幼馴染の本性1
※ミラン視点です
アリサが出て行って数ヶ月、すぐに帰ってくると思っていた彼女が未だに音信不通なことにミランは焦りを覚えていた。
爵位を分捕った叔父がいる男爵家には戻っていないだろうし、勤めていた商会へ行ってみたものの退職したため当然いるわけもなく、何故か商会長からは白い目で見られる始末でミランは途方に暮れる日々を送っている。
この日も片づけをしないエリカのせいで汚れた家を後にして、悪態を吐きながらミランはギルドへ向かった。
「お、ミラン。最近調子どうだ?」
「普通だろ」
顔見知りの同僚の冒険者が手を挙げながら近づいてきたため手短に返す。
ここのところ些細なことで苛立っていて、あまり誰かと話したい気分ではなかった。
ミランの素っ気ない態度に、同僚は肩を竦める。
「……ま、無理すんなよ」
その一言に僅かな引っかかりを覚えて、ミランの機嫌は更に下降する。
「……なんだよ、その言い方」
別に無理なんてしていない、と思ったが言い返すのも面倒なので黙っていたら、今度は別の方向から声が飛んできた。
「昨日の依頼、時間ギリギリだったって聞いたぞ? 珍しいな、ミランが遅れるなんて」
「ちょっとバタついてただけだ」
そうは言ったものの実際、朝の準備に妙に時間が掛かっているのは事実である。
以前はアリサが準備してくれていた食事の準備や掃除に追われ、任務で使用する道具や装備品のメンテを当日になってから慌てて依頼しているせいだ。
挙句献立を立てて購入してきた食材も勝手にエリカに消費されてしまい、何もかもが上手くいっていなかった。
くそっ! こんなこと、ちょっと前まではなかったのに……。
舌打ちしそうなミランに、同僚が肩を叩く。
「まぁ気をつけろよ。俺達の仕事は信用と信頼で成り立ってるんだからな」
「言われなくてもわかってるさ」
強気で返してみたものの、ミランの胸が騒めく。
信用と信頼。
そんなものB級冒険者である自分なら気にする必要はないはずなのに、妙に心に突き刺さった。
今日の依頼も何とかギリギリで熟したミランは、重い足取りで部屋へ戻るとエリカがソファで寝転がりながら不満そうに顔を向ける。
「遅~い! もうお腹ペコペコだよ~」
「それなら何か作ったらいいだろ? こっちはエリカが必要だっていう買い物までしてきたんだ」
不機嫌そうに袋をテーブルに置いたミランにエリカが目を丸くする。
「え~? 何怒ってんの? ま、いいや。それより買い物ありがと。やっぱりB級ってすごいね、たくさん買っても余裕なんだもん」
軽そうな言い方がミランの神経を余計に逆撫でする。
しかしエリカはそんなミランなど意に介さないように袋の中身を取り出していった。
袋にはエリカの化粧品、文具、雑貨等が入っている。
一方ミランがまだ手に持っている袋には日用品や食材等、それまでアリサが甲斐甲斐しく世話を焼き揃えてくれていた品物が詰め込まれていた。
エリカは余裕だと言ったが、化粧品類はそれなりに高額だ。
特にエリカの指定した物は高価で、ミランは支払いの際にお店で引き攣ったほどだった。
そこへ一通り品物を確認したエリカのお腹がグウッと鳴った。
「ねえ、夕飯まだ?」
「今から作る」
「早くしてね~」
何気ないやり取りなのにミランの中で苛立ちがじわりと滲む。
キッチンへ向かう途中で見えたのは干しっぱなしの洗濯物と、脱いだままの服の山。
面倒で後回しにしてしまっていたが、家にいるならエリカが取り込み位してくれよと思う。
洗濯していない服の山は一昨日よりも昨日、昨日よりも今日と確実に量が増えていることに溜息しか出てこなかった。
「ごちそうさま」
食事を終えて漸く一息ついたミランは、何だか疲れてしまい食器を片付ける気にならなかった。
そんな中、珍しくエリカが立ち上がる。
いつもは食べ終わっても、そのまま爪をいじったり、どうでもいい話を振ってきたりするだけなのに、さすがに自分を気遣って片付けてくれる気になったのかと期待したミランだったが、それは早々に打ち砕かれた。
「ちょっと出かけてくるね」
「は? こんな時間に? そういえばここの所毎晩出かけてないか? それにまだ怪我が治ってないんだろ?」
「そんな遅くはないし、今は怪我もあんまり痛まないもん。とにかく、ちょっとだけだから、じゃね」
軽く手を振って出て行ったエリカがドアを閉めた音が響く。
残されたのは散らかったテーブルと山積みの洗濯物。
「……はぁ」
深く息を吐く。
なんで俺が、こんなことを……。
それにエリカの怪我は今は痛まないと言っていたが、不思議と朝になると痛みだすらしい。
だからまだ家に置いているわけなのだが……。
苛立ち交じりに立ち上がり、ふと頭を過った。
前までは、どうだったっけ?
仕事が忙しいと言えば、食事も洗濯も片付けも、日用品の買い出しだって、アリサが笑顔でしてくれていたことを思い出し頭を振る。
「……アリサ」
ソファへ再び沈みこみながら、ポツリと零れた名前に自分で眉を顰める。
勝手に出て行って音信不通になった女のことなど、知るか。
謝れば許してやるのに、意地張って帰ってこないなんて、強情にもほどがある。
でも……。
「一体、どこにいるんだよ……」
呟いた声が静かすぎる部屋に響いて、ミランの心に言いようのない不安の染みを作った。




