44 ようこそ鎌倉
"「次は、横浜、横浜。JR線、東急線、相鉄線、横浜市営地下鉄ブルーライン、みなとみらい線はお乗り換えです。……」"
「人多すぎ!路線多すぎ!」
━私は中にいて正解でしたね。頑張ってください。━
「俺は歩くタクシーじゃないってのに!」
「こっちだよ。ついて来て。」
八代、ガイード、雨龍は鎌倉を目指して鉄道を乗り継いでいた。八代はこの人混みに慣れていなかったが、雨龍は軽やかな身のこなしでグイグイ進んでいく。
「おっ、こっちの方がかっこいいな乗ろう!」
「それ次に止まるの静岡県だよ。」
"「ドアが閉まります。」"
「っぶね!」
「あとそれ追加で数千円必要だよ。」
「っっぶね!」
━無駄な散財はよしてください。━
「肝に銘じます…。」
すっかり乗り換えが恐ろしくなってしまった八代は、散歩に疲れた犬のように雨龍とガイードの後ろをついていき、鎌倉駅に着いた。
「着いたね。」
「俺自動車免許欲しいな。1人で電車乗れる気がしない。」
━道間違えるんじゃないですか?━
「もうこれからは『天地踏破』で移動しよう。」
━無闇な魂の力の使用は禁じられていますよ。━
「オッケー詰み!」
「エナドリ飲めば翼を授かるんじゃない?」
━どこの赤い闘牛ですか…。━
雨龍は話をしながら端末で時計を確認した。
「まだ時間があるし、少しここら辺見てく?」
「見てく!」
━見てきます!━
夏休みを臨む平日は、それほど混雑しているということもなく、鎌倉なりのいつも通りがあった。街中は小町通りを中心に良い香りが漂っており、客を引く声や観光客の声が聞こえてくる。少し道を外れれば、そこは平和な住宅街であり、早く学校の終わった子供たちが走り回っていた。
「…。」
「ん?」
━どうかしましたか?━
「いや、誰かにつけられてる気がしたんだけど。」
━気のせいですよ。人には多くすれ違ってますし、多分勘違いしたんでしょう。━
「そうだよな。」
「どうかしたの?」
シズクは後ろ向きに歩きながら八代とガイードに話しかけた。
「誰かにつけられてると思ってたけど、それは気のせいだって話をしてた。」
「誰かにつけられる…うーん…。」
━どうしたんですか?━
「つける人の心当たりがあるんだよね。」
「心当たり?」
「〈試してみようか。〉」
シズクはそう囁いてから、車が来ていないのを確認して赤信号の横断歩道に飛び出した、かと思うと一瞬にして姿が消えた。
「消えた!?」
「こっちだよ。」
「全く、危ないでござるよ。」
シズクはいつの間にか背後に回っていた、というより、背後に回されていた。そこにはシズクを地面に降ろした、忍者に寄せたスタビライザーの隊服らしきものを着ている男が立っていた。
「あれね、わざとだったんだよね。多分いるって思ってたから。」
「だったら普通に呼んで欲しいでござる。」
「えーっと、そちらの方は…忍者?」
その言葉を聞くと男は目の色を変えて八代の手を取った。
「お目が高いでござる!拙者は忍を目指す者、静永コタロウでござる!拙者、この忍隊服を纏い日々忍に近づけるようスタビライザーにて」
━あの、熱心な自己紹介を遮るのは気が引けるのですが、忍はもっと情報を隠すものでは?━
「…盲点でござる!」
「じゃ、じゃあ友達!友達ってことでどう?」
「友達、良い案でござる!では拙者はお主らとただの友達でござる!拙者は決して忍…いやでも忍」
「そこまでだよコタロウ。これ以上2人を混乱させないで。」
騒がしい1人の忍?静永を前に困惑していた八代とガイードだったが、とりあえず自身の心を落ち着かせる意図もこめて自己紹介をした。
「なるほど、お主らはシズク殿の同期で一緒に鎌倉に来たということでござるな!」
「その通り。悪い人でもなんでもないから、警戒しないでね。」
「シズク殿がそう申すのであれば、拙者はそうするでござる!」
