お迎え
雪原に、重い蹄の音が響いた。
次々と現れた馬がルーンたちの周囲を囲む。
白銀の鎧を身にまとった騎士たちが整然と陣形を作り、彼らを取り囲んだ。
荒い息を吐き、馬たちのいななきが空気を震わせる。
その中から、一頭の黒い馬が進み出た。
背に乗っているのは、銀色の髪を持つ若い男。鋭い視線が一行を見渡し、そして、ある人物のもとで止まる。
「ようやく見つけた!」
男は目を見開き、声をあげる。
その言葉は真っ直ぐにフィルへ向けられていた。
「…………」
シオンは剣に添えていた手をゆっくりと下ろす。
騎士たちの動きを観察していたが、敵意や殺気は感じられない。
少なくとも、今この場で戦うつもりはないようだった。
――そのとき
「フィル……!」
黒馬の後方から、女性の声が響く。
金色の髪を揺らしながら、一人の女性が慌てて馬から降りた。
足元の雪を気にする様子もなく駆け出し、スカートが汚れるのも構わずにただ一直線にフィルのもとへ向かい、勢いよく抱きつく。
「……!」
ジェイクとフィラーラが同時に目を見開いた。
フィルもまた同じで、抱きついてきた女性を見下ろし、体を強張らせる。
「ああっ……本当に貴方なのね、フィル!」
女性は涙を流しながら言う。
「ずっと逢いたかった……!」
震える声だった。
その様子を見ていたシオンのもとへ、もう一人の女性が歩み寄る。
声に気付いて顔を向けると、そこにはデメテラがいた。
「驚かせてごめんなさい」
「こいつらは何だ?」
ジェイクが腕を組んで尋ねる。
デメテラは眉尻を下げ、銀色の髪の男の方へ視線を向けた。
「彼らは王都の騎士団よ」
小さく息を吐く。
「……フィルが嫌がるかなって思ったんだけど、報告しておかないとって……」
その言葉の途中で、黒馬に乗っていた男も馬から降りた。
雪を踏みしめながら、シオンたちの方へ歩み寄る。
「よかった。ご無事で」
安堵したようにそう言う。
その声を聞いて、ようやくフィルは体を動かした。
抱きついていた女性の肩に手を置き、ゆっくりと離す。
「デメテラから聞いて驚いたよ」
男は苦笑する。
「まさか、兄さんの方から帰ってきてくれるなんて」
フィルは男を見つめる。
「……オレを捕まえに来たのか?」
低い声だった。
男は一瞬きょとんとしたあと、両手をあげて慌てて首を振る。
「え?まさか!そんな事しないよ! ……僕たちは兄さんを迎えに来たんだ」
そう言うと、男は一歩下がり、胸に手を当てて深く頭を下げた。
「僕たちは勘違いをしていた」
静かな声で続ける。
「兄さんに着せた罪は取り上げる」
そして、さらに深く頭を下げた。
「この通り、許してほしい!」
その言葉に合わせるように、周囲の騎士たちも一斉に馬から降りた。
鎧が雪の上で鈍く鳴る。
彼らも同じように胸に手を当て、頭を下げた。
その光景を見て、シオンたちは思わずフィルの方を振り向く。
「…………」
フィルは黙っていた。
眉をひそめ、目の前の男を見つめている。
「…………」
その横顔を、ホワイトはじっと見つめていた。
「お前は何者だ?」
シオンは口を開いて、男に問う。
その問いに男は顔を上げて、はっとした。
「すまない。申し遅れた」
姿勢を正し、名を名乗る。
「僕の名はサクヤ・フォンベルク・アーバン。王都アーバンの城に仕える騎士団の団長であり」
雪原にその名が響く。
そこで一度言葉を切り、口元を緩ませてから静かに続けた。
「そして――アーバン王家に生まれた、第二王子だ」
周囲の空気がわずかに張り詰める。
雪の上で、誰も言葉を発さない。
フィルはゆっくりと目を細め、男…サクヤを見つめていた。




