42 過ぎ去りし不安
侵入者の存在が明らかになったことで訓練は中止となり、残りの侵入者の捜索を行う者以外全ての隊員が建物の外に出た。八代とガイードが接触したことを雨龍や橙木たちは心配していたが、幸いにも怪我はなかったので安心していた。
「皆よくがんばった!!!そして!!!
……申し訳ありません!!!!!!」
松本は頭が文字通り地面に埋まり、全身が70度で立っているのか分からない状態で謝罪を始めた。
「我々の無責任さがよんだ重大インシデント!!!そしてある隊員と接触してしまったこと!!!そして犯人を取り逃したこと!!!本当に申し訳ない!!!」
むしろ悪いことをしているのは隊員たちの方ではないかと錯覚し始めた。
「とはいえこの訓練自体を無碍にするのもなし!!!ということで評価は渡す!!!自身の隊に戻った後!!!苦手分野を克服する訓練をするように!!!」
「「「はい!」」」
「よし!では今日は、今日は…本当に申し訳ございませんでした!!!!!!」
松本は大地と垂直な関係を築いた。その後隊員たちは熱意がこもりすぎてオーバーヒートした謝罪を受け取り、困惑していたが、評価を受け取ったことでようやく我に帰り、仲間や自分自身で振り返った。
「八代たちはどうだった?」
「へへ、俺結構高いんじゃない?」
「おお、すごいね。負けちゃった。」
「あれ、3点差じゃん。」
「たかが3点、されど3点だよ。まあこの訓練は点数関係なく、自分ができないことを知るのが一番な目標だから。それを大事にしよう。」
「そうだな。俺は救護人の扱いが悪いって書かれてる。確かに全部最初のあの人に教えてもらったしな。」
━努力あるのみ、ですよ!━
そうやって見比べていると、評価を手に歩いてくる橙木と根来の姿があった。
「よ!お疲れ!」
「お、お疲れ様です。…点数高いですね。」
「ああ、気にするな!俺らちょっと点数低くてショック受けてるだけだ。」
橙木は腰に手を当てて溜息を漏らしたが、すぐに息を吸って八代とガイードと雨龍の目を見た。
「改めてだけど、ありがとな。お前らに教えてもらったよ。俺にはまだ努力が足らねえってな!だから俺はお前らみたいになれるよう全力で追いかけ続ける。そしていつの日か追い抜いてやる!」
橙木は拳を八代の胸の前に突き出し、白い歯を見せて笑った。そして隣でモゴモゴ呟いている根来の背中を膝で突き、八代の前に押し出した。
「うっ…き、今日はありがとうございました。そ、その僕だって負けません…から。」
「えー何ー?聞こえなーい。」
八代は雨龍の真似をして根来をわざと煽った。すると根来は捲し立てるように口を開いた。
「ぼ、僕だってアンタらみたいなのなんかもっと努力して努力して!実力で!追い抜いてやります!覚悟しといてくださいよ!」
「聞こえたよ。お互いに頑張ろうな!」
「…はい。」
彼らがそう語り合っていると、今度は品川隊の隊長が歩いてきた。
「今日の様子は見させてもらったよ。」
「品川隊の隊長さん?」
「いかにも。まずは特殊。素晴らしかった。最初こそ戸惑いはしていたものの、やるべきことを考え、それを実行する力もあり、口だけでなかったのがわかった。日々の訓練の賜物なのか?」
「まあ…そうですね!」
━訓練というには結構実戦的だったような気がしますが。━
「…ああ、京葉の件か。君たちがそうだったのか。そりゃ判断力もあるわけだ。これからも、どんどん成長していけ。期待している。」
「はい。」━はい。━
「ありがとうございます。」
「そして品川!」
よそ行きの雰囲気を脱ぎ捨てた隊長は橙木と根来に捲し立てた。
「なんだあの迷いは!なっとらん!もっと周りをよく見ろ!そして変な言動は控えろ!全部聞こえている!それから…。」
隊長の口が止まった。隊長の目には、橙木と根来の目の中に、小さな火の灯った炉を見つけた。咳払いをして、再び口を開いた。
「だがまあ、お前らが一番成長したのは人から意見を取り入れるようになったことだ。気づいただろ?お前ら、人からアドバイスをもらえば成長する速度は速い。」
橙木と根来は褒められて心なしか嬉しそうだった。
「お前らには才能がある。エリートだ。誰にも負けないよう訓練にこれからも励め!分かったか!」
「「はい!」」
「よし、じゃあ今日は疲れを癒せ!帰るぞ!そして世話になったな!特殊!これからも仲良く頼」
━おい、いたぜ!━
アウトロードがエンジンを吹かして八代たちのもとへ突っ込んできた。
「アウトロード!?」
「うるさい。」
「なんだ彼は?」
━こっちの台詞じゃボケ!俺がきたのはコイツらが訓練終わった後先輩ヅラするためだってのに━
