45 おサボり
「やっぱりシラスは生だよねー。」
「ははは!久しぶりに帰ってきたんだからな!大盛りにしてやった!ついでにそっちのご友人もな!」
「まだ1年も経ってないのに。でもありがとう。」
「ありがとうございます!」
━わ、これ米より多いんじゃないですか?━
八代と雨龍の前には新鮮な生シラスの乗った丼が置かれていた。2人がそれに目を輝かせる中、鎌倉隊の隊長は気まずそうに座っていた。
「にしても、またサボりやがって。お前もガキのまんまだな!ほら、"普通の"シラス丼、お待ち。」
「俺だってちゃんとやってるわい!ただ書類仕事だけはどないも身につかへん。人には得手不得手があるもんや!」
「その変わらねえ言い訳も聞き飽きた。罰として次からお前の飯減らしてやるからな!」
「ちょ、それはないやろ!」
「うんま!これ無限に食える!」
━無限に食われたらシラス側からしたらたまったものじゃないですね。━
「がはは、気に入ってくれたみたいで何よりやな。」
「俺の飯だろうがよ!ったく、隊長としての尊厳もあったもんじゃねえ。」
「っ、そういえばっ、隊長じゃないですか!挨拶遅れました!」
店長の言葉に目の前にいる男が鎌倉隊隊長だということを思い出し、驚いた勢いで八代はむせた。
「ええねんええねん!寧ろ隊長として接されるより、普通に接してもろた方が嬉しい。敬語もいりまへん!俺は霞流タイガ!鎌倉隊の隊長。流兄って呼んでや!」
「俺は八代ミツキで、こっちが魂のガイード!よろしく!」
━よろしくお願いします!━
「やっぱそっちの話し方の方がええわ!よろしゅう!君らのことはよう知っとるで!シズクちゃんからも、前会うたリンちゃんからも聞いたんや。」
━リンちゃんって、千装隊長ですか?━
「そっか、あの人は千装リンが本名だったな。」
「そや。昔からよく手合わせしとってな。あの拳の攻撃は俺が教えたんや…って、そんな自慢話は今はええな!
京葉で起きたっちゅう崩壊連星との戦いでえらい活躍したって聞いたで!」
━どうやら私たちの名声は広く知れ渡ってるみたいですね!━
「褒めてもらえるとやっぱ嬉しいな。」
「いやーシズクちゃんの同期がこんなにええ子なら安心やね!そや、シズクちゃん!最近のこととか話してや!」
「え、連絡とかしてなかったのか?」
「だって連絡し続けてたら鎌倉から出た意味ないでしょ?ちゃんと特殊に溶け込まなきゃね。」
「一理あるか。」
「そうなんよ。全然連絡くれへんからユイと寂しい思いして堪らんかったわ。」
「そういうことならちょうど良かったかも。」
「え?」
雨龍はまたまた不敵な笑みを浮かべて店の入り口の方を指差した。店主は笑いながらドアを開けた。
「げえっユイ!?」
「お仕事がまだ残ってるわよね?」
「捕まったな!」
店主はゲラゲラと笑い、雨龍も笑みを浮かべながら入り口に立つ女の方へと向かった。その女は白百合のように可憐で、活力あふれる霞流隊長とは雰囲気は対と言っていいようだった。
「や、やっほ〜ユイちゃうわっ急に担ぐなや!」
「ただいま、姉貴。」
「お帰りなさい、シズク。元気そうね。そして引き取りに来たわ。」
「最初からグルやったんか!」
「思い出話を聞くなら、揃ってからの方がいいでしょ?」
「こんな早く来るかい!本音はなんや!」
「ご馳走様でーす。」
雨龍は担がれた霞流隊長を煽るようにピースサインした。
「クソー!」
「大将、またご馳走になったみたいで、いつもタイガが迷惑をかけて申し訳ないわね。」
「お代なんかいいってことよ!後で全額そいつに請求しとくからな!ぶっかましてやりな、ユイさん!」
「感謝するわ。ではまた。」
「離せやー!」
ユイに担がれた霞流隊長は観念してそのまま店を出た。
「私たちもついてこ。鎌倉基地に行こう。」
「そうだな。大将!めっちゃめちゃ美味かった!また来るよ!」
