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第三話 焼酎のミルクティー割り

大学で女の子からこれ行きませんかと誘われて、絵の展示会のチケットを渡された。古い画家の絵らしく僕でさえどこかで見た事あるような装飾的な女性の絵がプリントされている。

髪飾りのようにたくさんの花を髪に付け、大きな麦のようなものを持つその女性の顔は、なんだか最近よく見たことがあるような気がしたけど、誰だったかまでは思い出せなかった。

「ごめん、絵とかよくわからないから、他の人と行って」

女の子は悲しそうな顔をしていたけど、正直今初めてしゃべったような子と一緒にどこか出かけたいとは思わない。それにはっきり言ってこういう事は少なくない。断るのもすっかり慣れてしまった。

僕は気を取り直して居酒屋、もといパブへ向かった。

ドアを開けると今日は出勤時間が遅いせいか、すでに7割程度席が埋まっている。

カウンター席に座った白人で丸顔のご老人が大将相手に大きな声で喋っていた。

安っぽいウチの灰皿には不釣り合いの太い葉巻が煙を上げている。

「ワシは若い頃からそれはもう勇ましく戦ったもんだ。怖くなかったのか? だって? 戦争なんてものは笑顔で楽しみながらやるゲームだよ。しけた顔をしていたら勝てるものも勝てん」

なかなかにとんでもない事を言っている。僕は一瞬で好きになれないという判断を下した。

「しかし日本というのはこんなに美味い料理があるもんなのかね」

老人の前には焼き鳥の串が数種類置かれていた。

「昔両親が日本に旅行に行ったことがあって、持ち帰った写真があまりに美しく、それから感心はあったんだが、詳しく知ろうとまではしてこなかった。だが、日本がこんなに美味いなら、もっと早く知るべきだったな」

老人はガッハッハと笑いながら、慣れた様子で串から鶏肉をぐいっと外して食べる。

「しかしあれだな。料理は美味いがビールが今一つだな。コクや苦味、香りも薄い。まあこれはこれで飲みやすいとも言えるが、ワシには物足りないな」

そうだろうか。ウチのビールは大手メーカーの一般的な人気のあるものなのだが。僕自身、薄いと感じた事はない。

すると大将は僕を呼びつけ、奥の冷蔵庫から午後の紅茶を持ってくるように言った。

渡すとグラスに氷と焼酎を入れ、おもむろにミルクティーを注いだ。

「じゃあこんなのどうです?イギリスの方ならミルクティーお好きでしょ?」

そう言いながら、老人の前に置く。

老人は一瞬たじろいだ後、

「紅茶を冷やして飲むのか?日本は変なことをするんだな」と言った。

ところが一口飲んだ途端笑顔になった。

「なんだこれは。とても美味いじゃないか。これにはアルコールが入っているのか?」

「日本の焼酎という度数の高い酒が入っていますよ」

それを聞いた老人は驚いた顔になった。

「度数が高い? このドリンクはアルコール特有の味も香りも綺麗に隠されているぞ! とても飲みやすいが、気をつけないと酷く酔っ払ってしまうじゃないか。日本ではこんなレディキラーカクテルがあるのだな、悪い国だ」

老人は楽しそうにカラカラ笑って紅茶割りを楽しんでいた。

老人は立て続けに紅茶割りを五杯も飲み干すと機嫌良く帰って行った。

「イギリスが戦争してたのってどれくらい前ですかね」

大将に尋ねたが、大将もよくわからないようだった。

「さあ? 昔取った杵柄なんじゃない? 昔の自慢するなんておじいちゃんあるあるでしょ。あの人たぶん政治家だから、自慢しても周りが持ち上げてくれてたんじゃない?」

「えっ政治家? そう言ってたんですか?」

「いや、言ってないけど言動でなんとなくね。夜の仕事長くなるとなんとなくわかってくるもんなんだよ」

「へえ…」

今日は客の引きが早く24時前には全員帰ってくれた。店の片付けをしていると大将が、

「ねえ、向井くんも紅茶割り飲まない?ちょうど一杯分だけ午後ティー残ってて」というのでいただく事にした。

飲んでみると確かにものすごく飲みやすく、アルコールが入っていると言われなきゃわからない。

「すごく美味しいです。でもウチのメニューに無いですよね?紅茶割りも午後ティー自体も」

そう言うと、大将は苦笑いをした。

「今日買い出し行ったらすごく安売りしてたからたまたま買ったんだ。紅茶割りが飲みやすいってのは前にバイトしてた大学生から聞いてたんだけど、自分では飲んだこと無くて……。でも気に入ってくれたみたいで良かったよ」

……まあ、確かに大将はあまりお酒が強く無いから飲んでないのもわからなくは無いけど、どんな味かも知らずにあんなに堂々と客に出せるなんて、案外この人大物なのかも……。

そんな事を思いながら、僕は残った紅茶割りをぐいっと飲み干した。

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