第11話 ヤジンの祖探し。
ヤナシに出会って一秒、殺せるならば--ぶっ殺せ。これが、この世でヤナシに対する扱い。殺せるならば誰だって殺してよしともそれているヤナシだが、それが出来たら苦労しない。
現実では逃げる事で精一杯。ヤナシと対峙して命があれば幸運とされていた。
そんなヤナシを討伐する為、各国はヤナシ討伐軍を編成した。
ヤジン--ヤナシの遺伝子を人間に入れて生き残った人間の事。ヤジンになると耳が尖り、獣人よりも遥かに頑丈で力が強くなって動きが早く、怪我が治癒する速度も速くなる。
最後に平均寿命が五百年と、人類の中で一番の長寿になる。だがこれにも例外がある。
現状ヤジンには二種類ある。ヤナシの攻撃を受けた時にDNAが体に入り込みヤジンなった天然ヤジンと、ヤジン同士の間に生まれた養殖ヤジンだ。
天然ヤジンは養殖ヤジンとは違い寿命が長く更に五百年足した、千年の寿命なのだ。
天然養殖関係なくヤジンはヤジン管理連盟によって管理されていて、ヤジン討伐軍は基本管理されているヤジンから構成されている。
強ければ獣人や人間も入隊できるが、数は少ない。
日本のヤジン討伐軍は、市区町村で細かく部隊が配置されている。隊員は人口が多いほど増えていくが、最低十人から最大百人と振り幅が大きい。
五月中旬、犬目区のヤナシ討伐部隊の隊長が数人の隊員を伴って、花守家を訪れていた。
目的は花守家の四男、『花守夕紅』に会うこと。ちなみにアポ無しなので、出会えるかは分からない。花守家の五人兄弟は結構忙しいのだ。
『はーい。どのようなご用件でしょうか』
インターホン越しに、菊咲家の散夜が対応する。
「こんにちは、散夜君。アポ無しで申し訳ないんだけど、夕紅君居ますかー? 会いたいでーす。一応仕事関連ではあるんだけど、プライベートで来てまーす」
『夕紅様ですね。運がいいです。今日一日は夕紅様はお休みですよ! どうぞお入りください』
「やったー! お邪魔しまーす!」
「……お邪魔します」
「おじゃましまぁす」
「--夕紅さん可哀想……、お邪魔します」
門が開くと、ヤナシ討伐部隊の隊長の『桃川吉流』が中に入り、その後を隊員の『犬牙和人』、『鳥島団子郎』、『猿連備昭』の三人が続いた。
「いつ見てもすごいなー。自動だぜ? 門の開閉」
「重そうな門」
「わんわーん」
「雑だな」
玄関には散夜と代って、昼育が四人の出迎に来ていた。
花守家は、皇居の周囲を囲う花を守り花を使って結界を張る仕事をしている。
そんな花守家の当主どころか兄弟達も実家に住まわず、八生に住んでいる頭が痛い状態。
元々花守家に使えている色藤一族と菊咲一族、それと日暈が雇った者達がいるし、そもそも花守家の五人兄弟の全員が強いから別の所に住むことを許さている。
だからといって、縁もゆかりも無かった八生に住まわせるほど日本は優しくない。ということで、ヤナシがほとんど無い犬目区のヤナシ討伐部隊に花守家を守る役割が与えられた。
花守家周辺の巡回を増やし、犬目区から出て他所へ行くまでの護衛をしている。犬目区の討伐部隊員は十人。数人減っても被害ないし暇なので問題無し。
花守家と部隊の仲は良好で、かなり気安い。なのでこうやって遊び、ではないが急にやって来ても中へ通されることのほうが多い。
「こんにちはー」
「こんにちは。夕紅様は人前に出れる格好ではないので、しばしお待ちください」
「どうしたの?」
「先程、頭から墨を被りました」
「ははは。それは大変だ」
「こちらの茶菓子、食べていいですよ」
「うおー! やったー! ありがとう」
「吉流、食べ過ぎないでよ」
「俺は、ゲームでもするかなぁ」
「わわーん。俺も」
昼育に広間へ通されて、各々寛ぎ始める桃川達。
お菓子を食べてお茶を飲む桃川と、畳の上に寝転がる鳥島。何度も遊びに来るものだから、花守家のWiFiを登録して待ち時間をゲームして潰す、猿連と犬牙。自由だ。
