43 いざ鎌倉
「うっ…耐えろーっ!」
━ふぬぬぬぬ…━
「限界!」
八代とガイードは地面に落ちた。
「15.7秒。先週よりも伸びてるね。」
「あんときはもっと長く出来たはずなんだけどなあ。」
━『天地踏破』、中々難しい技ですね。━
7月に入ろうとするある日の午後。八代、ガイードは黒淵隊長に見てもらいながら訓練に励んでいた。あれからというもの、特に大きな事件が起こることはなく、訓練をしたり、偶に外部への任務に参加したりを繰り返していた。
「人と魂は緊迫した状態、特にあの京葉での戦いのときなんかは命懸けだったからね。死の間際に何かを成し遂げたいと抗う意志と、普段から抱いている意志では当然前者の方が強い。今あのときほど出来ないのは当たり前だよ。」
「そっかあ…中々大変。」
「でも、成長しているという事実が大切だよ。0.1秒でも君たちが宙に浮いていられる時間を増やせるならそれでいいんだ。止まらなければどんな速さだっていずれゴールに辿り着くからね。」
「そうですね!っしゃガイードもう1回。」
━私もう疲れましたー。━
「折角人がやる気になったってのに…。」
「じゃあ僕次はシズクを見てくるから、何かあったら呼んでね。また見にくるよ。」
そう言って黒淵隊長は雨龍の方へ向かった。地面に仰向けに寝そべり休憩の雰囲気に入ろうとするガイードを止めようとは思わなかった八代は、息を整えてから各々訓練をしている隊員たちを見ていた。その中でも八代は、雨龍が手に持つ刀が気になっていた。
「なんで縛ってるんだろう。」
八代は刀が気になっても、聞き出せなかった。その縛り方はまるで妖怪などの恐怖を封印するかのようであり、実際にそういう妖刀なのか、はたまた別の理由があるのか、どちらにしても雨龍がいい思いをすることはないだろうと考え、聞き出せていなかった。
5日後。
"「あ、アヤカちゃん。世話になっとりますうちのシズクが。」"
"「いえいえ、前の新人合同訓練会でも活躍していて、トラブルも少なく、とっても良い子ですよ!」"
"「ん?少なくっちゅうことはけ、喧嘩したんか!?」"
"「まあ、ちょっとだけ。」"
"「相手は喧嘩売り散らかしてるアホ魂なので、気にしないでもらえると。」"
"「わはは、ならええねんええねん!寧ろそんくらい元気なこと知れて良かったわ。」"
"「そういえばシズクちゃん、今度少しだけ鎌倉戻るんだっけ?」"
"「うん。1週間だけ。」"
"「忘れとらんかったみたいで安心したわ!元気な顔見せに来とくれや。せや、他のみんなも来たらどないでっか?ちょい早めの夏休みや!もてなすで!」"
"「みんながみんなシズクちゃんとずっと居ることはできませんが、当日ならみんな行けると思いますよ!」"
"「ほんまか!ほなえらいご馳走作って待っとくわ!楽しみにしとき!ん?ええああ仕事?ちょ、わーった待ってや!すまんなあ呼ばれてしもうた。ほなまた明日!気いつけて来いや!」"
慌ただしく電話は切られ、メインルームから声が1つ消えた。
━あれ、お客さんいないじゃないですか。━
「おっかしいな確かに声がしたんだけど。」
そして2つ声が増えた。
「お疲れーミツキくんガイードちゃん。今のは電話だよ。鎌倉隊隊長とのね。」
「鎌倉隊隊長って、確か雨龍の…兄?」
「いや、違う。まあ兄貴分って言われたらそうかもだけど。」
━あれですか?近況報告的な。━
「今回のは帰省と私たちへのお祭りへのお誘いだよ。7月にはね、鎌倉市で大きな花火大会があるんだ。じゃん!」
計良は八代とガイードに端末の画面を見せた。そこには夏の始まりを告げる夜空に咲く美しい火の花とともに、祭りの名前が書かれていた。
「五頭龍祭?」
━五頭龍ってなんですか?━
「鎌倉や江ノ島に伝わる、江島縁起っていう話に出てくる伝説の龍のこと。悪行を重ねていた5つの頭を持つ龍が、美しい天女の弁財天に恋して改心して守護神になるの。でも守護神として責務を果たすうちに力を使い果たして、今の龍口山に姿を変えて、今もこれからも天女を見守っているって話だよ。その五頭龍を祀るために行われてるのがそのお祭り。大きな花火が上がるし、出店もいっぱい出るんだ。沢山の人が来るし、みんな楽しそうだから、きっと龍も天女も喜んでるよ。」
「シズクちゃんそんなことまで知ってたんだ!すごいね!」
