六話 果て
無。
彼の今の状況を指すに、この言葉一つで十分である。
彼は今、心と体両方でもう立てなくなった。
諦めの境地。
その間にも砂嵐は近づいてきた。
声は前の時とは違う。
ハイエナだ。
一頭や二頭ではない。
彼からその数を数えることはできないほどだ。
口元には粘りついたよだれがダラダラと滴り、剥き出しの牙が、太陽の光によって輝かされていた。
もう、彼は逃げることはしなかった。
逃げない俺を彼らはまるで当然のように食らう。
お腹が熱い。
もうそんなこと気にする余裕もないほど、痛い。
サボテンなんて比べようがない。
熱い、痛い、熱い、痛い、痛い、痛い。
また彼は死ぬのだろう。
お腹から溢れた血とそれに集まるハイエナ。
自然の摂理を感じさせる光景だ。
でも自然にはときに、その立場が逆転することがある。
それは予想外のことが起きたとき。
俺はハイエナがかぶりつく感覚なくなったことに正直安堵した。
もう死にたくなかったから。
ただ違和感はある。
なんでまだ殺さないのか。
その答えはすぐにわかった。
ラクダだ。
俺とは違う別のラクダ。
そいつがハイエナを殺しているのだ。
正直、ラクダにもハイエナにも恐怖しかない。
でもこのラクダはなぜか安心できた。
ハイエナが次々と死んでいく。
ラクダ自身の強さは俺も経験した。
まぁ草食が肉食に下剋上することもそりゃあるか、なんて呑気なことを考える。
でも俺はハッとした。
このラクダは確かあの連中の中にいた。
人間の時はラクダ同士、見分けはつかなかったが、今は不思議とわかる。
一度は俺を殺したはずだ。
なぜ助けてくれたのだろう。
俺は死ぬように眠った。
実際死ぬのかな?
そう自分に投げかけながら。