「応!ミツキつったか?また来いよ!腕は時間が経っても上がり続けるばかりだからな!」
豪快に笑う大将に見送られ、一行は再び海から離れ、山の方へと向かった。途中で霞流隊長は降ろされたものの、逃げるそぶりは一切見せず、肩を落として基地に入った。
「え、ここ!?」
━確かに普通の家よりは大きいですが…。━
「鎌倉は入り組んどるからな。至る所に基地がある。勿論デカい訓練所だってあるにはあるで?でも住んだり仕事すんのは普通の家や。」
霞流隊長がユイに押されるように部屋の中に入ると、机の上に置かれた書類の山を見て膝から崩れ落ちた。
「あかん、熱中症や。目眩…」
「はい、スタンドアップ。」
「容赦なさすぎやろ!目眩するのはほんまやで!?」
「タイガが書類苦手なだけだわ。今日中に半分は終わらせるわよ。」
「嫌やー!」
「終わらせないとどうなるか分かってるわよね?」
ユイが霞流隊長にそのまま接吻でもするんじゃないかという距離まで詰め寄り、脅迫に近い物言いをすると、観念したのかへなへなと席につき、カタツムリに負けてしまいそうな速さの腕で仕事を始めた。それをユイが見ると、焦って素早く動き始めた。
「先程はお恥ずかしいものをお見せしたわ。こちらの方はシズクの同期さん?」
「うん。」
「八代ミツキと」━ガイードって言います。━
「お話は伺ってる。タイガから同じ話をされてると思うから繰り返しはやめておくわ。
私は静永ユイ。霞流タイガの妻よ。」
「あ、本当にコタロウのお姉さんなんだ!」
「あら、もしかしてもう会ってきたの?」
「私が鎌倉に着いたときからいたらしいよ。ついでに挨拶も済ませてきたから。」
「変なことはしてなかったわよね?」
「大丈夫だったよ。2人とも忍術には随分と驚いてたけど。」
「まあ忍術だし、仕方ないわね。」
「〈忍術って万能の言葉なの?〉」
━〈しーっ!〉━
「話の途中だったわね。それで私はスタビライザーに入隊はしているけど、隊長の妻だからってそんなに高い位についているわけじゃない。タイガと同じよう、気安く話しかけて。」
「OKよろしく!」━お願いしまーす。━
「この子達適応力高いわね。自分で言っといてなんだけどびっくりしちゃった。でも嬉しいわ。」
「記憶喪失の割には数ヶ月でこの世界に慣れてるもんね。よく考えたらすごいね2人とも。」
「楽しそうなお話俺も混ぜてや!」
「口の前に手を動かして。」
「ひいん…。」
霞流隊長はどうにも妻のユイには敵わないらしい。雨龍はいつも通りの感覚を懐かしみ、八代とガイードは可哀想と面白いの2つの感情に挟まれていた。
「ん、これは。」
静永は、必死に書類とにらめっこを行なっている霞流隊長の横に置いてある菓子の箱を持ち上げた。
「一昨日草津に行ったときに買ってきたお土産じゃない。確かユズさんとレイちゃんに渡すんじゃなかった?」
「せやった!ほな俺が今から渡しに」
「行かせないわ。私が行くから。」
「ひいん…。」
「それに、五頭龍祭に向けた挨拶とか、警備の打ち合わせもした方がいいでしょ?」
「せやな。年一のでっかい祭りや。メールや電話じゃあかんな。」
「じゃあ、私たちが行こうか?」
「俺たち?」━私たち?━
「うん。2人にまだ鎌倉を案内できてないし、それに姉貴が見張ってないと兄貴逃げるでしょ。」
「そ、そんなことせんわい!」
「の割には足が横に向いて逃げる気満々だけど?」
「ぎく」
「はぁ…じゃあシズク、そしてミツキくんとガイードちゃんにも、お願いしていいかしら?」
「任せて。」
「お任せを。」━おつかいってことですね。━
「タイガも、絶対逃さないから。」
「わーった…。」
この世界では夫婦別姓が可能となっています。これは個人の政治的な考えではなく、2040年っぽさを出したかったので、今の現実世界の未来でありうる可能性を入れたいなと思ってこの要素を入れました。