数十分後、頭から墨を被ったからお風呂に入っていたであろう夕紅が、アイス片手に広間へやって来た。
「待たせたね。アイスあるけど食べる?」
「食べるー!」
「そこまで言うなら、頂きましょう!」
「言ってないよ、何が聞こえたの団子郎。俺も貰う」
「食べる、わーん」
「徳雅」
「うん、ほら。受け取れよ」
「やほーい」
アイスを四人に渡すは、夕紅の護衛兼付き人である『紫藤徳雅』。桃川達よりもアイスを食べることを優先している夕紅に代わって、同じく夕紅の護衛兼付き人の『緑藤智翠』が桃川達に用件を尋ねる。
「それで、ただ遊びに来た訳ではないようですが、どうされましたか」
「わーん。いやー暇で遊びに来たのもあるんだけど。占いして欲しくて。仕事でさ、見つけろって言われてるのがあって。失せ物探しみたいな」
「なるほど」
「……えー。そんな得意じゃないんだけどなぁ。占い」
「そこをなんとか! ヒントがあればいいなーって思って……ヒントだけでも!!」
「いや、クイズじゃないんだから。占って探す手がかりが出てくるとは限らないけど、それでいいなら一応やってみるよ」
アイスを置いて、頭を下げて頭と同じ位置で両手を合わせて懇願する桃川に、断る理由もないので承諾した夕紅。
「--それで? 何探してるの」
夕紅の質問に、桃川はキラキラ笑顔を浮かべて答える。
「ヤジンの祖!」
「--無理だろっそれ! 三千年近く誰も見つけられなかったのに、占い程度で見つかるわけないよ!!」
「ヤジンの祖ですか……私も夕紅様に同意です」
「残念、諦めろ」
「えー! 徳雅は占いとか出来ないの!?」
「バカ。俺は諦めろと言っただけで、夕紅様が占うことを辞めるとは言っていない。早まるな」
「あ、そっか」
こんな調子の桃川が、この場で一番年上だなんて言ってもきっと信じてくれる人は少ないだろう。ヤジンは長寿、しかも桃川は天然ヤジン。そんな桃川の年齢は、二百六十五歳である。
桃川達四人の中で年下なのが、五十三歳の鳥島だ。
ちなみにヤジン討伐軍に、ヤジンが入隊するには三十歳からと決められている。なぜならヤジンの成人が三十歳だからだ。
という訳で、アイスを食べ終わってから占いの為に場所を変えた六人。
一切期待はしていないが、一応占いをしてみる。ヤジンの祖に関する情報がマジのガチでちょぅとしか残ってないので、何とか頑張る夕紅。
結果は当然、何も分からなかった。
「やっぱり何も出なかったよ」
「そっかー、残念」
「そもそも、何故ヤジンの祖をお探しになられているのですか?」
智翠の疑問に、猿連が答える。
「--ヤジンの祖探しは今に始まったことじゃない。表立って探していなかっただけで、ヤジンの祖が封印されてから二千年以上ずっと、探していた」
「皆が一度は探す存在だ。戦闘狂とか特に」
猿連の後に鳥島が続き、桃川が口を開いた。
「最近、ヤジンの祖よりも前に原初のヤジンがいたんじゃないかってテレビのニュースでやってたの見た? もし本当なら、厄介じゃん。危惧してんだよ、上はさ。管理下に無いヤジンがいるかもしれないって事に。たった一人ならまだしもめっちゃ多かったら困るーって」
「はぁ……ヤジン最強の祖を使いたいって事か。それが無理なら、当然討伐か」
「……うん」
三人の連携した説明に、頭が痛いといったように頭を抑えた夕紅が、ため息を吐いて言った。
「ヤジンの祖に関して分からないことが多い。でもただ一つ分かることは、ヤジンの祖は被害者だ。名前を変える前のヤジン管理連盟のな。そして、ヤジンの祖を守る為に誰かが封印した。それを分かっていない連中ではないと思うのだが……」
「上も意見が分かれていてね……探さずそのままにしておこう派と探して味方につけたい派、探して味方にせずに討伐する派の三つに別れているよ」