「うん、まあ…地元だし、私も好きな祭りだから。」
雨龍は恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに答えた。
「俺も行きたいな。」
━龍に乗りたいですね。━
「龍には乗れないんじゃないかな…でもみんな歓迎するから、来てね。」
「やったー!」
━私は諦めません。龍に乗ります!━
「そうだ、良かったらミツキくんとガイードちゃん、シズクちゃんについて行きなよ!」
「え、いいのか?だって事務仕事だって残ってるし。」
「いいよ、もう少しで終わるし!そ、れ、に、君たちみたいな若い子はもうちょっと遊んどいた方がいいの。」
「アヤカだって若いじゃん。」
「ふふ、シズクちゃん口が上手いね。やっぱ良い子だ!まあ兎にも角にも、私たち大人組は後から絶対行くから。新人たちで先に夏の鎌倉江ノ島を満喫してきなさい!」
━そこまで言うなら…行きましょうか!━
「ああ、遊べるなら遊ぶ!」
「じゃあ明日から鎌倉隊に行こうか。あ、でも兄貴結構サボるからもしかしたらその仕事させられるかも…。」
「すごい隊長だな。」
━まあそれくらいならちょちょいと手伝いますよ!━
「ありがとう、決まりね。」
こうして特殊派遣部隊の新人隊員たちの、少しだけ早い夏休みの幕開けが決まった。
その日の晩、八代とガイードは必要な荷物を簡単にまとめた後、たくさん動けるようにすぐにベッドに入った。
雨龍は手慣れた様子で荷物をまとめていた。そのとき、いつも使っている刀が目に入った。
雨龍は刀を手に取り結び目を撫でた。手は酷く震え、寒気が雨龍の手先から全身へと流れ始める。雨龍は息を吐いて刀を荷物の中に入れ手から離した。
「……師匠。」
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鎌倉市内のとある繁華街。
「よっ流兄。今日は仕事大丈夫なのか?」
「あー、まあええんや!すぐ終わる量しか残っとらんからな。」
中年の男に呼び止められた、年齢の割に若く見える男は、あからさまな嘘を吐いた。
「そう言って前も嫁さんにボコボコにされてたじゃねえか。まあ、サボりもほどほどにしとけよ!」
「わーって、いや、サボってないわ!これは、れ、劣化とした隊長としてのパトロールやって!」
「やけに必死そうだねえ隊長さん。今の全部ユイさんにチクっちゃおっかなー?」
「わーやめろやキョウちゃん!あー…ほら!このいちご飴奢ったるから黙っとき!」
男は凄まじい速度で金を払っていちご飴を買い女子学生に与えた。
「わーいやった!」
「おいおい仕事中にいいのかよ…。」
「ええんや。今サボり中やし!それに、俺が上とか世間の言うことなんか聞くと思うんか?」
「開き直りやがったなコイツ…。」
「おーい流兄!うちの新作食ってってみなよ!」
「おお、コイツは中々旨そうやないか。ほな1つ…んーええ塩加減や。これで行き!絶対売れるで!」
「じゃあ僕が作ったのも食べてみてよ!」
「おっ、ケン坊も手伝えるようになったか。どれどれ…うわっ鬼辛いやん!」
「やーい引っかかってやんの!」
「コラ!ケンタ!」
「待てやこのガキ!」
「これが俺らの街の隊長の姿なのかよ…。」
中年の男はため息を吐いた。
江島縁起は実際にあるお話です。鎌倉市腰越にある龍口明神社には五頭龍が、藤沢市江の島にある江島神社には弁財天がご祭神として祀られております。
シズクが語っている五頭龍祭というのは我々の世界には存在しないお祭りです。ですが、鎌倉や江の島にはたくさんのお祭りがあり、神幸祭、江の島天王祭、式年大祭(これは巳年に行われるもので、次は随分と先になりますね)、湘南江の島春祭り、江の島灯篭などがあります。個人的には鎌倉、江の島はとても好きな地域なので、興味を抱いていただいたならば、是非このお祭りや例の神社に足を運んでみてください。
私という一個人の人間において、最大限払える敬意の上で神様を作品の中に描かせていただいているつもりですが、何か失礼なことに当たってしまった場合には、大変深くお詫び申し上げます。
また、電話の主が関西弁で話していますが、私は関東の人間であり、私にできる限りは調べましたがそれでも関西弁には疎いです。おかしいと感じる発言がありましたら、ご指摘下さい。




