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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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昔の話





「私がまだ幼い頃、集落に二人の男の人が来たの」


 ゆっくり、思い出すようにルーンは言葉を紡ぐ。


 その二人の男は、刻印持ちだった。

 その頃はまだ、人間が集落に出入りすることは禁止されていなくて、彼らの来訪を集落の人たちは歓迎した。


――いやはや、こんな辺鄙な所によく来てくれた。

――ゆっくりしていってね、旅人さん。


 集落の人たちは優しかった。

 知らない旅人でも、笑顔で迎え入れる。

 その男たちも、集落の人たちに友好的に接していた。


「私は、彼らの姿を母の後ろから見てた。長旅で疲れてるから休める場所はないかって聞いてきたから、母が彼らに空き家がある所まで案内したの。最初は、集落の人たちだけじゃなくて、私にも優しくしてくれて、いい人たちだなって思った」


 でも――


「でも……彼らが集落にやって来て、二日が経った頃…」


 ルーンの声がだんだん小さくなっていき、そこで言葉が途切れる。

 彼女の肩がわずかに震えた。


 男たちが集落にやって来て二日が経った頃。

 突然、彼らの様子は一変した。


「前触れなんてなかった。彼らは突然、集落の人たちに襲い掛かったの」


 あの夜の光景が蘇る。


 悲鳴。燃え上がる家。

 夜空を赤く染める炎。


 ルーンは言葉を探すように口を開く。

 気づかぬうちに、呼吸は浅くなっていた。


「…叫び声が沢山聞こえた」


 火の粉が舞う。

 家が崩れる音。


 そして。

 人ではない咆哮。


「……そして、一夜で」


 ルーンの声はほとんど囁きだった。


「その人たちに、全部……壊された」


 フィルは何も言わず、ただ黙って聞いている。

 ルーンはぎゅっと目を閉じ、自分を抱き締めた。


「…お父さんと、お母さんが」


 声が震える。


「私と兄さんを……地下に行かせたの。彼らの標的にならないように」


 父と母は、男たちのもとへ行こうとした。


「私……行かないでって……」


 声が掠れる。


「泣いて……お願いした」


 幼い自分の声が、耳の奥で響く。


「でも、兄さんに止められて追いかけることはできなかった」


 地下の暗闇。

 上では何かが壊れる音。

 遠くから聞こえる叫び声。

 幼いルーンは泣きながら、兄にしがみついた。


「…しばらくして」


 次の言葉は、ほとんど消えそうだった。


「やっぱり、お父さんたちが心配になって…会いたくなって、…兄さんの隙を見て、外に出たの」


 階段を駆け上がり、扉を開けた。

 煙の匂いが流れ込む。

 周辺の家屋は炎に焼かれていて、視界は赤く染まっていた。


――お母さん……!


 幼いルーンは、しばらく走り続ける。

 そして、見つけた。


――お父さん!お母さん!

――ルーン!?

――来ちゃ駄目!ルーン!!


「私に気を取られて、背を向けた瞬間だった」


 声が震える。

 言葉が詰まる。


 ルーンは俯いた。


「……」


 しばらく声が出ない。

 部屋の中は静まり返っていた。


「ゆっくりでいい」


 フィルの優しい声。

 深く息を吐いて、彼女は続けた。


「お父さんとお母さんが、刻印を持った人に…殺された。背中を貫かれて……」


 言葉が落ちた。

 そう言った直後、ルーンの肩が小さく揺れる。


「……そのあとも、彼らは集落の人たちを殺し続けた。大人も子供も関係なく」


 フィルは、静かにルーンを見る。


「私は……その時のことはあまり覚えてない。兄さんに連れ戻されて、夜が明けるのを待ってた…と思う」


 ルーンは震える声で言う。


「…それから…夜が明けて、兄さんが外に出たら」


 集落には生き残った人たちの泣き声が響き、男たちは広場に倒れ、息絶えていた。


 その時、彼らの掌には赤黒く光る刻印が浮かんでいた。

 あとで兄がその刻印について調べると、男たちが集落の人たちを襲ったのはその刻印が原因だということがわかった。


「……話は終わり。私が彼らについて話せるのは、これだけ」


 涙が一滴、頬に流れる。

 ルーンは手の甲で目をこすった。

 声は弱いまま。

 フィルは眉尻を下げて、彼女を見つめる。


「……ごめん。ツラいこと、思い出させたよな」

「フィルがそんな顔する必要ないわ。…遅かれ早かれ、話そうと思っていたから…大丈夫」


 口元を緩ませて、ルーンは言う。

 彼女が言った言葉のすべてが、フィルの胸に重くのしかかった。


「………」


 右手を見つめる。

 掌には、小刻みに震える刻印。

 フィルは右手を握りしめて、深く息を吐いた。


「…(刻印は、また暴走する可能性がある)」


 ダークエルフの集落で出会った、天族の女性からの言葉。


「…………」


 フィルは、ルーンを見る。

 涙が止まらないようで、彼女はしきりに目をこすっていた。

 手を伸ばして頬に触れると、ぴくりと肩が震える。


「そんなにこすったら駄目だ」

「…だって、…涙が止まらなくて」

「……、ありがとう。話してくれて」

「………うん」


 優しい口調で呟きながら指を動かし、涙を拭う。

 その掌のぬくもりに、ルーンは胸を小さく鳴らして頷いた。



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