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第9話 奴隷を買う



 冒険者ギルドを去った後、街をぶらぶらと歩いていた。


 特に欲しいものがあるわけではない。

 ただ散歩をして、この世界の風土を見て回りたいだけだ。


 買い食いをしたり、目についた店に入ったり。

 そこで人と話をすれば、いろいろと勉強になることもある。


 例えば、この国の貨幣や物価についてもそれでなんとなく学習していた。



 そうしてぶらぶらと歩いていると、店の前で二人組の男女を発見した。


 そこそこの年のおっさんと、若い女の子だ。


「くそ! ふざけやがって、あの野郎! こんなもんを高値で売りつけやがって! 大損じゃねえかよ。てめえもなんとか言えよこの売れ残りが!」


「ご、ごめん、なさ……」


「聞こえねえんだよ、クソが! 死ね!」


 そう言って、男は女の子を蹴りつける。


「何をしてるんだ?」



 白昼堂々と、道端で行われる暴力行為。

 さすがに見ていられないので、そこに割って入って男に話しかける。


「ああ!? てめえ誰だよ!?」


「俺は冒険者のレースケだ。お前こそ、この娘に一体何をしてる」


「ムカついたからボコしてんのよ。なにか文句あるか? こいつは奴隷だぞ」



 奴隷。

 この国では奴隷の売買が認められていた。

 食うに困って身を売る人は少なくない。


「この娘はあんたの奴隷ってことか」


「ちょっとちげえな。俺は奴隷商でな。こいつみたいな奴隷を売って儲けてんだよ」


「なら大事な商品じゃないか。こんな風に傷つけてもいいのかよ?」


 商品を傷つける商人とか三流もいいとこだぞ。

 それも天下の往来でするなんて、三流以下だ。



「売れもしねえ役立たずだ。ボコしても損にはならねえのよ。むしろ役に立たないんだからストレス解消くらいさせろってんだ」


「売れない……?」


 俺は蹴られていた奴隷の少女を見る。


 彼女は美しい顔立ちをしている。

 それもそんじょそこらじゃ見かけられない美少女だ。

 地球ならばアイドルか女優でもしていそうな容姿をしている。


 そして服の上からでもわかるが、スタイルも抜群だった。


 まず間違いなく魅力的な少女である。


 彼女が手に入るならば、それがどんな高値であっても欲しいという人間はごまんといるだろう。



「この見た目で売れないって、それはもうあんたの腕の問題では……?」


「失礼な奴だな。俺のせいじゃねえよ。こいつは見た目こそいいが、呪いを持ってんだよ。それも、嫌悪の呪いだ」


 嫌悪の呪い。

 奴隷商の言ったその言葉が気になって、俺は『鑑定』スキルを使って彼女の状態を確かめてみた。



――――――――ステータス―――――――――――

名前 アイナ・クレバスティ

年齢 17歳

スキル 剣姫(Bランク)

状態 嫌悪の呪い(効果:全ての人から嫌われる)

――――――――――――――――――――――――


 

 おおう。

 確かに嫌悪の呪いと記載されているな。

 しかも、効果は全ての人から嫌われるという酷いものだ。


「なんで嫌悪の呪いがあるのに買ったんだ」


「騙されたんだよ! 他の奴隷商から高い金払って買ったんだよ。この見た目ならさぞや高く売れると思ったのに、いざ手に入れたら呪いもちだ! 客はこいつを嫌って全然買いたがらねえし、大損だ!」


 どうやら、呪いがあったことを隠して売られたらしい。

 それで手に入った後で嫌悪の呪いがあったことに気づいたのか。


 やってしまいましたなあ。


 三流というのは、間違いではなかったらしい。



 この世界では、騙される方が悪いという観念があるらしい。

 商人ならば特にその傾向は強いらしかった。


 地球の――特に日本とは大違いだな。



「それで売れないからって奴隷に八つ当たりか」


「何か悪いか?」


「いや、別に」


 ま、こいつが買った以上は売れるまではこいつの奴隷だ。

 何をしても、それは法的には問題なしとして扱われる。

 ならばそれに関しては俺が口をだすことじゃない。

 


「呪いは解除できないのか?」


「解除できるぜ? だがそのためには教会に多額の金を出さなきゃいけねえ。なんで俺がこいつのために金を払わなきゃいけねえんだ。気分悪い」


「いや、呪いを解いたら売れるんだぞ。これだけの美人なんだから、金を使うくらいの価値はあるだろうに」



 どう考えても金を払って呪いを解き、その後改めて彼女を人に売った方が得だと思うんだけどなあ。

 教会に払う金は初期投資みたいなもんだ。


「嫌だね。そんなこと。俺はこいつが嫌いなんだ」


 なるほど。

 どうやらこの奴隷商も、嫌悪の呪いにかけられて正常な判断ができないようだ。

 呪いというものは、まともな判断力を奪ってしまうやっかいなものらしい。


 ちなみに、俺はその呪いの影響はない。

 俺が手に入れた『聖人』というスキルのおかげだ。

 このスキルは、呪いの影響を受けない効果を持っている。


 だから俺は彼女のことを嫌悪しない。

 だから、彼女を買うこともできる。



「よし、この子を買おう。いくらだ?」


「はあ? お前さん話は聞いてたのか? つーかこいつ欲しいのか? 嘘だろ? こいつは親からも見捨てられて奴隷として売られたクソ女だぞ?」


「お前のとこの商品をこれから買おうと言っている奴に、そんなこと言うなよ。売れないと思ってた奴隷が売れるんだぞ。悪い話じゃないだろ」


「そりゃまあ、そうだが……。ま、世の中には変な奴がいるわな。金を払うんなら客だ。中に入ってくれよ、旦那。おい、そこのお前もさっさと入れ」


 奴隷商に連れられて、俺と奴隷の少女は店の中に入る。


 どうやらよほど売りたかったのか、値切る必要もないほどに安く少女を手に入れることはできた。




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