気づかない違和感2
「……じゃあ食うなよ」
思わず低く言うと、エリカはキョトンとした顔になる。
「え? なんで怒ってるの?」
「別に怒ってねぇよ」
本気でわかってない顔のエリカに、吐き捨てるように言い返してミランは席に着く。
せっかく作った料理をけなされたことに腹が立った。
そういえばエリカはアリサの料理を残さず食べるくせに、いつもダメ出しをしていたなと思い出す。
その時はアドバイスだと思っていたが、自分がされるとムカついた。
アリサはエリカに言われた時、どんな顔をしていたっけ?
思考を始めたミランに、エリカがスプーンを止めてニコッと笑う。
「ねえ、ミラン。明日さ、街に出ない?」
まるで先程の気まずい空気などなかったかのように話し出すエリカに、ミランは呆れつつも、いつものことだと頭を切り替える。
「ああ、いいけど」
そう言いつつも、明日出かけられるならミランが誘った時に何で外食に行かなかったんだよ、と詰りたくなるが、エリカは昔から気まぐれな所があるから仕方ない。
「あのね~、すっごく可愛いワンピースが売ってたの」
「働けないのに服なんて買う余裕ないだろ」
「またまた~、意地悪言わないでよ~。B級冒険者のミランならワンピースの数着位余裕でしょ。それにアリサさんが戻ってきた時にサプライズでプレゼントしてあげたら喜ぶんじゃない?」
既に自分に買わせる気満々のエリカにミランは目を丸くするが、確かに彼女の言う通りアリサにプレゼントを用意してやるのはいい案だ。
当然、アリサからの謝罪ありきだが、ここは度量の広い所を見せてやろう。
「まぁ、ワンピース位ならいくらでも」
気づけばそう答えていて、エリカが「やった~!」と歓声を挙げる。
その顔を見ながら、ミランはふと思った。
……そういえばアリサに何かを買ってあげたことってあったっけ?
考えかけて、やめる。
今はそれよりもアリサが戻ってきた時に、どう接するかが大切だ。
少し冷静になれば彼女だって言い過ぎだったって気づいて落ち込んでいるはずだ。
そうしたら出来るだけ優しくしてやって、でも悪いことはきちんと諭さないといけないからな……。
「ねえミラン、聞いてる?」
「え? ああ、聞いてるよ」
思考の中にいたミランは、エリカに声を掛けられて適当に返事をする。
でも再び頭の中ではアリサのことを考えていた。
帰ってきたら、ちゃんと許してやる。でもあんまり遅いと意地悪しちゃうかもな。
そうほくそ笑みながら、ミランは夕餉を終えて眠りについたのだった。
翌朝。
ミランは目が覚めた瞬間から違和感があった。
なんか気持ち悪いな、と思いながら眠気眼のままリビングへ向かうと、部屋が妙に散らかっている。
疲れていたためテーブルの上にそのままにしてしまった昨日の夕餉の食器。
脱ぎっぱなしの上着と、ごみ箱に入っていないゴミ達。
一人暮らしの時は頻繁に出入りしていたアリサが整理してくれていたから、片付ける人がいなければ散らかるのは必定だった。
とはいえ、軽く片付ければすぐに綺麗になる程度の乱れだ。
「……まぁ、後でやればいいか」
軽く首を回したミランが呟いたその時、間延びした声がキッチンから飛んできた。
「ミラ~ン、お腹空いた~」
……朝からかよ、と小さく舌打ちしてミランはキッチンへ向かう。
顔を出してギョッとした。
「エ、エリカ、何してんだ?」
「ん~? 昨日の夜お腹空いちゃって~、適当に食べちゃったから何もないな~と思って」
エリカが開け放った貯蔵庫の前には昨日ミランが買ってきた食材が散らばっており、どれもこれも少し食べては飽きたのか中途半端に開封されている。
ミランが作った夕餉は結局残し、挙句勝手に貯蔵庫を漁ったことに対して、エリカは悪びれる様子もなかった。
「だって置いてあったし、食べていいやつでしょ? でもどうせなら甘いパンとかが食べたかったな~」
当然のように言われて言葉に詰まる。
あれ? エリカってこんな失礼な奴だっけ? それに食材はもう少し大切に扱ってもらわないと……。
注意しようとしたが、泣かれたら面倒だと思いなおす。
ミランは女性の涙に弱い。
アリサは滅多に涙を見せないがエリカはすぐ泣くので、なるべく言うことを聞くようにしていた。
だから今だって言いたいことをぐっと呑み込む。
「……また買ってくる」
「やった~。あ、朝食は昨日みたいな夕食じゃなくて、ちゃんと美味しいやつにしてね」
軽い口調でダメ出しをしてくるエリカに「何で俺が」とミランは思ったが、やっぱり口には出さなかった。
次はアリサ視点に戻ります。




