七話 ラクダの追憶
夢の中で、視界の奥から、歪んだ記憶の断片が、濁流のように溢れ出してきた。
それは、俺の記憶じゃない。
この不格好で重い「ラクダの肉体」が、その細胞の一つ一つに刻み込んでいた、過去の追憶だった。
◇
世界は、今よりもずっと優しく、暖かかった。
まだ俺の体が、大人の半分にも満たないほど小さく、細かった頃の記憶。
生まれたばかりの俺の足は、今よりもずっと頼りなく、砂漠の熱い砂に足を取られては、何度も何度も無様に転んでいた。俺の体の幼体は、他の子供よりも圧倒的に成長が遅く、歩くことすらままならなかったのだ。
野生の掟なら、そんな足手まといは、その場で置き去りにされて餓死するか、肉食獣の餌になるのが当然の結末だ。
だが、そのたびに、ボスラクダの前に立ち塞がる「巨大な影」があった。
一頭の雌のラクダ。
そして俺を救ってくれたラクダ。
俺の体の本当の「母親」だった。
彼女は、ボスラクダが俺を蹴り飛ばそうとするたびに、自らの巨体を盾にしてその衝撃を受け止めていた。
野生の群れの絶対的な規律に背き、牙を剥いて威嚇し、激しい怒りを買いながらも、決して俺のそばを離れようとはしなかった。
群れが移動を始め、俺が砂丘を登れずに力尽きて転がり落ちると、彼女は決まって歩みを止め、群れから遅れる恐怖に怯えながらも、俺の元へと引き返してきた。
言葉なんて、そこには一つもなかった。
「大丈夫よ」とも、「愛している」とも、彼女は言わない。
ただ、砂まみれになって震える俺の小さな頭を、その大きな、生温かい鼻先で、何度も、何度も、優しく小突くのだ。
トン、トン、と。
不器用で、だけど途方もなく温かい、その肉体の接触。
それは、歩けない俺を「立て。生きろ」と、静かに励ます無言のメッセージだった。
彼女が根気強く、何日も、何週間も俺の背中を押し続けたからこそ、この不自由な足は、灼熱の砂漠を歩けるまでに育ったのだ。
群れから完全に追放されたあの時も、彼女だけは、群れのすべてを捨てて、俺の後を追ってきてくれていたのだ。彼女は常に、俺の気づかない少し後ろから、その静かな眼差しで俺を見守り続けていた。
◇
目が覚めた。
怪我は治っていない。
血も止まらない。
涙も止まらない。
痛いからではなかった。
俺の知らないあたたかさを知ったから。




