドクリームだった。桃、桃、桃。
「……桃って美味しいよね」
「えぇ? ごめん、ジン聞こえなぁい!」
ドライヤーの音でシュノには聞こえなかったから、聞き返された。別にシュノに話した訳ではないから、ジンは黙ってテレビを見た。
ヘビがが手の匂いを嗅いでいたから、ヘビの全身にハンドクリームを塗ってやった。全身桃の匂いがするヘビの出来上がりだ。
ドライヤーが終わり、ヘアオイルを塗りながら髪を梳かした。この匂い、桃だ。ヘアオイルも桃の匂いがする。なんなんだろうか、今日は桃づくしだ。
匂い付きの物はよくあるけれど、桃の匂いは臭いと感じないから好き。でも時々キツイ桃の匂いもある。ジン的には無香科が好きだ。
シュノは匂い付きがいいらしく、ジンにも匂い付きの物を渡そうとしてくる。そういえば、この前遠くのショッピングモールでいい匂いだと、桃の匂いを褒めた気がする。
なるほど、だからこうなったのか。謎が解けた。
シュノによる全てのケアが終わると、時間は八時過ぎ。シュノはお風呂に入りに行った。ジンは悩んた。テレビを見るか、寝るか。少し瞼が重い気がするので、寝ることにする。
立ち上がって移動する。リビングを振り返ると、白玉に自身の匂いを嗅がせているヘビの姿が見える。白玉にもハンドクリームを塗ってあげよう。ジンはハンドクリームを持って白玉の手を取った。
ジンは、白玉を転がし仰向けにする。すると白玉の腹の上にヘビが乗ってきた。ハンドクリームを少し出して、キョトンとする白玉の四足全部の肉球に塗る。
「どうだ」
肉球の匂いを嗅ぐ白玉と、ヘビ。
「わんっ!」
塗ったばかりだからベタベタするので、仰向けのまま楽しそうに返事する白玉。ヘビの体にはホコリは付いていなかったけれど、白玉の毛が沢山ついていた。
ジンはよしと頷いて立ち上がり、今度こそリビングを後にして眠りについた。




