第十話 オムライス
店をリニューアルしてから白人のお客さん(恐らく英国人が多い)が爆発的に増えた。が、今日はめずらしく黒人のお客さんが来てくれていた。
純粋な黒人ではなく白人とのハーフなのか、肌の色はそこまで黒くない。精悍な顔つきでなかなかにハンサムだ。
「さて、お腹がかなり空いてるんですけど、何かおすすめはありますか?」
柔和な笑顔でそう尋ねられると、こちらまでほっこりしてしまいそうだ。
「そうですね……おつまみ系はどれもおすすめですが、しっかり食べたいならオムライスはいかがですか?」
「オムライス?オムレツではなく?」
青年はキョトンとした表情で尋ねる。
「オムライスは鶏肉やタマネギなんかと一緒に炒めたご飯にケチャップを絡め、卵で包んだ料理です。今はトロトロの卵を上に乗せるものや、ドレスのように華やかな卵を纏わせるものもありますが、うちのは昔ながらの薄焼き卵で包むタイプですね」
すると青年はメニューに目を落とす。
「でもそんな料理、メニューには……」
「実はお得意様にしか出してない裏メニューなんです」
そう答えると、青年はまたにっこりと微笑んで、それをお願いします。と言った。
料理を待つ間、店内で流れるBGMに耳を傾けていた青年は、自然にテーブルの上を叩いてピアノを弾くような仕草をしている。
左手も滑らかに動いているところを見ると、普段からピアノを弾く人なんだろう。
彼はオムライスが届くと物珍しそうにいろいろな角度から眺めていた。
改めて日本では当たり前のメニューでも海外の人には珍しいメニューって多いんだなぁと思う。
上にかけるようにケチャップのボトルを渡してやると、彼はきょとんとした。
「上に好きなだけかけてください。ただ中のご飯も味がついているので、あんまりかけるとしょっぱいですよ。ちなみに日本では食べる相手に対する言葉や好きな言葉を書いたりして遊びます」
すると彼は目をキラキラさせて、ケチャップで『Compassion』と書いた。
「おぅ、ちょっと失敗しました」
確かにちょっとoが潰れてaっぽく見えていたが、そう言いながらもにこにことスプーンを動かし、子どものような表情でオムライスを平らげたのだった。
「オムライスも海外には無いんですかね」
そう言うと大将は
「無いんじゃないかな?オムライスは煉瓦亭ってお店のまかないとして始まったって説やパンヤの食堂ってお店が考案した説があるけど、いずれにせよ日本発祥みたいだ。それにオムレツにライスでオムライス、なんてバリバリ和製英語だしね」
と言った。何気に大将は料理のルーツなどにも詳しい。
僕は今聞いた知識はたぶん、一度も使われる事なく忘れてしまうだろうな、と思いながら
テーブルを片付けた。




