第二十一話 カキフライ
いつだったか絵里子さんと飲んでいた白人紳士が久しぶりにまた来ていた。
前回でよほど気に入ったのかまたしてもカッパ巻きを食べている。本人には裏メニューだなどという自覚はないのだろう。
前回も説明したが、ウチのカッパ巻きはきゅうりを千切りにしたものを巻いた細巻きだ。普通の四つ切りのきゅうりより手間がかかっている分、めんどくさいから巻きたくないと言っていた大将を思い出して、お気の毒に、と思った。
「ウチは祖父さんや叔父たちは成功者だったのだが、父だけはパッとした出世はできず、挙句アルコール依存症になり精神病院の厄介にまでなったんだ。だから私は酒など飲むまいと子供の頃は誓っていたのだが、いざ大人になると飲んでしまうものだな」
そう言いながら彼はあっはっはと豪快に笑うのだった。
いかにも美味そうにウィスキーを飲んだ。
そんな強い酒をぐびぐび飲んで、あんたもまた父親みたくアルコール中毒になるぞと思った。
それからメニューに目を落とした。
「このカキフライというのはオイスターを揚げたものかね?」
そんな質問を受けて僕は、ああまたかと思った。エビフライの時も学んだが、このパン粉を付けて揚げる〇〇フライというのは、日本にしか無い料理だという事が多いらしい。
知らないけど、たぶんカキフライもまた日本独特の料理なのだろう。
「あ、はい。そうです。パン粉を使った衣を付けて揚げたものです。外はサクサク、中はジューシーでとても美味しいですよ」
「そうか、オイスターか!いやはやオイスターというのは保存が難しく、高級店でしか食べられないものだと思っていたが……こんな価格でいただけるとはな」
うん、ウチのは冷凍食品だからね。価格設定は安く抑えられている。
「では白ワインをもらおうか」
彼がそう言うと、すかさず大将が口を出した。
「カキを食べられるなら日本酒がオススメですよ。確かに白ワインにカキというのは定番の組み合わせですが、どうも口の中が生臭くなっていけない。ところが日本酒だと口の中の生臭さを綺麗さっぱり洗い流してくれるんですよ」
「いやいや、オイスターには白が最高だろ。とはいえそこまで言うなら試してみようじゃないか。にしてもオイスターと白ワインはかの有名な豪華客船でも出されたメニューなんだぞ?」
「豪華客船?」
「そうだ。私はあの船の事故で友人を亡くしてなぁ。何が絶対に沈まないだ。やはり世の中には絶対などないのだな」
そうこうしているうちに上善如水とカキフライが届いた。
彼は口髭を触りながら、カキフライを摘んだ。サクっという音を立てて口に入れられる。目を細めて味を堪能している。そして上善を口に含むと今度は目を見開いた。
「おお!確かに。オイスターの生臭さを洗い流してむしろ風味をふわりと豊かにしてくれている。ううむ、私はオイスターには白ワインだと思い込んでいたんだが、やはり絶対など無いという事だな」
彼はカキフライを食べながら絵里子さんを待っている様子だったが、残念ながらこの日絵里子さんは現れなかった。
それにしてもカキフライは日本酒に合うのか。あの紳士の美味そうな顔を見ていたら、僕も試してみたくなった。
「大将、今日の賄いはカキフライと日本酒にしてください」
「カキフライはともかく、賄いで酒を出す訳ないだろ?飲みたかったらお金払いなさい」
ちぇっ。ただ酒失敗かぁ。




