39 闘争心に抗え!
「すっごい中が本当に街だ!」
━でも言っていた通り、どこもかしこもボロボロですね。━
八代、ガイード、雨龍の前に広がっていたのは、何者かが暴れた形跡のある街中であった。街には炎が上がる演出や、火花が散る演出がホログラムで成されており、実際に火傷や感電はしないと分かっていても恐ろしさを感じずにはいられない状態となっている。
「た…助け…。」
雨龍の足元には建物の倒壊に巻き込まれて怪我をした一般市民…という設定の役に扮した隊員が倒れていた。
「そっか、ここは現世界っていう設定だから一般市民もいる。となると私たちがすべきなのは救助だね。」
「確かにそっか!だとしたらえっと、まずはこの人を安全な場に」
「そ、それは駄目ですよ。」
「うえっ!?あ、さっきの!」
背後に立っていたのは根来だった。
「ま、まず自分は安全なんでしょうか?後ろの建物は安全なんですか?倒壊する危険はないんですか?巻き込まれて一緒に死ぬなどあ、ありえません。そしてこの人の怪我は動かしてもだ、大丈夫なんでしょうか?もし無理に背負ったりして傷口が開いて出血多量になったり、激しい痛みで気を失ったらどうするんですか?」
「う…。」
「そもそも、君の後ろにいるのは魂なんですよね?大きな力を持っているのならば、人々の避難場所を作り出したり、道を作る方が適しているのでは?」
「ぐ…。」
「魂の力にかまけて基礎ができていないようでは、スタビライザーの隊員としてお話になりませんよ。」
「キヨシ!その人がいる場所は安全だ!俺がこの人を守るからキヨシは担げ!」
「承知!」
「(うちのキヨシが悪いな。コイツはまあ確かに話し方に癖があるとはいえ、アドバイスはかなり的確。簡単に人の心を折っちまうほどだ。)」
「(残念ですが、こ、ここでプライドを折られてリタイア、ですかね。)」
「あの、八代?大丈」
「ありがとう!教えてくれて!」
━ええ、助かりました!━
「「「え?」」」
彼らには一つ、誤算があった。八代とガイードは記憶喪失の身、故に自身のことを"空っぽ"だと思い込んでいる。そしてその空を満たすため、不屈の意志を持って今ここに立っているのだ。当然、根来の人のプライドを折りかねないアドバイスも、その空を埋める材料とされた。
「俺は危険を取り除いて避難場所を作る!雨龍、中に人がいないか確認してくれないか?ガイードもついていって!建物が崩れたときに守れるよう!」
━いい案ですね!分かりました。行きましょう、雨龍さん。━
「うん。」
雨龍とガイードは周りの建物の中に呼びかけをしながら、逃げ遅れた人がいないかを確認しにいった。
「橙木、根来!2人も手伝ってくれるか?」
「「え」」
「な、何言ってるんですか!これは点数勝負、競い合いなんですよ!」
「そうだぜ。いくらなんでもお前らの点数を直接下げるつもりは」
「点数勝負って、多分あれブラフ!」
「さっきから何を」
「いや…まさかそういうことか!?」
「さっき松本って人は採点としか言ってなかった。なのにあの応援団の異常なまでの応援…多分俺たちに競わせようとしてるんじゃないか?ただそれは絶対減点ポイント!」
「つまるところ、俺たちは先輩たちの闘争心の煽りに負けず、本来の目的を果たせるかの試練を与えられてるってことか!?」
「多分そういうこと!考えすぎかもしれないけど!」
「くっ…確かに、不安や恐怖といったマイナスの感情だけではなく、高揚といったプラスの感情にも振り回されないようにするというのは理に適っている…偶然のひらめきに感謝することですね!」
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「お、ぼちぼち気づいてるみたいですね。」
「中々優秀だな今年は。」
「くっ…やるねみんな!私たち結構煽ったつもりなんだけど!」
━( ̄ー ̄)チッ、はまらなかったか。━
━俺の演技は完璧だったはずなのに!クソ!━
「あの感じ…うちの子たち特殊に言われて気づいたみたいですね。」
「フン、他の隊に言われぬと気づかないとは愚かな!だが気づいたならそれはそれでいい。ここからは全力で応援できるぞ!そーれ」
「しっながわ!しっながわ!しっながわ!」
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「八代。中に1人いたよ。」
「うう…ママ…パパ…。」
━いい大人の女性が…。━
「うるせぇ!今日くらい楽しませろアホンダラ!」
「怒らせちゃったね。」
━グラララって笑いそうですね。━
