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アニマルメモリーズ  作者: syun
一章 転生?
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六話 試み

寝不足と吐き気でボロボロになりながらも、俺の脳は狂ったように回転を続けていた。

ベランダを埋め尽くす、あのギザギザした緑の葉。大麻の栽培。

この男は犯罪者だ。それも、出来心で手を染めたというより、この部屋を丸ごと栽培工場に改造するほどの、引き返せない領域にいる確信犯。

普通なら、関わらずに逃げ出すのが正解だろう。だが、今の俺はただの猫だ。玄関のドアを開ける鍵すら持たない、この部屋に監禁された無力な畜生。もしこの部屋に警察が踏み込んできたら、大麻と一緒に俺もどうなるか分かったものじゃない。

(それに……何より、このままあいつが破滅していくのを、ただ見ているだけでいいのか?)

人間は醜い。裏の顔がある。それはもう嫌というほど知っている。だけど、この男はダンボールに捨てられていたこの猫を、一度は拾ってくれた「命の恩人」のはずなのだ。俺の父親のような、純粋な悪意だけで動いている奴とは、どこか違う気がしてならなかった。

だから、俺は決意した。

人間としての知恵を絞り、あいつとコミュニケーションを取る。そして、その大麻の栽培をなんとかして止めさせる。言葉が通じないなら、行動で示すしかない。

四日目の昼下がり。男がリビングのソファに深く腰掛け、スマホの画面を険しい顔で見つめていた。時折、爪を噛む音が静かな部屋にパチパチと響く。男の精神もまた、何かに追い詰められているように張り詰めていた。

(よし。今だ)

俺は鉛のように重い身体に鞭を打ち、ソファの脚元へと静かに近づいた。

猫として人間に甘えるポーズなんて、前世のプライドが全力で拒絶する。けれど、そんな下らないプライドは、二年前、あの階段の下にすべて置いてきた。

俺は男のすねに、そっと自分の頭を擦りつけた。猫の毛並みを介して、男のジーンズのゴワゴワとした感触が伝わる。

「……あ? なんだよ、お前」

男の声は低く、ひどく冷たかった。スマホから目を離さず、足元を軽く揺すって俺を払いのけようとする。

だが、俺は諦めない。今度はソファの上に器用にジャンプし、男のすぐ隣に座り直した。そして、人間の必死さをすべてその「目」に込めて、男の顔を真っ直ぐに見つめた。

『おい、聞こえるか。お前がベランダでやってることはヤバい。今すぐやめろ。警察が来たら終わりだぞ』

脳内でこれ以上ないほど明瞭な言葉を叫ぶ。だが、俺の喉の構造が実際に震わせて放ったのは、

「ミィ、……ミャーオ」

という、掠れた、ただの情けない猫の鳴き声だった。

届かない。どれだけ心で叫んでも、男の耳には「腹が減ったペットの催促」にしか聞こえないのだ。

「しつこいな……飯ならさっきやっただろ。向こう行け」

男が邪魔そうに手を伸ばし、俺の頭を押し返そうとする。その瞬間、俺はあえてその大きな手の中に自分の頭を滑り込ませた。

犬のように、男の手のひらに自分の鼻先を押し付け、必死に訴えかける。頼む、俺の目を見てくれ。俺はただの猫じゃない。お前のやっていることの危険性を分かって、止めようとしているんだ。

男の動きが、ピタリと止まった。

視線が交差する。ぼやけたモノクロの世界の中で、男の濁った瞳が確かに俺を捉えていた。

その瞬間、男の顔に浮かんだのは、愛おしさでも、愛着でもなかった。

――それは、圧倒的な「恐怖」と「拒絶」だった。

「ひっ……!」

男の短い悲鳴が響き、俺はソファから乱暴に突き飛ばされた。フローリングに着地した衝撃で、爪の奥がじんと痺れる。

「見るな……っ、そんな目で俺を見るな!」

男は髪を激しく掻きむしりながら、まるで化け物でも見るかのように俺を睨みつけていた。その呼吸は異常なほど荒い。

「お前も、俺を責めるのか? あいつらみたいに、俺を『役立たずのクズ』だって笑うのかよ!? 誰も俺の苦しみなんて知らないくせに、誰も助けてくれなかったくせに……! お前を拾ってやったのは誰だと思ってるんだ!」

男の怒号がリビングの壁に反響し、俺の鋭すぎる耳を容赦なく引き裂く。

だが、激しい音の苦痛よりも、男の口から溢れ出た剥き出しの絶望が、俺の胸に突き刺さった。

この男もまた、何かに深く傷つき、破滅へと向かって疾走している。

コミュニケーションを取ろうとした結果、引き出されたのは、男の心の奥底にある狂気にも似た猜疑心だった。

男は立ち上がると、ベランダの窓を乱暴に閉め、カーテンを固く閉ざした。部屋は一気に薄暗くなり、大麻の甘ったるい薬品臭だけが、より一層濃く室内に淀み始める。

(ダメだ……言葉が通じないだけじゃない。俺の行動が、逆にこいつを追い詰めてる……)

ソファの影にうずくまりながら、俺は深い無力感に包まれていた。

どれだけ人間の知性があろうとも、姿が猫である以上、俺の意思は世界に1ミリも届かない。このままでは、この男の狂気に巻き込まれて、俺の二度目の人生も最悪の結末を迎えることになる。

その恐怖が、不気味な影となって、四日目の夜の闇をじわじわと侵食していった。

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