32 決戦開始
「ここで繋界を開こうか。」
「分かりました。」
川崎隊の隊員は出動車から降りて世界鍵を取り出し、前方に繋界を作り出した。
「じゃあ、後はよろしくね。」
「任せて。頑張る。」
「うう…子供に命張らせるわけにはいかないじゃないですか。私だってやるときはやりますよ!」
黒淵隊長と川崎隊の隊長、止境隊長はそう伝えた後、徒歩で繋界を通り抜けた。
「さて、ではここからは僕が運転しよう。」
「え?黒淵隊長、どこかに乗り物でもあるんですか?」
「いや、僕の魂の力を応用する。」
「それってわっ!」
黒淵隊長は止境隊長ごと宙に浮かび上がらせ、そのまま加速していく。
「凄い、僕空を飛んでる!」
「お楽しみいただけて何より。でもかなり急ぐからね。いつ接敵しても問題ないように。」
「も、勿論そのつもりです。オクロック、準備は良いか?」
━もっちろーん!ワタシに任せなさい!━
止境隊長の中から元気な魂の声が響く。
「大丈夫そうだね。よし、じゃあ一気に行くよ!」
黒淵隊長は更に加速し、異世界の東京湾を飛んで行く。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━「千装隊長、俺が全員に連絡します。」
━「助かる。」━
2ndはこの作戦に従事している隊員に連絡を取った。
"「全員に連絡します。現在、1号車は海ほたるにてダイと戦闘中。アンが来るとしたらここです!」"
"「了解。もう少しで異世界に入れる。もしアンが来たらその時は命を優先して動くんだ。僕たちがアンはなんとかする。」"
"「こちら…2号車!現在海ほたるに向かっています!うわっ風圧が!」"
"「何があった2号車!」"
"「大丈夫です敵襲ではありません!すぐそっちへ向かいます!また後でお会いしましょう!」"
━「全員ここに集合か。敵も味方も含めて。」━
「はい。」
━「せっかく用意された場だ。存分に使うぞ!」━
「はい!」
隊員たちは突っ込んでくるダイと正面衝突するのではなく、建物や入り乱れる高速道路の上に移動した。
「なるほど。海ほたるにイドウしたのはより複雑でより広いフィールドで戦うためか。そんなコザイク全て壊してくれる!」
ダイは怒りによって底上げされた強い意志を以て砂の攻撃の勢いを増していく。それは砂嵐のようになって海ほたる全体を包んだ。
「砂嵐!?」
━「厄介だな!」━
「(千装さえやれば他の面子は取るに足らない。千装を確実に殺す!)」
砂の中必死に目を凝らすダイは、高速道路の車線を飛び移る者を見つけた。
「その飛ぶ姿!千装だ」
「残念。」
━俺たちだ。━
━「本物はこっちだ!」━
千装隊長とライフブレイカーとダイが誤認したのは『リワインド』で壊れた瓦礫に捕まっていた追崎とチェイサーであった。砂嵐による視界不良、そして先程までの空中戦を通して、ダイは飛ぶ者を千装隊長だと認識しやすくなっている。
この砂嵐の状況下では視界不良となるが、図体が大きいダイを見失うことはまずない。一方小さな隊員たちは見えにくく、ダイにとって不利な状況…という訳でもない。砂嵐は丈夫な隊服があるとはいえヤスリのように隊員たちに少しずつ少しずつダメージを与えていく。一方のダイにとっては魚にとっての水中のようで、害どころかむしろ益。今この状況はお互いにメリットデメリットを抱えているのだ。
「潰れろ!」
「デカい!」
━砂嵐を吸っているのか!━
━( ̄▽ ̄)ツカまれ!━
より大きくなった掌に潰されそうになった追崎とチェイサーをオージャが拾い上げた。
「ありがとな。」
━助かった。━
「次来るよ!」
「砂にノまれろ!」
千装隊長とライフブレイカーが先程撃たれた砂の大波攻撃が、大きさを増して隊員たちに襲いかかる。
━「皆登れ!」━
千装隊長の指示に従い、道路上にいた隊員たちはトラックの荷台や螺旋階段、張り巡らされた柵を伝ってなんとか砂の大波を回避した。砂に呑まれた道路にあった構造物は尽く破壊され、威力の恐ろしさが伝わる。
「どこに行った…!」
ダイは砂嵐の中、飛んでいる影を幾つも見つけた。
「(またブラフ!しかし中身は人!殺される訳にはいかんだろう!)」
ダイは迷いなく飛んでいる影を全て砂で包み込んだ。
「窒息シさせてやる!」
砂に包み込まれた影たちはもがくことなく、ダイの掌の中で動かなくなった。しかしダイが砂の中を確認するとそこにあったのは…。
「ヒトじゃない!?」
━俺の力だ。お前が掴んだ飛んでいたものは全てお前がさっきの攻撃で壊したものだ。━
「くっ…ならば千装は」