「なんでそうなるんだよ……。最強だってずっと謳われているのに、しかも治癒のスピードが桁違いなんだろ? --勝てる算段あるの?」
「な、い!」
「馬鹿だ……」
「どの組織でも馬鹿な上はいるさ」
そのままにしておけばいいものを、現在に存在しているかも怪しい原初のヤジン達に怯え、現在進行形で封印されて脅威の欠片すら無いヤジンの祖さえも脅威とみなし、討伐しようだなんて。
探すな、味方につけようとするな。自らを封印する者なんて夕紅が知る限りは居ない。夕紅出なくても考え付く。
組織が封印場所を知らない。これから分かることは、ヤジンの祖を封印したのは組織ではないということ。
ヤジンの祖が本当に被害者ならば、いやこれについては疑う必要は無い。なぜなら、この世には日本に限らず女狩りの歴史があるからだ。これの発端がヤジンの祖の誕生であることは、皆が知っている事実。
封印された理由なんて、分かりきっている。
「はぁ……当事者ではない俺達は憶測でしか言えないけど、外れてないと思う。--成人してない女の子を守る為にした封印を、解こうとするなよなぁ」
そう言って、頭をかいて畳に寝転んだ夕紅。他五人も夕紅の発言に同意していた。
「--起こされた先が数千年後の、家族に友達、親しい人も居ない未来だなんて……可哀想です」
「ヤジンの祖のデータが何も残っていないのが何よりも強い証拠、封印から目覚めた時に恨んでいない確率はどれくらい低いと思う?」
「俺なら組織、今の管理連盟の連中を当時を生きる者が居ないとしても……ぶっ殺すね」
ズドーンとした雰囲気が部屋を包み込む。そりゃそうだ。未だ続くデリケート過ぎる問題のど真ん中に居るのが、ヤジンの祖なのだから。
とはいえこのまま沈んで一日が終わるのは嫌だ。数分後気を持ち直した六人は、広間に戻った。用事は済んだので後は、遊ぶのである。
「なぁー! マ◯カーしねー?」
「賛成〜」
「ちゃんとみんな、ゲーム機持ってきたから」
「夕紅様、俺部屋から持ってきます」
「分かった」
ワイワイガチャガチャ。電源を入れてカセットを入れ替えたり、ゲームをする準備を始める。
すると、足音が聞こえてきて開いていた障子から、青青と雛守が見えた。二人の影から二人よりも小さい人影がひょっこり現れた。
青青のもう一人の護衛である『剣 常日』だ。
「ふんっゲームか、手土産のひとつでも持ってこい。無礼者共め」
「さーせん」
「ごめんなさーい。あおちゃーん」
「あおちゃん言うな! お前達本当に、無礼! 行くぞ、お前達」
「はい! あ、冷蔵庫に作った焼き菓子が入ってるので、食べていいですよ〜」
「……」
「まじ!? ありがとう! 雛守!」
「頂きまーす」
「嬉しいわん。美味しいお菓子わんわん!」
どうやら青青達は出かけるらしく、玄関へ向かっていった。雛守が作ったお菓子を食べていいと言われたので、智翠がお菓子を取りに行った。
「彼、本当に無口だよね。喋ってるとこ聞いてみたいわ」
「分かる〜」
彼とは常日。先程はペコっとお辞儀して青青の後を着いて行った。
「そういえば、ジン経由で知り合いになった魔法使いが居るんだけど」
「……え? 魔法使い?」
「魔法使いって居るの? ていうか、魔法あるの??」
「すごい!」
「わんっまじ?」
「まじだ」
自身のゲーム機を持って戻ってきた徳雅が肯定する。花見で占いをよくするんだと聞いて夕紅と話が盛り上がっていたことを、話す。
「へぇ。星占い聞いた事あるけど、魔法使いもするだ」
「陰陽師だってアニメのように戦闘ってよりも占いがどっちかっていうとメインだぞ」
「そうなの?」
「戦えなくもないですけど、陰陽師の必須科目みたいなものですよ、占い」
「へーすげぇ」
ポンっと、桃川が手のひらに拳を作った手を乗せて、頭の上に電球が出てきそうなリアクションをとった。
「なるほど、その魔法使いに占いを頼んでみるってことか!」
