名前も知らない王子様
次の日、早めに目が覚めたので朝早く登校し、教室に入ると1人の青年が何かを書いていた。青年の横を通った時である。青年が鉛筆を落とす。
「あ、落ちましたよ。」
そう言って恋は鉛筆を拾うと彼に渡した。
「……ありがとうございます。」
「いえ、……え!?」
彼はイラストを描いていた。
「すごい!」
「何がですか?」
「だって、すっごくうまい!」
そこに描いてあったのは中国風の衣装を身にまとったキャラクターが画面中央に配置されたものだった。
「こんなのまだまだですよ。」
「あの!どうしたら上手く漫画を描けますか!?」
「どうしたら?………それは私にも分かりません。」
「え?でもこんなに上手く……」
「……実はまだ漫画を描いた事がなくて……」
「え?!私もです!」
こうして2人は意気投合した。
「私、恋野恋です。よろしくお願いします。」
「私は蒼井優です。よろしく。」
そうこうしているうちにホームルームが始まった。
「はぁーい!雅ちゃん降臨!皆入学後試験の準備は出来てる?もうすぐよ?」
教室がざわめく。そうして、ホームルームが終わった。
「先生!」
教室の外に出る雅を恋が呼び止めた。
「何?どうしたの?」
「私、その、まだ漫画を、描いたことがなくって、今度の試験大丈夫でしょうか?」
「そんなに肩肘はらなくていいわよ。誰でも最初があるものだもの!慣れていけばいいわ!」
「はい。」
「じゃ!」
雅が去って教室に戻ろうとすると廊下で人にまたぶつかってしまった。
「きゃ!」
「!」
転けそうになった恋の身体をぶつかった人物は支えてくれた。
「大丈夫?」
「え、あ、はい!すみません。」
そう言って離れる。
「気をつけなよ。」
「はい!」
しかし、ふと彼の鞄についたキーホルダーが目についた。
「あ!すばる!」
すると大人しそうな雰囲気だった彼の顔が一変した。目を輝かせて興奮気味に言う。
「!すばる知ってるの?!」
「あ、はい!ちょっとだけアニメ見てました!」
「いいよね!すばる!特にバトルシーンが最高だよね!!」
「わかります!すばるはやっぱりバトルシーンなくして語れないですよね!!」
「お前!名前は?!」
「恋野恋です!」
「俺は静原夏希!よろしくな!」
「はい!」
その後はしばらくすばるの話で盛り上がった。放課後の事である。帰路につこうとした。
「はぁ、どうしよう。漫画描いた事ないのに……試験なんて……」
そして偶然とある教室の中の人物に目がいく。
「あ、あれって……」
それは恋を入学式の日に救ってくれた彼だった。恋は彼に駆け寄った。
「あの!」
「………」
彼は集中して漫画を描いていた。
「す、すごい!こんな細かい線まで……」
「……?何?誰?」
「あ、あの!入学式の日はありがとうございました!」
「ああ、君か。」
「本当に助かりました!」
「あっそ、僕今忙しいから。」
「あ、はい。て、あれ?この絵……」
「忙しいからどっか行ってくれる?」
「す、すみません。」
その絵柄に何となく見覚えがあった。だが、思い出せなかった。教室から出ていく。
「……邪魔しちゃったかな?」
夕日が沈む中、彼は黙々と漫画を描いていた。楽しむこともなく。
「…………」
そして、恋は電車の中で
「あ、また名前聞くの忘れた……!」
と、呟いた。