「いやあすいませんうちの馬鹿が!」
「帰れ!」
━うるせえ口答えすんな後輩ども!━
「ちょっとコラやめなってアウトロード!あ、ミツキくん、シズクちゃん、ガイードちゃんお疲れ様!んで早く離れなさいよこの馬鹿!」
━( ̄ー ̄)シまらないがハヤくカエることをオススメする。レイをイわせてくれ。━
「そ、そのようだな。では、帰ろう。」
「あはは!やっぱすげえなお前らのとこ!じゃあ、元気でな!」
「やっぱりおかしい奴らだったんですよ!付き合い考え直した方が良いですって!」
そうして最後は特殊派遣部隊らしい締めくくりで、新人合同訓練会は終わりを告げた。
その日の夕食は7号が腕をふるい、いつもより豪華な食事となった。そして食後は今日の訓練の振り返りを行なっていた。
「確かに、救護のやり方はもっと練習した方が良さそうだね。明日からの訓練に取り入れてみよう。できたらレッドランプの人にも掛け合ってみるよ。彼らの方がその知識に精通しているからね。でも2人とも、戦闘面や判断力はよくできてるよ。」
━映像を見たが、俺と追崎のときよりもよくできてる。━
「悔しいが、みんなよくやったよ。」
「アウトロードとか暴れすぎて途中退場だっもんね。」
「運天さんがボッコボコにしてたな。」
━うっせえボケどもが!━
「そういえばミツキ、侵入者と遭遇したんだって?」
「そのことなんだけど…」
八代とガイードは事細かくあの男女の情報を話した。過去を知っていること、交友関係があったらしいこと、見たことのない攻撃を繰り出したこと。
「なるほど。一応知念総隊長にも伝えておこう。ロゴスなら何か分かるかもしれない。」
「聞いた話、そこらのゴロツキとは違った様子みたいだが。」
「でも過去を知ってる人がいるってのはすごく大きな情報だね。」
━ええ。次こそは尻尾掴んで知ってること全部話してもらいます!━
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「あっぶねー。なんだっけ、運天と、ドッドドだったか?やっぱ普段荒いけどああいうときだけ怖いな!」
「本当に危なかったよ。せっかくの機会を無駄にするところだった。」
「ああ、マジで愛してるぜ!チューして」
「アイツらは他のに比べて大分違かったね。初めてみるパターンだよね?」
「ん、まあな。もしかしたらアイツらが求めていた奴らかもしれねえ。こっからは気合い入れてくぞ!」
「おー。」
「元気がない!あれか!?もしかして俺からのチューがないから元気が」
「あってもなくても元気変わらないから。フツーに疲れただけ。」
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ガイードはもう布団に入り込み、浮世絵の人のように凄まじい形で眠りについていた。八代はまだ終身準備中で、歯を磨こうと洗面所に向かっていた。そのとき、雨龍と会った。
「お疲れ、八代。」
「ああ、お疲れ、雨龍。」
「もう寝るの?」
「ああ。歯磨きしてから。ガイードはもう爆睡。」
八代は部屋の方向を指して苦笑いした。その後どこか落ち着かない様子で歯磨き粉を開け、歯ブラシにつけ、口に含んだ。
「不安?その侵入者に言われたこと。」
「バレてたか。」
「さっきから様子が変だから。」
「…前に黒淵隊長たちと話したんだけど、俺は過去に過酷な環境にいたかもしれないんだ。自慢じゃないけど、何故かガイードっていう魂の相棒だし、戦闘もある程度できるし。だからその過去を知るのが怖いんだ。」
雨龍は何か思うことがあるのか、言葉に困りながらも紡ぎ出した。
「過去って、変えられないもんね。私も、何度変えられたらって思ったかなんて…んん、だから私たちは今、必死に生きるしかないんだよ。」
雨龍の言葉は力強く今を生き抜こうとする人の言葉であったが、その話し姿は、後ろを向いているようにも見えた。
「ごめん、寝る前にこんな辛気臭い話題振っちゃった。」
「大丈夫だよ。寧ろ、ちょっとだけ八代との共通点を知れて、嬉しかった…かも?じゃあ、おやすみ。」
雨龍は背を向けて静かで暗い廊下へと消えていった。その背中は酷く怯えているようにも見えた。
たった5話でしたが、これにて新人合同訓練会編はおしまいです。ほんとはこのまま次に入る予定だったのですが、ストックもう少し作りたいのと、リアルで色々とやらなきゃいけないことがあるので1ヶ月休ませていただきます。申し訳ありません。
次章は鎌倉編です。雨龍シズクを中心人物に据えたお話となります。よかったら読んでね!それでは梅雨にお会いしましょう。