「結果変わらないと思うけど」
「確かに」
「あちゃー。そうだなー」
「まぁ、一応占ってもらうのもありなんじゃない?占星術じゃないし、俺の」
「だなっ!」
ということで、ラズに占ってもらうことがこの六人の中で確定した。夕紅はラズとは連絡先を交換していないので、ジンに連絡を入れた。
「『桃川達が占いして欲しいって言ってる』っと。これでよし」
「俺もジンに連絡しとこっと」
「あ、俺も連絡したんだけど、いいって」
「早い! 遅れた、俺入力途中だったのに!!」
「ジンに迷惑。一人で十分」
「くぅーん」
桃川達はジンと連絡先を交換していたので、夕紅合わせて五人から連絡が来て、律儀に全員へそれぞれ言葉を考えて返した。
『おけ。』『いいよ。』『グッドスタンプ』『わかった。』『ん』
ちなみにジンはラズに許可取っていなかったが、ラズは基本暇なので返信の後に聞いたら無事OKが貰えた。
「俺達暇だから直接命令来たんだけどさー」
「あーね」
「未鷺区の方も俺達みたく暇じゃん?かなり」
「だね」
「だから合同で探すんだー」
「桃川達の話でしか知らないけど、青と姫と比べると実際どれくらい姫なの?」
「姫度合いで言えば、アオ>姫=竜姫だな」
「なるほど。そんな感じか」
「わん。プライドが高い。よく吉流に噛み付いてる」
「こんなんでも、吉流は二百超えてるから年下の竜姫には大人の対応してる」
「ふーん」
「こんなんでもって何!? 」
犬目区の右隣の区、未鷺区。ここも犬目区のようにヤナシの被害が少ない。でも犬目区は“ほとんどない”だけど未鷺区は“少ない”である。
犬目区に近付く程ヤナシの出現が無くなってくるので、犬目区に何かあるのではないかと未鷺区ヤナシ討伐部隊の隊長である『乙海竜姫』は勘繰っているのだ。
八生は犬目区の端、未鷺区のすぐ隣にある。会おうと思えば直ぐに未鷺区のヤナシ討伐部隊に会える距離。ヤナシの出現が無いからといって、桃川達や乙海達は巡回を怠るわけにはいかないのだ。
でもまじで暇な日々の方が多くて、二区にヤジンの祖の捜索を桃川達を主として命令されている。
暇なのはいい事なので、命令を遂行する桃川達であった。一応言っておくが桃川達はここで遊んでいるけれど、他の隊達が巡回しているので問題無いし、何かあれば直ぐに出れるように仕事着を四六時中着ているし、他区に応援しに行くこともある。がんばれー!がんばれー!の応援ではないぞ。
とまぁその後、日が暮れるまでゲームで遊んだりした桃川達は、夕飯まで花守家で頂いて帰った。
他の隊員達も花守家の住人達とは仲がいいので、巡回ついでに立ち寄ってお茶だけのんで行くこともある。
仲良しなのだ。
ヤジンである桃川達と違って獣人と人間の花守家の住人達は、先に寿命が来て死んでしまう。だから、気が合う人達とは仲良くなろうとするし、仲良しであり続けたいと努力する。
せっかく得た縁を、大事にしよう。
誰だって、強くても明日死んでしまってもおかしくないから。古い縁だけ繋がっていてもいいけれど、新しい縁は必要だと思うから。だって、その方がきっと人生が豊かになる。
仲良しになりたい。葬式に呼ばれるくらい。
呼ばれたならば、全力で泣こう。死を惜しみもう話せないことに嘆き悲しみ、寂しさに泣こう。そして、出会えてよかったと喜び泣こう。
最後には、笑顔で送ろう。
大事な人達の次の生があるならば、それが幸せなものになるようにと祈りを込めて。
ヤナシ討伐部隊は、他のヤジン達よりも多くの死を見るから、人付き合いが大好きな者達が多い。
「だからどうか、ヤジンと仲良しになってください。怖くないよ。怖いのは、いつだって人間の方なんだから」
どこかの部屋で、ヤジンを恐れる人達に向けた『ヤジンは怖くないよ』運動をしている、ヤジン管理連盟の一人が思いが溢れて独り言をこぼした。
髪とおなじ黄色の耳をピコピコ動かして。




