35 コトをワリてコエル
止境隊長と黒淵隊長のアンとの戦闘が現世界に及んでいるとき、1号車の隊員たちは砂の暴走意志と化したダイに対して、援護が来るまで耐久戦を強いられていた。
━「装甲Ⅲ。」━
千装隊長の装備は再び重厚な姿へと戻り、肉体も露出した。肉体は所々内出血を起こしており、体を動かすだけでも痛みが走る状態であったが、千装隊長持ち前の胆力と、死んでもおかしくない状況に置かれたアドレナリンで持ち堪えていた。
━「これ以上Ⅳを使い続けるわけにはいかないな。」━
ダイは暴走意志となった体を蠢かせ、全てを飲み込む砂漠のように隊員全員に襲いかかる。
━「頑丈だな。どうだ?うちで文字通りのサンドバッグとして第二の人生送るってのは。」━
他の隊員たちは耐えるのに専念していたが、それでも千装隊長とライフブレイカーは限られた装備で出来る限りの攻撃を続ける。
「ヴアアアアッッッ!」
だがそれはアンという人生の全てと言ってもいい大切な姉を失ったことに気がついたダイの、全てを破壊する意志の前では無力に等しいものだった。全てを押し流すように砂はどんどん溢れてゆく。
そんな状況下で、5thとエレクトロが突如として千装隊長とライフブレイカーの側に現れた。
「千装隊長!これを!」
5thは気体の入った瓶を渡した。その中身を千装隊長は理解していた。
━「ありがとう。使わせてもらおう。」━
看板をサーフボードのように滑らせ、砂の中にまだ残っている頑丈な柱を伝っていき、ダイの呼吸器と思われる穴に近づいた。
━「ちょっと落ち着いてもらおうか!」━
千装隊長は瓶を持って跳び上がった。そしてその瓶は綺麗に呼吸器の中に吸い込まれていく。
━「これ飲んでろ!」━
しかしそれに暴走意志になったダイの体が反射的に反応し、砂の手がライフブレイカーの足を掴もうとした。
━「まず」━
「『電光石火』!」━『電光石火』!━
千装隊長とライフブレイカーを5thとエレクトロが体を電気のように光らせて突き飛ばしたで彼女らは事なきを得た。だが5thとエレクトロはその場に取り残されてしまい、砂の上に落ちた。ダイの攻撃の標的は彼らへと移る。
━「5th!エレクトロ!」━
「お構いなく。これが俺たちの役目ですから。」
━覚悟はできていましたよ。彼も、私も。━
最期を覚悟した彼らは笑顔で千装隊長の顔を見た。
千装隊長とライフブレイカーは駆け出す。砂の手は徐々に近づいてくる。諦め。その言葉が脳に払い込もうとしたとき、それを尾を掴んで遠くへ消し飛ばすような声が端末から響いた。
"━2号車だ!もうそろそろ着くぜ海ほたるに!━"
"「おい待てよもう着くんだから安全運転ってうわあっ!」"
"━これ以上は免停ですよ免停!━"
「あいつら!」
「無事だ!良かった!」
超速で突っ込んできた出動車はダイに直撃し、姿勢を崩した。ダイは2号車の方を振り向く。
━「今だ!掴まれ!」━
千装隊長は手を伸ばして5thとエレクトロの手を掴んだ。そのまままだ砂に呑まれていない場所へ引き上げ、息を整えた。
「ありがとうございます。」
━まさか生き残れるとは思いませんでしたよ。━
━「無事で良かった…。そして、来たようだな。」━
「2号車到着!」
ダイを挟む形で1号車と2号車の面々が並んだ。
"━「1st、聞こえるか?」━"
"「はい!」"
"━「ここからは全員全力でダイもとい『砂』の暴走意志を鎮圧する。1st、5thは私の元へ。そして」━"
"━時間稼ぎは俺に任せなリンさん!━"
その懐かしい声色に千装隊長は瞳孔を開いた。
"━「…戻ったな。」━"
"━勘が鋭いな。その通りだ。今まで迷惑かけた分今ここで払ってやる!━"
"「俺らもやります。」"
"━新しく手に入れた技のお試しです!━"
"「SST8の意地見せるとこだよみんな!」"
"「やってやらあ!」"
全ての隊員が立ち上がる。それは物理的にも、精神的にも、決戦に全力で臨む意志の表れであった。千装隊長は端末を切り、息を大きく吸い込んで叫ぶ。
━「決戦開始!!!」━
隊員が一斉に動き出す。ダイもそれに煽られるように全方向から柱のように砂を噴き出す。
━おいこらミツキ!またあれで行くぞ!━
「OK拒否権なしねクソクソクソ!」
八代は諦めの表情でアウトロードの背中に乗る。
━行くぜーッ!━
空から降ってくる砂岩を左右に避けながらダイの方向へと向かう。
━『天地貫槍』!━
砂に向かって八代が攻撃する。しかし抉れた砂はすぐに回復してしまった。
━手応えなし!━
「うーん撤退!」
━厄介なヤツだ!お前のその変な技でも効かねえってことは俺の脚も効かねえ!こりゃしばらく撹乱に回った方が良さそうだ!━
