第21話 ドラゴンと契約
「感謝するぞ。レースケ殿。アイナ殿。二人のおかげで、我は再び自由となった!」
数百年間封印されていたラティカ・ゾネリカ。
封印から解き放たれたことを泣いて喜んだあと、俺とアイナにお礼を述べた。
「封印から解放してくれた礼をしなければいけないな!」
「お礼ですか?」
ドラゴンのお礼か……。
何かお宝とかくれたりするのかな?
別にお金には困っていないけど、そういう宝とかウェルカムだよ!
「ふむ。普通ならば宝でも授けたいところだが、我はある日いきなり封印されたゆえ、財宝をもっておらぬ」
「ではお礼とは何でしょうか?」
「我が今持っているのは我自身の体のみ。ゆえ、我自身をそなたに捧げよう」
「ええと、生贄とか、人身御供とか、いりませんよ?」
「そういった類のものではない。我が貴殿と契約をしてやろうということだ」
「契約?」
その言葉を聞いて俺は警戒する。
「レースケ殿。目が鋭くなったが、どうしたのだ?」
「いえ……大学と銀行で契約という言葉を聞いたら警戒しろって、死んだじいちゃんが言ってたので」
ま、ここは大学でも銀行でもないけど。
異世界の洞窟である。
「大学と銀行というのはなんだ?」
「酒に飲まれた若者が集まる場所と、金に呑まれた大人が集まる場所です」
大学は四六時中酒飲んでウェイウェイ騒いでいる奴らがいるところだ。
勉強するところではない。
少なくとも俺が通ってた大学の学部はそう。
ああいうところに変な大人が来て、契約だのなんだのと若者を騙そうとしてくるんだ(偏見含む)。
ちなみに銀行が金に吞まれた大人が集まるという言葉についても偏見です。
俺は口座つくったことしかないけど、なんかあそこ銀行員に進められて変な金融資産と契約させられるんでしょ?
知らんけど。
「我のいない数百年の間に世にはそのような施設ができたのだな……。だが安心しろ。酒は我も好きだがここにはないし、金銭もない。我の言う契約とは、恐らく貴殿が想像しているものとは異なるものだ」
だろうな。
誰が異世界の洞窟で金融資産を契約するんだ。
「我が言っておるのは魔獣契約のことだ」
「初めて聞きました」
「そうか? 人間と魔物の間で契約を交わし、使役する術のことなのだ。数百年の間で廃れたのかの?」
「うーん。俺は魔法を学び始めて短いから知らないというだけかもしれません」
「私は本で読んだことがあります。魔物は人間のしもべとなる代わりに安定した糧を得られ、人間は魔物を使役して戦わせる代わりに餌や魔力を与えるのです。それなりの知能と魔力をもった魔物としかできない高度な魔法です。あと、契約して人の配下になった魔物のことを魔獣とよんでいます」
「なるほど、だから魔獣契約。そんな魔法があるんだね。アイナは物知りだなぁ」
「えへへ。ご主人様に褒められちゃいました……!」
俺に褒められたことが嬉しくて、にへら、と笑うアイナ。
可愛いなあ。
「そこのアイナ殿の語った通りだ。我は高度な知能と魔力を持っている故、魔獣契約可能だ。この契約は主側には魔力を定期的に与え続ける以外のデメリットはない。魔獣側は主の言うことは絶対服従ではあるがな」
魔獣契約では主の人間の言うことは絶対服従。
それはつまり人間でいえば奴隷と同じようなものだ。
「かなり人間側に有利ですけど、いいんですか?」
「かまわぬ。我を助けてくれた礼だ」
人間でいえば奴隷のようなもの。
そんな立場になることを自分で提案するあたり、どうやらよほど恩義に感じてくれているらしい。
だが、この魔獣契約に問題が一つ。
「でも俺、そんな魔法使えないですよ」
いくら『魔導大帝』が見ただけであらゆる魔法を会得できる優れたスキルだとしても、見たこともない魔法を使うことはできない。
王都のギルドに行けば、誰か一人くらいは知っているだろうか?