「よし、じゃあ俺がこの瓦礫をどかして道を作る。みんなはその人たちを守って離れていてくれ。」
「わ、分かった!」「君に指図される筋合いなどありません!……分かりましたよ!」
八代は空間を掴んで前へと突き出す。
「『天地貫槍』」
瓦礫は左右に押し除けられ、一本の広い道ができた。
「…すげえ。」「どど、どこを掴んだんですか!?空気!?虚!?怖い!」
「よし、じゃあ進もう!周りには十分気をつけて。」
一行は八代が作り出した道を通って、街の中心の方へと向かった。そこには公園があり、他の隊員も集まっていた。その中心で負傷者のトリアージを行っている隊員たちがいた。
「そこの人!負傷者の状態は!」
「足を負傷しています。受け答え、脈拍、呼吸共に異常はありません。」
「ちょっと見せてね…OK、じゃあその左側にある場所に運んであげて!」
「分かりました。」
「おーい、こっちも頼む!」
「この人はどちらへ?」
「こっちだ!」
「南エリアは終わりました。一応確認としてもう一度見てきます!」
「分かった。じゃあ南エリアの探索に回していたメンバーを2番目に被害の大きい東側に向かわせよう。」
「ぼ、僕たちはどうしましょう?」
「そうだな…エリアの探索に回るべきか、いや、でも人を運んだ方が」
「八代、私たちは負傷者の安置所を広げよう。」
「ああ。このままじゃきっと溢れる。」
━話を聞いた感じ、まだ南エリアしか終わっていないようですが、それでも半分以上埋まっていますね。他のエリアの方が被害は少ないようですが、それでも溢れるのは間違いありません。━
特殊派遣部隊の隊員は負傷者を安置しているスペースを広げに、トリアージを行っている隊員のもとへ向かった。
「トリアージのスペースを広げた方が良いと思いませんか?まだ南エリアしか探索は終わってないようですが、このペースだとじきにここも埋まります。」
「確かに…気づかなかったよ、ありがと!でもここには人が沢山いるから、広げる時の粉塵や瓦礫が飛び散ったら危ないよね…。」
「話は聞いた!それならここから東に50mのところに広い駐車場がある。そこを使おう。」
「周りに高い建物も少なかったから安全性は高いですよ。」
「でも道が悪路なんですよね。」
「だったら俺たちが」
「ちょっと待て!このあたりは人が多い!お前と魂の力は確かにすげえけど、それじゃ二次被害が出るぜ!」
「確かに。じゃあ力は使えないな。」
「あ、あの瓦礫を人の手でどかすなんて、無理だと思いますが。」
「いや、いけるよ。」
八代、ガイード、雨龍は瓦礫に手を伸ばして、押してみせた。すると瓦礫は割と簡単に動いた。
「ど、どうなってるんですか腕の力!?」
「私たち、いつも黒淵隊長からもっと重い訓練させられてるから。」
「これくらい軽い!」
━トレーニングの成果が出ましたね。━
「お前やってないだろ!」
「さ、どんどんやっていこう。」
彼らは黙々と、着実に道を作り始めた。
「さっきから行動の読めない奴ら…!気味が悪いです!コウス」
「…俺も手伝う!」
「え、ええ!?」
橙木も瓦礫をどかし始めた。
「こ…これ重くないか!?すげえなお前ら!」
「手伝ってくれるのか!ありがとうな。」
「お、やっと素直になった?」
「ちょ、ちょっと!」
「もう諦めろキヨシ!コイツらは魂の力抜きにしてもすげえ奴らだ!変なプライドなんか持ってねえ!」
橙木は恥ずかしいのか瓦礫を押しながら顔を見ずに話し続ける。
「さっきは悪かった。養成校時代は俺たち、割と良い方でさ。だから当然、スタビライザーではトップも夢じゃないと思ってた。」
ゆっくりと顔を上げてから、再び口を開く。
「でも、京葉の一件で俺より上のお前らがいることを知った。俺はそれを魂の力のせいだってガキみたいな言い訳で逃げた。」
橙木は瓦礫から手を離す。
「でも今までの流れで分かった。お前らは魂の力抜きにすげえ奴らだ。嫌なこと言って悪かった。そして、尊敬するぜ。」
橙木は頭を下げて、それから3人の目を見た。
「だから、手伝わせてくれ!お前らを追いかけてそして…いつか追い抜かしてやる!」
「応!手伝ってくれるなら大歓迎!一緒にやろう!」
根来も隊員たちの方へ歩み寄った。
「そ、その、ぼ、ぼ僕も…。」
「えー?聞こえないな。」
雨龍は悪戯っぽく根来に聞いてみた。
「ああもう分かりましたよ!僕だってコウスケと同じですよ!昔からこんな風にしか話せないんです!手伝います!」
根来は顔を真っ赤にして反対側の瓦礫を押し始めた。皆もその姿に笑みを浮かべ、瓦礫をどかして道作りを再開した。そのときには既に、少し先の駐車場が見えていた。