「さっき兄さんって言ってたけど2人はきょうだいなのか?」
「ううん。ただそう呼んでるだけだよ。」
「血縁関係はないでござる。シズクに勉強を教えていた先生が拙者の姉で、拙者は忍への道を歩む途中で見守っていただけでござる。」
━なるほど、面倒見の良いお兄さんってことですね。━
「そう受け取ってもらえると嬉しいでござる!」
「ところで俺ずっと気になってたんだけど…忍術ってもしかして『忍者』の魂の力とか?」
「忍術は忍術でござる。」
「うん、コタロウのは忍術だよ。」
「じゃあさっきの瞬間移動は」
「忍術でござる。」
「忍術だよ。」
━〈ミツキ!これ以上触れない方が賢明かと!〉━
「〈でも気になるじゃん。〉」
━〈世の中には気になっても触れてはいけないものはたくさんあるんです!〉━
2人が静かに慌ただしくしていると、静永は何かに気づいたように端末を取り出した。
「む!拙者の助けを求める声が届いたでござる!申し訳ない、2人とも。拙者は行かなくてはならない!鎌倉を楽しんでいって欲しいでござる!散!」
静永は再び煙幕を張ると一瞬にして姿が消えた。
「頑張ってね。」
「〈今なんで端末の通知が分かったんだ?音なかったぞ。それにあの瞬間移動〉」
━〈きっとバイブ機能でもあったんですよ!それと瞬間移動は忍術です!〉━
またもや慌ただしくしていると、こちらもまたもや、雨龍の端末が鳴った。
「ん?誰からだろ。…あー。ねぇ、お腹空いてる?」
「お腹はそろそろ空いてくる頃合いだと思うけど、どうした?」
「タダ飯のチャンスかも。」
一行は鎌倉駅から江ノ電に乗り込んだ。4両の緑の車両たちは家と木々の間を縫うように進んで行く。
「つまり、その仕事をサボってるだらしない隊長を捕まえれば、口封じとして奢ってもらえると?」
「その通り。」
━奥さん、手を焼いてるんですね。━
「そんなことないと思うよ。昔から兄貴は姉貴の掌の上で弄ばれてるからね。」
━どうやら中々やり手の奥さんのようです。━
「まあ、そうかも?でも2人とも良い人だよ。私はこの鎌倉で育った。兄貴は…良い練習相手になってくれたし、姉貴は勉強は勿論、他にも色んなことを教えてくれたから。」
「へえー。いい仲間、いや、家族だな!」
「家族…うん。そうだね。」
雨龍はその響きに頷いて少し笑みを浮かべた。だが目的地の駅に近づいていくと、笑みは段々黒く不敵になっていった。
電車は森と山に囲まれた駅に到着した。
「ここに兄貴はいるはず。」
駅を出て山間の住宅街の方へと足を進めると、響く騒ぎ声が1つあった。
「っしゃ!行け!俺の最強ハジキ!」
「っしゃー!やれ!流兄を倒せ!」
「打つ威力、それに角度が甘いんじゃガキども!セイ!」
「ぐわーっ!」
「わははこれで4勝2敗。俺の勝ちまで後一歩っちゅうとこやな!」
「なんの…まだまだこれから!」
「どうもこんにちは。」
雨龍が先に顔を出し、八代とガイードも続いて出た。
「げ」「あ、シズ姉!」「久しぶり!」
「うん、久しぶり。元気してた?」
「ウルトラ元気!」
「チョー元気!」
「シ、シズクちゃんお帰り。……ユイはおらんよな!?」
「いつでも連絡できるけど?」
雨龍は端末を見せびらかして脅してみせた。
「堪忍してや!ってあ!後ろのはもしかして彼氏くんとか?」
「彼は私の同期。変なことぼやくんだったら連絡するよ?」
「わーっ飯!飯奢ったる!それで許して!な?いつものとこのや!3人分!」
雨龍は八代とガイードの方を向いて再び悪い笑顔を見せた。
「じゃあいつものとこで。後この子は魂だから。2人分ね。」
「やーいしょっぴかれてやんの!」
「勝ち逃げは許さないかんな!また来いよ流兄!シズ姉もまたな!」
「またね。」
「ま、またなあ…!」
「こ、これが…。」
━鎌倉隊隊長の姿ですか…。━
「おいそこ!残念がるなや!」