━「飛んでいる状態はデフォルトじゃない。消費が激しいからな。」━
千装隊長とライフブレイカーはダイの股の下に潜り込んでいた。背中の飛行装置は外されており、それは右腕に大砲となってついていた。
━「『崩弾』!」━
激しい爆発と共にダイの足が崩れてゆく。
「足が…っ!」
落ちてくる砂の中を進んでゆく。
━「うぐっ!」━
一塊の砂岩が千装隊長の肩に直撃した。それでも止まることなく進んでいき、最後はギリギリのところをスライディングして千装隊長とライフブレイカーは脱した。
「大丈夫ですか!?」
━「問題ない。肩に少し当たっただけだ。」━
「ダイは今体制を崩しています。私が応急処置を。」
6thがバンテージを素早く巻いて氷のうを取り出し縛って千装隊長の肩に固定した。
「ヴヴヴああああッ!」
ダイはうめき声を上げながらまるで溶けているかのような両腕で体を持ち上げようとしている。
「まるで怪獣ですね!」
「理性も失ってきているみたいだ。」
ダイの人ならざる者になりかけている姿に隊員たちは困惑しながらも、弱ったダイを逃す訳にはいかない。最後の攻撃を仕掛けようと再び飛び出す。
━「もう一発『崩弾』をぶち込む!それまで奴を抑えてくれ!」━
「了解!」
これで勝負が決する。そうスタビライザーが確信したときであった。
"「川崎の止境だ!そっちにアンが到達する!僕たちと同時みたいだ!」"
止境隊長からの連絡が届いた。その言葉が全員に緊張感を走らせる。全員が左側を向くと、そこには背中から黒い光を放ちながら、暗い顔に赤い目がついている『事故』の暴走意志が迫っていた。小型の飛行機に乗って突っ込み、爆発を起こした。
「アンが来た!」
2ndが叫ぶと同時にアンは海ほたるに降り立ち、2ndの前に立った。
「アン…ネエ…ちゃん?」
━「まずい!」━
ダイはアンが暴走意志となったことに気がついた。暴走意志になるということはもう元の人間には戻らないということ。もう抱きしめてもらえないということ。実質的に、死んでいるということ。
「よくも…よくもォォォォォァァァァッ!」
ダイの怒りは自我を打ち殺し、身はダイの中に眠る『砂』の魂に渡された。ダイは怒る体を魂に渡したことで、暴走意志となった。砂はダイの体をより大きく、それどころか過剰なほどに溢れ出していき巨人となって隊員の前に立ちはだかる。
━「ダイも暴走意志に!」━
「お前ら2人とも相手にさせるか!」
襲いかかるアンを、2ndは他の隊員に行かせる訳にはいかないと生身で立ちはだかった。
━「やめろ2nd!」━
アンは高速道路自体を捻り曲げ、2ndを叩き潰すように落とす。
「『メガロック』!」━『メガロック』!━
時計のような紋が一瞬浮かび上がり、高速道路の崩落は止まった。
「遅くなった!止境だ!」
━オクロックだよー!━
止境隊長の魂は『停止』の魂、オクロック。クロックワークの機械の姿をしたその魂の力は、無機物にのみ効く停止。完全停止された無機物の動きはなくなる。
「僕も来た!遅くなって申し訳ない。」
━「黒淵隊長、止境隊長!ありがとうございます!」━
「そこの砂の巨人はダイで合ってるかな?暴走意志のようだね。」
「恐らく変わり果てた姉の姿を見たからだと!」
「試してみるか。『胎星』」
黒淵隊長が作り出した死星は噴き出る砂を呑み込んで行く。だがダイもそれに対抗して砂をより多く噴き出した。
「千装隊長!ダイは君たちに任せる!僕とやってもジリ貧になるし、経験は君たちの方がある。」
━「…分かりました!」━
千装隊長は黒淵隊長の願いにそう答えた。だがその返事には、皆限界も近づいている状態でダイを倒し切れるかという不安も含まれていた。その不安を黒淵隊長は見逃さなかった。
「大丈夫!僕たちはいなくてもまだ仲間がいるだろう?」
━「…確かに、そうですね。分かりました、ダイは必ず鎮圧します!」━
「黒淵隊長!僕たちもアンをどうにかしないと!」
アンの攻撃を止境隊長とオクロックは止めてから回避するということを続けて持ち堪えていた。
「ああ。僕たちでここで止めよう!」
黒淵隊長が加わり防戦一方から一旦攻勢へと移り変わると誰もが思ったその瞬間、アンは空に向かって手を翳した。すると空間は裂け始め、繋界が開いた。
「まずい、強力な暴走意志が集まりすぎたか!」
アンは繋界に向かって飛び始めた。
「止境隊長、行くよ!アンが現世界で暴れたら大変なことになる。」
黒淵隊長と止境隊長もそれを追いかけるように飛んで行った。
お互いに全力のクライマックスが今、始まろうとしている。