「安心しろ。我が覚えている。ドラゴンは魔法を使うことができるのだ。すごいだろう?」
「おお! すごいですね! さすがドラゴンだ!」
「ふふん。いいぞ、もっと褒めてくれ。我は褒められるのは大好きだ」
ちょっと褒めただけで上機嫌になるラティカ。
このドラゴンちょろい。
「あれ、でもラティカさんが魔獣契約を行うってことは、俺がしもべになるんですか?」
「魔獣契約では、魔獣側が魔法を使おうとも、しもべとなるのは魔獣側よ。我が従で、貴殿が主であることは変わらぬ。ふふ、喜べレースケ殿。世界広しと言えど、ドラゴンと魔獣契約をしたのは貴殿が初めてであろう。我が封印されていた数百年の間に誰かがしていなければな」
最後の言葉に自信のなさが出ているな。
ずっと封印されて外の情報を得ていないのだから当たり前だが。
「わかりました。契約を行います。俺はどうすればいいですか?」
「手を出してくれ」
そう言った後、ラティカは首をもたげて俺が触れられる距離に頭を持ってくる。
「我の額に手を触れてくれ。魔獣契約を行う」
言われた通り手を伸ばしてラティカの額に触れた。
「真なるドラゴン、ラティカ・ゾネリカが告げる。人と魔の境を繋ぎ、レースケを主として契約の鎖に縛られることを誓う」
ラティカの呪文が終わるとともに、額の触れているところが光り、小さい魔法陣がその額に浮かび上がった。
魔法陣は一瞬光を発した後にすぐ見えなくなる。
「これで契約は交わされた。これで我は貴殿の魔獣だ。今後、我はしもべとなりて共にいることとなる。よろしくたのむぞ、主殿」
「よろしくお願いします」
ラティカの言葉に返答する。
思ったよりもあっさり済んだな、魔獣契約。
もっと時間かかるかと思ってた。
「主殿、それは違うぞ」
「違う? 何がですか?」
「それだ。言葉遣いだ。我は主殿の従なのだから、敬語はおかしいであろう。自分の下僕に敬語を使う主はおらん。ため口でよい」
「まあ、それもそうか。でもその理屈ならラティカは俺に敬語を使うべきでは?」
「む、それもそうだが、生まれてこの方敬語など使ったことがないからどういえばよいのかわからぬ。主殿が望むならば練習するが……」
「いや、俺から言い出しといてなんだけど、別にいまのままでいいよ。無理に使うこともない。そっちの口調の方が自然ならそれでいい」
「わかった。寛大な心に感謝するぞ、主殿」
ラティカはそう言って目を細める。
ドラゴンの表情はわかりにくいが、なんとなく、笑ったような気がした。
「ああ、ドラゴンすら手なずけてしまうなんて……! やっぱりご主人様はすごいです。こんなこと、歴史上の他のどの英雄にだってできません。私のご主人様はこのような偉業まであっさりと達成してしまう、世界で最も優れたお方なんですね……!」
「ふふん。なんと言っても我の主だからな!」
アイナからの賞賛に対して、なぜかラティカが自慢気にそう言っていた。
「それにしてもこの体では主殿と一緒にいるのが難しいな。知っているぞ、人間の街はドラゴンの姿では入れんのだろう? よし、姿を変えようか」
「え?」
姿を変えると言った?
なに? 変身できるの?
「ふっ」
ラティカがそう息を吐くと、一瞬でドラゴンの巨体が消え、地面に一人の女性が立っていた。
お前、女だったのか……。
「これならば主殿と共にいれるな。ふふふ、どうだ主殿。我はすごいだろう?」
「たしかにすごい。色んな意味で……」
変身したという事実もすごいが、人の姿になったラティカの美貌もすごかった。
黒くて艶のある美しい長い髪。
雪のように白い肌。
男の俺より背が高く、足も長くてスタイルはいい。
胸はただでさえ巨乳のアイナよりもずっと大きく、それでいてお腹は細くてくびれができている。
まさに理想の美女といったところだ。
そして裸だった。
明日は9時、11時、13時、15時、17時に投稿します




