第二十話 親子丼
「あっはっはっは」
さっきからカウンターに座ったふくよかで茶褐色の髪をした白人中年女性が他の客たちの中心人物になっている。
「私は兄と弟、妹の四兄弟に生まれたの。それぞれ父が違ったり母が違ったりいろいろ複雑だから誰が誰のペアだったか忘れちゃったけど」
そんないい加減な話あるか?と、僕はテーブル席を片付けながら思う。
「兄弟がたくさんいたからってのもあるだろうけど、ウチは貧乏だったからね、将来はお金持ちと結婚したいってそればかり思っていたわ」
彼女は確かに中年太りはしていたが、パッチリとした大きな目や形のいい鼻やぽってりとした唇を見る限り、若い頃はだいぶ綺麗、というよりかわいかったんじゃないかと思った。
「でも出会ってしまったの。愛する旦那のJJに。私JJの事はとても好きだったけど、彼は私たちと同じくらい貧しかったの。だから彼と一緒になるのはすごく迷ったわ。でも結局、愛する人と一緒にいる方が幸せと結婚する事になったの」
彼女は先程フリードリンクにハチミツレモンがあるのを見つけて、これにジンを入れてくださる?とオリジナルのカクテルのようなものを注文して、すいすいと飲んでいる。
「でもそのJJがまさか鉱山の岩盤にヒビを入れる新技術を発見して大金持ちになるなんてね、私ってついてる女ねぇ」
また他の客の笑いを誘っている。少し見ているだけだが、彼女が人を惹きつけるのはなんとなくわかる気がする。
「結局いろいろあってJJとは長いこと別居していたけど、彼と一緒になって私の人生が豊かになった事だけは確かね。それも金銭的な話だけではなくてね。今はもう、彼は亡くなってしまったけど、あんなに立派な人はいないわね」
彼女は少しだけ寂しそうに笑った。
「さて、おしゃべりしたら、お腹が空いたわ。ねえ、あなた。何かしっかりした食事はあるかしら?」
僕は大将と目配せをした。そう言えばさっき、今日は鳥串があまり出ていないと話したばかりだ。それなら……。
「では親子丼などいかがでしょう。鶏肉を煮て卵で閉じたものをご飯にかけた料理で、優しい味がして美味しいですよ」
そう説明すると、彼女は注文をくれた。
料理が届くまで彼女はもう一杯ジンのハチミツレモン割りを頼んで飲んでいたが、内心親子丼には合わないよな、と思っていた。
親子丼ができると口に含んだ彼女は
「これ美味しいわね。卵がふわふわでとっても柔らかい」
と、言った。
それから少し首を傾げて疑問を口にした。
「でも親子丼って不思議な名前ね。なんでそう言うのかしら」
「鶏肉、つまり鶏と卵が親子関係にあるからですよ」
僕がそう説明すると、彼女は一瞬目が点になった後爆笑した。
「あーはっはっは。鶏と卵が親子だから親子丼って、日本人っておかしな名前の付け方するのね。それに子どももろとも親子を食べるなんてなんだか残酷だわ」
するとそれを聞いていた大将から補足が入った。
「確かに鶏肉と卵が親子だからという説が一般的ですが、他に親が自分の分の鶏肉を子どもに食べさせて、親子の絆が深まったからという俗説もあるにはあるみたいですよ」
すると彼女は急に真顔になった。
「……私も子どもが二人いるんだけど、JJが亡くなった時遺産の分配で揉めてね、何年も争うはめになったわ。あれから一度も会ってもいない。私も親子丼のようにお金を譲ってやるべきだったのかしら……でも私にだって生活があるし、また船旅にも出かけたいしね……」
ウチはもちろん資産家ではないので、親が死んだところで遺産争いなどなるはずもないが、お金持ちはお金持ちで大変なんだなぁと思った。でもやっぱりお金は欲しいよね?最近忙しいんだし、大将バイト代あげてくれないかなぁ。




