40 強みを活かせ!
「すごい、道が出来てる!」
「こっちの駐車場も使えまーす!皆さん来てください!」
「まだ足元には気をつけろよ!」
八代たちが作った道を通って、負傷者役の隊員たちが運ばれ始めた。指揮を行っていた1人の隊員が駆け寄って、お礼を言いに来た。
「迅速な作業、皆さんありがとうございます!」
特殊や品川でない、途中から作業に参加した隊員たちは手をタッチしたりして達成感を分かち合った。橙木と根来も特殊の前に手を掲げた。
「俺が振るのもおかしいけど、やったな!」
橙木は恥ずかしさを隠すように大げさに笑った。根来は嫌味を言うことなく、しかし何か良いことを言うこともなく黙って手を出した。
八代、ガイード、雨龍もそれに応えるようにハイタッチした。
「さて、じゃあ次は俺たちも負傷者を探しに」
「戦闘可能な隊員!北エリアに暴走意志と魂犯罪者が出た!至急応援を頼む!」
その一声にざわめきが走る。
「そ、そうです!この訓練は暴走意志等が現世界に現れた際を想定している。敵がいたっておかしくない!」
唐突なその情報を前に、最初に口を開いたのは橙木だった。その行動に迷いはなかった。
「八代!雨龍!奴らを鎮圧しに行こう!足は絶対引っ張らねえ!」
「勿論そのつもり!」
「いいよ、行こう。」
「僕は残りますよ!僕の役割は分析なので!皆さんの足をひ…こ、ここにいた方が良い役割ができると、お、思うので!」
「キヨシ!お前は足手纏いなんかじゃない!ここで自分の役割をこなせ!」
「は、はい!じゃあコウスケ!…と、2人とも。倒せなかったら容赦しませんからね!さっきの言葉も取り消します!」
キヨシは相変わらず言葉が素直ではなかったが、本心は応援しているのだということが彼らには分かっていた。一行は北エリアの応援に向かうと一言他の隊員に伝達してから走り出した。
━「あーガキ相手にイきるの気持ちよすぎ。マジでこれ永遠に続いてくんねえかな。お前ら好きだもっとやらせろー。」━
「あれっぽいな!」
「あの発言大丈夫?」
━役に徹してるということで…!━
その声の主は、魂装した隊員だった。風を巻き起こし、周囲の物を吹き飛ばしながら暴れている。隊員たちは耐えるので精一杯で、魂を持っている二、三名の隊員の攻撃も当たらずにいた。
━「ほらかかってこい。なんだ?その魂はおともペットかなんかか?」━
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「ははは!!!役が上手いなあ運天!!!いい暴れっぷりだ!!!」
「あの発言に関しては少し審議する必要があると思いますがね。」
敵役に選ばれたのはスタビライザー本部所属、運天カイリと、『風』の魂、ドッドド。戦闘力や判断力含めた能力は千装や黒淵を始めとした多くの隊長が認め、総隊長候補にも上がったほど高い。だが本人たちのどうなってもいいという運命に身を委ねる姿勢が総隊長に相応しくないとされ、落選した。
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「あの範囲と威力!真正面から行ったら捻り潰されて終わりだぜ!」
「死角から、重い攻撃数発で倒し切るのが良さそうだね。」
「そういえば2人はどうやって戦うんだ?」
「確かにまだ紹介してなかったな。俺の武器はコイツだ。」
橙木が取り出したのは細い棒だった。しかしそれは、ボタンを押すことで大槌へと変化した。
「訓練だから人に当たるときは自動で威力が抑えられる!でもそれ以外は俺が普段から使ってる大槌と同じだ!」
「私はこの刀。」
雨龍は腰に下げていた刀を見せた。橙木のと違って伝統的な真剣であり、特段仕掛けなどはない。だが一つ目に留まるのは、鞘と唾が固定されているところだ。
「そっか、本当の刀じゃ危ないもんな。」
「……まあ…うん。」
「でも俺たちの武器より、絶対火力自体はお前らの方が高い!だから八代とガイードがさっきみたいな攻撃叩き込めばいいんじゃねえか!?」
「俺たちの攻撃は大振りだ。風に関する魂の力と考えると、素早い回避から反撃を喰らう可能性が高い。だから叩くのは橙木と雨龍がいいと思う。」
「確かに私たちの方が攻撃速度は速いかもだけど、どうやってあれに近づけばいい?風に巻き込まれて吹き飛ばされるのが目に見えてるよ。それに、言ってた通り避けられるかもしれない。あれへの接近、固定、攻撃の流れが必要そう。」
橙木は手に持つ大槌を見た。八代は風が地面を抉り、吹き飛ばしている様子を見た。両者は同時に口を開いた。
