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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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王都アーバン





 冷たい空気を纏ったまま、ルーンたちは王都アーバンへと連れて来られた。


 雪山から下りた彼らを待っていたのは、整然と並ぶ騎士団の姿だった。彼らに導かれるまま、彼女たちは石造りの大通りを進んでいく。


 王都の中心。

 街の奥地にそびえる巨大な城が、ゆっくりとその姿を近づけてきた。

 やがて重厚な城門が開かれ、ルーンたちは城内へと足を踏み入れる。


 中は静まり返っていた。

 行き交う兵士や使用人たちが、足を止めて彼らを見つめる。

 好奇心と警戒、そしてどこかざわめいた空気。無数の視線を浴びながら、ルーンたちは奥へ奥へと進んでいった。


 彼らの話題の中にいたのは、主にフィル。

 フィル様が帰ってこられた。これでこの王都は救われるぞ。などの声があちこちから聞こえる。


「なぁ、お前…フィルが王族だって知ってたか?」


 ジェイクが小声でシオンに聞く。


「…ああ」

「ああって、…知ってたんなら教えろよ」

「聞かれていたら教えていた」


 やがて辿り着いたのは、玉座の間。

 高い天井の広間の奥。

 金色の髪の女性が玉座に腰を降ろし、サクヤがそのそばに立った。


 ルーンたちは足を止め、彼らを見つめる。

 静寂の中、女性が口を開いた。


「改めて、はじめまして皆さん。私はミリエラ・フォンベルク・アーバン」


 雪山でも感じたが、穏やかで、よく通る声。


「この王都アーバンを治める王、ファルクスの妻です」


 その言葉に、ルーンたちは小さく息を呑む。

 だが、玉座の間にいるはずの人物がひとり足りない。

 それを察したのか、ミリエラは静かに続けた。


「本来なら、ここには王もいるはずでした」


 わずかに視線を伏せる。


「ですが王は今、病に侵されています。現在は自室のベッドで療養中です」


 その言葉を聞いた瞬間、フィルの目が大きく見開かれた。


「……病気?」


 思わず漏れた声に、ミリエラはうなずく。


「ええ。詳しくはここでは言えませんが、…どうか、王の不在をお許しください」


 広間の空気が重く沈む。

 その沈黙を破ったのは、サクヤだった。

 彼はゆっくりとフィルを見て、ふっと微笑む。


「兄さんが戻ってきてくれてよかった」


 その言葉に、フィルの表情が固まる。


「さっき雪山でも話したけど……もう一度言うよ」


 サクヤは静かに続けた。


「兄さんの罪は取り消された」

「どういうことだ?」


 シオンが静かな声で聞く。


「兵士を殺したのは兄さんじゃなかった」


 サクヤの声ははっきりとしていた。


「兄さんは、ただその場に倒れていただけで、兵士たちは別の人物に殺されたんだ」

「別の人物?」

「今は地下の牢屋にいる」


 短く、サクヤは答えた。

 その後、ミリエラが言葉を継ぐ。


「真実がわかったあと、私たちはすぐに貴方を探しました。けれど、どこを探しても見つからなかった」


 金色の瞳がフィルを見つめる。


「貴方を探し続けて、気がつけばもう三年あまり。貴方はもう、見つからないものとばかり思っていました」


 三年。

 その時間の重さが、広間の中に落ちた。


「兄さんが右手に刻印が浮かんだと慌てて言ってきたものだから。父さんが早とちりしてしまったんだよ」


 言うと、ミリエラがフィルの右手を見る。

 フィルの右手には刻印が刻まれているが、彼女にもサクヤにもそれは見えていない。


「その刻印は……災いを呼ぶ刻印だと、私たちは聞かされていました」


 その言葉に、ルーンの視線が自然とフィルの手へ向かう。


「刻印に選ばれた者は、必ず災いに見舞われる」


 ミリエラの声は落ち着いていた。


「それは周囲の者にも伝染し、やがて自分たちを苦しめる」


 そして。


「刻印は精神に寄生し、理性を奪い……その人の意思に関係なく殺戮を行う」


 その説明に、広間の空気がさらに冷えた。


「だから」


 ミリエラは言う。


「だから私たちは、兵士たちを殺したのはフィルだと思ってしまったの」


 血を流し倒れる兵士たち。

 そのそばに倒れていたフィル。

 刻印のことも含め、そう思ってしまっても無理はない。


「ごめんなさい」


 ミリエラはゆっくりと頭を下げた。

 その謝罪を聞きながら、ルーンは眉尻を下げてフィルを見る。


「…………」


 フィルは何も言わなかった。

 今さらそんなことを言われても。

 胸の奥でそう思う。

 けれど口には出さない。


 ――ただ、右手を強く握りしめた。


 その横で、ジェイクがそっとシオンへ顔を寄せる。


「刻印って……何のことだ?」


 反対側にいたフィラーラも、首を傾げながらシオンを見る。

 その様子を後ろから見ていたホワイトが、静かに口を開いた。


「刻印」


 感情のない声だった。


「三年前、金色の子の右手に宿った災い」


 広間の視線が集まる。


「刻印は、前の世界の落とし物。異物。刻印は、誰しもが持つ可能性が高い」

「前の、世界……?」


 ホワイトの言葉は淡々としていた。

 ほんのわずかも表情を変えずに、彼は続ける。


「刻印を持った者は、いずれ精神を喰われ、寄生される。そして――そう長くないうちに死に至る」

「っ、」


 その言葉を聞いた瞬間、ルーンの肩が震えた。

 肩に乗っていたブルーテイルが、小さく鳴く。

 まるで心配するように、ルーンの顔を覗き込んだ。


「死に至るって…!」

「残念ながら、刻印を消す方法は存在しない。つまり、金色の子の未来は絶望的」


 静寂が落ちた。

 その重い空気を、サクヤが断ち切る。


「……とにかく」


 彼は明るい声を作った。


「兄さんが戻ってきてくれた。今はこれを喜ぶことにしよう」


 サクヤは軽く肩を竦める。


「雪山で何をしてたのかは知らないけど、疲れてるだろ。部屋を用意させるよ。今日はゆっくり休んでくれ」


 そう言って、彼は口元を緩ませた。

 聞きたいことは山程あるが、答えてくれそうな雰囲気でもない。

 仕方なくシオンたちはその言葉に甘え、今夜はこの城で一夜を過ごすことにした。


 礼を言う彼らの中で、ルーンは痛み続ける胸をおさえ、目を伏せていた。



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