41 デジャブ
敵も鎮圧し、残すはまだ人がいる可能性があるエリアの探索だけとなった。隊員たちはそれでも気を抜くことなく、急いで負傷者の保護へ向かった。
「こっちのエリアは終わったよ!」
「最終確認は!」
「済んだ!だから今そこに当たっていた人たちを私たちの方に回して!」
「場所は足りそう?」
「問題なし!」
「ここで引き渡すまで拘束!」
「なー暇だから遊んでくれないか?マリパ持ってきた。」
「それいつのやつですか?」
「レトロゲー扱いか…。」
まだ訓練の最中、しかしそれは着実に終わりに向かおうとしていた。そんなときに、八代とガイードを呼び止める声があった。
「そこの2人!ちょっとこっちに来てくれないか!お前らの力じゃないとどかせない壊れた家具があって、中に人がいるんだ!」
「分かった!すぐ行く!」
━力の見せ所です!━
当然助けを求める声を無視することなく、2人はその隊員についていった。
「ありがとう、こっちだ!ついてきてくれ!」
隊員の案内に従って、2人も後を追った。人混みからは離れていき、声もかなり小さくなったところで一つの家の中に入った。中はとても暗く、人の気配もない。
「で、負傷者はどこに?」
「悪いね、今までの嘘!」
家の中だと思われていた暗闇は、一瞬にして謎の空間、強いて形容するとしたら宇宙に近しい空間に飛ばされた。目の前にいた隊員の姿はなく、フードを被った顔を見せない怪しい影となって佇んでいた。
━敵ですか!━
八代とガイードはすぐに攻撃に移れるよう構えた。
「うぇいうぇいうぇいと。いやーこのウブな感じ、悲しいもんだね。とりあえず言えることは、僕、敵じゃない。むしろ仲間!」
「崩壊連星との関わりは?」
「あー、そんな奴らもいるね。俺嫌いなんだよね、崩壊連星。」
━それは何故?━
「だってアイツらぶっ壊すことしか脳がねえじゃん?ジェンガとかやったら1ターンで終わりそうだよね。トランプタワーも作れないし、パズルもなんもできない!だから嫌い!…あ、今そんな古いゲームって馬鹿にしたでしょ!分かってないなーこういうシンプルな方が」
「何が目的か言え!後敵じゃない証拠も!」
━じゃないとおしゃべりしません!━
「…悪いな。やっぱどうしても話すと楽しくってな!話すのって何度やっても面白いもんなのさ。止まらなくなっちまう。いや、止め方を見て見ぬフリしてるってとこか…いやん!何感傷に浸ってんだよ!恥ずかしい!」
八代たちにとって今までに味わったことのない妙な空気が流れる。どう口を開けばいいのか分からず、沈黙を選ぶほかなかった。だがその空気を、1人の少女の声が破った。
「もう聞いてらんない見てらんない。何?今の話。」
その少女の声の主も同じようなフードを被って、顔は見えなかった。
「あーいや、どうしても話すの楽しくてよ!…悪かったって。」
「分かればよろしい。んで、どうする?やれそう?これは。」
「さあな。とりあえず触れば分かる。」
「(触れば?)」
そう八代が疑問に思ったのも束の間、男はいきなり襲いかかって、拳を放った。八代は咄嗟に何かを掴んで守ろうとした。すると空間を掴むことができ、伸びた空間は男の拳に当たってガラスのように割れた。
「あ、おいこの空間掴めちゃってるじゃん!」
「解除したら外部にバレる。おマエは頑張って適応して。」
「はーっ人使いの荒いこと!嫌になっちゃうわ!あたし!転職サイト開こ!」
男は八代に向かって蹴りと拳を交えた乱打を叩き込んでいく。
「ほらほら、一方的じゃつまんないぜー?」
「(コイツの攻撃…性質が俺たちのと似てる!)」
━『天地貫槍』━
回り込んでいたガイードが男の背後から攻撃を仕掛けた。だが槍の先端は男の顔寸前で止まり、反撃を喰らって後退りしてしまった。
「へえ、それは使えんだ。悪くない!」
━これ以上させませ…うっ!━
「おマエの相手はワタシ。」
少女はガイードに向かって青いエネルギー弾を放ち、注意を引いた。男と八代、少女とガイードの構図が出来上がった。
「さてと、じゃあコイツはどうする?」
男は空間を掴み、槍のように伸ばす。そう『天地貫槍』だ。
「お前、俺たちの能力をコピーしたのか!?」
「自分の能力なんて言うわけないっしょ!」
「『天地踏破』」
八代は正面から向かってきた『天地貫槍』を、『天地踏破』で上に逃げたことでなんとか回避した。
「それもいけちゃうか!もっと見せろよ!」
男は下から突き上げるように槍を何本も作り出した。まだ完璧とは言えない出来の『天地踏破』では一本一本見てから回避するしかできず、訓練による疲れから集中力も低下し、ついに一本の槍が八代の足を掠め、真下に落ちた。
「あったりい!」
「ゔっ!」
━ミツキ!━
「だから相手はワタシ。行かせないよ。」
青いエネルギー弾を線状に撃ち込み、その爆風でガイードとの連絡は閉ざされた。
「うーん、これも駄目だったかあ。」
男は跪く八代の前で空間を大きく掴んだ。
「…俺も人間だな。まだ殺しには抵抗しかねえや。」
