プロローグ
太古の昔――。
創世の神は、何もなかった大地に生命を芽吹かせ、やがて「人間」という種族を生み出した。
人間は弱く、寿命も短い。
しかし彼らには、ほかの生き物にはない知恵と、無限の可能性が与えられていた。
神は信じていた。
人間ならば互いに手を取り合い、いつか豊かな世界を築いてくれるだろう、と。
だが――その願いは、あまりにも早く裏切られる。
知恵を得た人間は、富を求め、土地を奪い、権力を欲した。
欲望は争いを生み、争いは憎しみを生み、やがて世界各地で絶え間ない戦が繰り返されるようになった。
自らが生み出した人間の愚かさを嘆いた神は、彼らを戒めるため、新たな種族を創造する。
強靭な肉体。
膨大な魔力。
人間を遥かに凌駕する力を持つ者たち――魔族である。
神が望んだのは、互いに競い合い、高め合う世界だった。
人間は魔族から強さを学び、魔族は人間から知恵を学ぶ。
そうして両者が共に成長することを、神は期待していた。
しかし、その思惑もまた外れる。
生まれながらに圧倒的な力を持つ魔族は、人間を対等な存在とは認めなかった。
彼らは国を焼き、街を滅ぼし、人間たちを容赦なく蹂躙していった。
このままでは、人間という種そのものが滅びてしまう。
そう悟った神は、世界各地に巨大な地下迷宮――ダンジョンを創り出した。
そして強大な魔族たちを、その最深部へと封じ込めたのである。
こうして魔族の脅威は地上から姿を消し、世界は再び人間の手に戻った。
それから、長い年月が流れた。
人々は国を築き、魔法を発展させ、かつてない繁栄を手に入れた。
やがて冒険者と呼ばれる者たちが、世界各地に眠るダンジョンを次々と発見していく。
ダンジョンには、凶悪な魔物が棲みついていた。
同時に、古代の財宝や希少な素材、強大な力を秘めた魔道具も眠っていた。
命懸けで迷宮へ挑み、攻略した階層や討伐した魔物によって評価を得る冒険者たち。
その実力はランクによって示され、高ランクの冒険者には、富も名声も約束された。
誰もが夢見た。
いつか高位の冒険者となり、人生を変えることを。
だが、人々はまだ知らない。
自分たちが富と名誉を求めて踏み込むその迷宮が、かつて神によって魔族を閉じ込めるために創られた牢獄であることを。
そして、その世界最恐と恐れられるダンジョンの最深部で――。
ひとりの人間の少年が、魔物たちに囲まれながら育っていることを。
これは、人間に捨てられ、魔族に愛された少年が、やがて世界の常識を覆していく物語である。