「「できるかもしれない!」」
━「さーてそろそろお前ら好きじゃなくなってきたな。次行くか。」━
「『天地貫槍』!」
八代と橙木は地面の中から勢いよく飛び出して、運天の足元に入り込んだ。
━「へえ、地面から。これはこれで面白くて好きだ。」━
「橙木!」
「任せろ!重さMAX!」
橙木は大槌の持ち手を捻り、重さを変えた。橙木の大槌は一本の棒から大槌にできるように、重さを変えることができる。
「そして俺が伸ばす!」
八代は大槌の持ち手を伸ばして、素早く運天の足に巻きつけた。
━「重い…。」━
運天とドッドドはさらに強い風を大槌に巻き起こし、かなり重いはずのそれを微かに動かした。
「これでもまだ動くのかよ…!でもな!」
八代は風が大槌に集中するタイミングを見逃さず、伸ばしていたのを解除した。
━「おっと!」━
運天は大槌の重さによって抑えられていたドッドドの風が解き放たれたことで、空に向かって勢いよく飛び上がる。そしてその上空に輝く影が2つ。
━『天地踏破』!━
「わ、本当に浮いてる…。」
雨龍はガイードに手を握られ、上空から運天を捉えていた。ガイードは雨龍の手を離し、雨龍は空に向かって行く運天に対して鞘付きの刀を構える。
━「チッ、そういうことかよ。」━
「はぁぁぁっ!」
刀が運天の脳天に落ちる。運天はそれを受け入れて地面に落ちた。
「やったな!」
「ああ!撃破だぜ!」
「…あ。」
「あ」「あ」
そう、彼らは肝心な一点を見落としていた。倒した後のことだ。このままでは…
「落ちる!」
雨龍は地面に向かって落ちていく、そう誰もが思っていたが、やられたはずの運天とドッドドが起き上がり、風で浮かせて助けた。
━「ケアがなってねえな。敵倒してから終わりじゃねえぞ。」━
運天は八代に詰め寄った。
「す、すいません!」
━「謝る相手が違うだろうがバカ青緑頭。」━
運天とドッドドは風で八代を雨龍の前に吹き飛ばした。
「ごめん!雨龍!」
「俺も!倒した後のこと考えてなかった!」
「まあ、助かったし。それにそのこと考えてなかった私自身も悪いし。お互い様ってことで。」
「寛容な心に感謝〜って、待って。敵まだ起きてたよな!?」
「倒しきれなかったのか!?」
「一筋縄じゃいかないってことだね。」
隊員たちが身構えた瞬間、運天とドッドドは横になって口を開いた。
━「でも各々の強み、地形、相手の能力を扱い叩き込まれた今の攻撃は悪くなかったなー。こりゃやられるなー。あーれー。」━
そう言って運天は魂装を解き、どこに隠していたのだろうか白旗を取り出し、やられた…フリをしていた。
「わざとらしい…はっ!まさか俺らに油断させようと策を練ってるんじゃ!」
「マジかよ!?じゃあ俺らで全力でボコボコに」
「宝塚が感動で失禁するレベルの演技を見破っただと?やっぱお前ら他の有象無象共とは違えな。好きだ。」
そう言って運天はあぐらをかいて動かなかった。
「なんで今俺たち告白されたんだ?」
「まあ何はともあれ勝ちってことで。」
「いいのか?」
━締まりませんね。━
隊員たちが喜びをいまいち実感できないでいると、運天に手も足も出なかった隊員たちも出てきた。
「ありがとう、助かったよ。」
「魂の力にはこんな扱い方が…参考にします!」
━テメェが弱いのがいけねえんだ!━
「綺麗な戦いだったな!天晴れだ!」
「おいガキども。俺逃げてもいいのかよ?犯人ぶん殴って捕まえもせずそのまま引き返すバカがどこにいるってんだ。好きじゃないぜお前ら。」
運天の言い方の悪い正論に、隊員たちも焦って動き始めた。
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「まさかあの運天とドッドドに一発喰らわせるとはな!!!今年は大豊作のようだ!!!ははは!!!」
「っしゃ!やっぱ特殊よ!最高だ2人とも!」
━へっ、案外やるじゃねえか!━
「うおおおおあああ橙木よくやったあああ!それにあの根来も自分から他人を助けにうわあああ!」
応援席も熱く盛り上がっていた。
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ただ、そんな熱に溢れる訓練会の陰に潜む、怪しげな影が2つ。
「あぶねー!ギリギリ着いたってとこか!?」
「うん。この時間だね。いい?慣れてるときに人はミスするものなの。」
「はいはい分かったよーだ。はあ、お前も俺も、こんなのに慣れたくなかったな。」
「まあそりゃ、そうだけど。」
「っし、じゃあちょっくら探ってきますかねーっと。」