男は腕を振りかざす。
「まあ、時間重視ってことで!bye!」
「うらああああっ!」
八代の意志は不屈の意志。一回落ちた程度では折れる意志ではない。足を怪我し、跪くふりをして地面を広く掴み、大槍を作り出した。
真正面から槍は衝突する。
「いいねいいね!前言撤回、期待値爆上がり!」
しかし、上の方にいる男の方が力は強い。八代は押され、ジリジリと斜め下は槍は下がっていく。
「力は俺の方が強いみたいだ!重力に負けるな!黒淵のとこでやってんだろ?」
何故それを知っているのか、などと質問する余裕はなかった。八代は今、なんとしてでもこの男を退け、生き延びなければならなかった。でないと、空のまま死ぬことになるから。しかしそんな窮地は、人を成長させる。それは経験が証明済だ。
「ん…?」
男は、八代の槍を突き出している右手とは反対の左手から、何か違和感を感じずにはいられなかった。
八代は左手で掴んでいた。それは、大地でも、空でも、この空間でもなかった。八代自身でも、何を掴んでいるか分からなかった。
分かるはずがなかった。どうしてか、って?何故ならそれは
世界だから。
八代は男を槍ごと遥か後方に吹き飛ばし、空間を割り、彼らを閉じ込めていた謎の空間は消えた。家からは衝撃による煙があがり、彼を包み込んだ。
「何してるの!」
━助かった、んでしょうか?━
「悪い、俺も、何されたか分かんねえ。」
「…え?」
「分かんねえんだよ!すげえぞ!初めてだ!」
「本当に?」
「マジマジ!分からなかった!知らなかった!おい!今何やったんだよ!」
男は興奮気味で、少女もそことなく嬉しそうだった。八代は何が起きたか自身でも理解できず、ただ左手を見た。
「分から…ない。」
「ははっ!だろうな!だって今の俺お前より知識あるもん!」
「変なとこでマウントとらなくていいから。とりあえず、これでいいんだよね?」
「ああ。」
━ちょっと待って下さい!ミツキに何かしたんですか!?そして結局貴方たちは何者なんですか!?━
「確かに、このまま何も伝えずに帰るってのもよくねえな。」
「発言には気をつけなよ。」
「わーってるわーってる!
さて、じゃあそのガイ…ードの質問に答えてやろう。そしたら帰る。
まず一つ。俺はアイツを調べただけだ。怪我も治ってるはず。」
「あれ、本当だ!さっき足をやったはずなのに。」
「ほらな。んで、次。
恐らく、お前らどっちも記憶喪失だろ?」
「…ああ。」
━ええ。━
「俺たちはお前たちの、記憶を失う前を知っている。」
「え」━え━
「嘘じゃねえ。本当に知ってる。ただ、今は話さない。」
「なんでだよ!」
「それじゃハッピーにはならねーからだ。ずぇーったいにな。だから、お前らについてはまだ何も言わん。ま、この感じだといずれ分かるかもしれねえけどな。だからアドバイスってか、忠告。仲間を増やしておけ。そうすりゃお前らが倒れてもきっと、そいつらが支えてくれる。」
男が意味ありげな一言を呟いた直後、空気を荒く殴り倒しながら家を破壊して降下する影が一つあった。破片は八代とガイードに当たらず、煙は晴れた。そこに佇んでいたのは運天とドッドドだった。
━「おい待ちやがれ侵入者ども。お前ら今日訓練に参加してる隊員の中にいなかったな。話でもしてかねえか。」━
「うわっやべ!ちょ、早く!」
「もう作った!入れ!」
━「ノリの悪い奴らだ。」━
「サンキュー愛してるぜ!あ、それからも一つ情報。
俺たちとお前らはダチだった。
じゃあな!」
そう言い残して、風の手が後数センチのところに迫っていたところで、2人は消えていった。当たらなかった風は前方の家々を薙ぎ倒して消え去った。
「…友達?あんなのと!?」
━てかそれだけですか!?━
「でも、大きな情報は手に入った。俺たちを知っている奴が、この世界にいる。なんとしてもまたアイツらに会って話をしないと。」
━「おいお前ら。怪我ねえか?」━
運天とドッドドが2人のもとへ駆け寄った。
「あ、さっきの敵」
━「今は普段通りの心優しき正義の味方だ。あれは侵入者で間違いないか?」━
━え、ええ。━
━「チッ…おい松本。侵入者が出た。訓練は即座に中止。俺が全員避難させるから封鎖手伝え。」━
運天は自身に向く怒りを抑えながら、八代とガイードに話しかけた。
━「変な姿勢で乗るな。下手に動くな。そしたらすぐに逃げられる以上。」━
運天とドッドドは有無を言わずに2人を風に乗せて飛ばした。
「うわっ、飛んでる!」
━ありがとうございます!━
━「礼されていい立場じゃねえ。早くここ出ろよ。」━
運天はそう言い放ち、他の新人隊員のもとへと向かった。風にやられる最中、2人の脳内にはあの男と女のことが満ちていた。遥か遠くで、非常に曖昧で、シルエットすら見えないようなあの2人のことがどうにも忘れられず、言葉を頭の中でずっと繰り返していた。
"「悪い、俺も、何されたか分かんねえ。」"
"「俺はお前たちの記憶を失う前を知っている。」"
"「俺らとお前らはダチだった。」"