「それ要するにもっと加速ってことですよねーッ!」
八代はアウトロードにしがみつく。アウトロードはダイがギリギリ目で追えるくらいの速度でダイの動きを撹乱する。
━へっ、これでもまだ本気じゃねえけどな!捕まえてみろよ!━
ダイはその動きに怒りを覚え、アウトロードたちを砂の壁で囲った。
━あー…辞世の一句ってこういうときに詠めばいいんだったか?━
「詠むな走れ!俺の合図で宙に足を浮かせろ!」
━何を━
━いいですから!さっきのやつをもう一回使います!━
アウトロードは2人の言動に押される形ですぐに加速を始めた。迫り来る壁の手前で、八代は叫んだ。
「『天地踏破』!」
見えない大地を踏み締めて、彼らは宙へと飛び上がった。そしてアウトロードの推進力を活かして上の高速道路へと緊急回避ができた。
━俺空走ってるぜ!その割には足がバタついてる気もするが。━
「俺たちで走ってんだわ。」
━泥棒は嘘つきの始まりですよ!━
「嘘つきは泥棒の始まりって必要十分条件だったのか?」
ダイの攻撃は彼らに一点集中していた。
「うわ全部来てる!帰ってくれ!」
━へっ、だったら好都合!リンさんたちの準備か終わるまで俺たちで時間を稼ぐぞ!━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━千装隊長は魂装を解除し、乱れた息を整えながら1stと5thと共に半壊した展望デッキに立った。
「余力は?」
「まだあります。」
「俺も。」
「良かった。なら奴を討てる。」
「千装隊長?何をするつもりで?」
「秘策があるんだ。まだ未完成、それも構想でしかなかったことだがな。」
荒廃した土地に千装隊長とライフブレイカーは立つ。その背後には楽園が広がっている。
「ライフブレイカー。」
千装隊長はライフブレイカーに触れる。
「皆無事に帰らせるぞ。」
ライフブレイカーは沈黙した。
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ライフブレイカーの力は人が扱うには代償が大きすぎた。ライフブレイカーは、人を傷つけることを嫌っていた。
ある日、入隊してまもない千装隊長が属していた班が全滅しかけている場面に遭遇した。千装隊長はいかなる犠牲を払ってでも良い、仲間を守りたいという意志だけを抱いていた。
ライフブレイカーは悩んだ。沢山の人を守りたかったが、そうするためには千装と相棒になり、千装を傷つけるしかなかったからだ。だがそれでも、千装の前に出た。
「…相棒になってもいいか?」
━『装甲』の魂、ライフブレイカー、了承。━
千装はライフブレイカーを気合を入れて叩いた。千装はライフブレイカーの相棒となり、敵を2人で殲滅した。ライフブレイカーが振り返ると、そこには千装隊長がふらつきながら立っていた。
「おつ…かれ!」
千装は近づいてきたライフブレイカーにもたれかかりながら歯を見せて笑った。自身が力を使っても、生きている。それが堪らなく嬉しかった。だがそれを表現する術はなかった。
それから、千装とライフブレイカーは素晴らしいコンビとしてみるみる成長を遂げていった。それは役職としても、強さとしても。だがそれと同時にライフブレイカーの懸念も増えていった。
千装は隊長になると、隊長としての責任、そしてその責任を押しのけるような、アウトロードと千速の一件から生まれた皆を守りたいという強い意志が、彼女の体に負担をかけていった。装甲Ⅰのデメリットがなくなれば装甲Ⅱへ、装甲Ⅱのデメリットなくなれば装甲Ⅲへといった具合に。それはいつか千装隊長の命を蝕むのではないかと、ライフブレイカーは恐れていた。そしてその瞬間が今、訪れようとしていた。
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ライフブレイカーは沈黙を貫いた。皆無事に帰らせる。その皆に千装隊長は含まれているのか。初めて相棒となった千装隊長は無事なのか。無事であってほしい。いや、無事で帰らせる。その強い意志は、千装隊長の心に伝わった。
「皆で、無事に帰ろう。」
千装隊長は歯を見せて笑った。
━…『装甲』の魂、ライフブレイカー、了承!━
千装隊長は再び皆に伝達した。
"「皆、少しの間でいい。全力でダイの意識を私から逸らして欲しい。何をしたって構わない!」"
千装隊長は端末をしまって深く息を吸った。
「1stとマグネシアは右肩から、5thとエレクトロは左肩からできるだけ限界まで力を注いでくれ!」
千装隊長の両腕と背中にのみ、装備が集中していく。1stとマグネシア、5thとエレクトロは千装隊長の肩をそれぞれ掴んだ。
━「装甲Ⅴ!」━




