わたしのるーん
雪原に、静かな光が広がった。
ルーンとホワイトの足元から、淡く輝く魔法陣がゆっくりと広がっていく。
幾何学模様が雪の上に浮かび上がり、静かに脈打つように光を放っていた。
「…………」
ルーンは目を閉じ、ホワイトの胸へ触れる。
「白の精霊よ――」
静かな声で呪文を紡ぐ。
その瞬間、魔法陣が強く輝いた。
溢れ出した光は無数の粒子となり、二人の周囲を包み込む。まるで雪の代わりに光が降り始めたかのようだ。
「………」
ホワイトも静かに目を閉じる。
感じるのは、ルーンの魔力。
柔らかく、温かな流れが、ゆっくりと体の奥へと流れ込んでくる。それはまるで凍りついていたものを溶かしていくようだった。
ホワイトの体が強く光り輝く。
白い光がその輪郭を飲み込み、姿が崩れ、形を変えていった。
やがて光が静まると、そこに残っていたのは――大きな白い宝石。
「…………」
ルーンは閉じていた目を開く。
目の前に浮かぶ、純白の宝石。
それが、ホワイトの本来の姿だった。
「きゅう」
小さな声が響く。
ブルーテイルがルーンの腕を伝い、ぴょんと宝石へ跳び移った。
宝石の表面を、一滴の雫が静かに伝う。
ブルーテイルはそれを口に含んだ。
その瞬間、小さな体が七色に輝く。
「きゅうっ!」
虹色の光が体の周囲に弾ける。
元気な声で鳴き、ブルーテイルは嬉しそうにその場で飛び跳ねた。
その様子を見届けるように、白い宝石が再び光を放つ。
光がほどけ、形を成す。
やがてそこには、先ほどと同じ姿のホワイトが立った。白と黒の体をゆっくり揺らしながら、ルーンを見つめる。
「ありがとう、私のルーン」
そして、口を開いた。
先ほどまでの途切れ途切れの声ではなく、はっきりとした流暢な言葉。
それを聞いてルーンは、ほっとしたように口元を緩めた。
「よかった……」
そう呟いた次の瞬間、体がふらりと揺れる。
倒れそうになった体を、ホワイトがすぐに抱き止めた。
「きゅう」
ブルーテイルが心配そうに鳴く。
ルーンの顔は青白かった。
「だい、じょうぶ……」
掠れた声でそう言うが、その体は明らかに力を失っている。
ホワイトはルーンを抱き締めたまま、ゆっくりと口を開いた。
「私のルーン。……だいぶ体力が落ちている」
静かな声だった。
「それは、私の仲間たちを救ってきた証」
そう言いながら、ホワイトはシオンたちの方へ顔を向ける。
「彼らは、私のルーンの仲間たち。私のルーン、助ける。私と彼らの役目」
呟きながら、ルーンを抱く腕に少しだけ力を込める。
その様子を見て、フィルは眉をひそめた。
「私のルーン。私は、私のルーンを助ける」
ホワイトはルーンを見つめる。
「私の魔力を、君に与える」
「………魔力を?」
ルーンは顔色を青くしたまま、ゆっくりとホワイトを見上げた。
ホワイトはそっと手を伸ばし、ルーンの頬に触れる。
「私のルーン。私の魔力、私のルーンに与える」
静かに、言葉を続ける。
「そうしたら、私のルーンは、私の妻となる」
「え……?」
「魔力を与える。繋がる。妻となる証」
そう言うと、ホワイトはゆっくりと顔を近づけた。
唇が、ルーンの額に触れる。
「………」
ルーンは抵抗することもなく、静かに目を閉じた。
その光景を見て、ジェイクとフィラーラは思わず目を見開く。
フィルは表情を強張らせ、ただ黙ってそれを見つめていた。右手に刻まれた刻印の痛みは、すでに消えている。
やがてホワイトは唇を離す。
ルーンを見ると、先ほどまで青白かった顔色は血の気を取り戻していた。
「きゅう!」
ブルーテイルが嬉しそうに鳴く。
「私のルーン。私の魔力与えた」
ホワイトは微笑む。
「これから私のルーンは、私の妻」
静かな声で続ける。
「……私は、私の妻と共に、これからを過ごす」
そう言って、ホワイトはルーンの肩口へ顔を埋めた。
ルーンは目を伏せたまま、何も言わずにホワイトを見つめていた。
その時。
遠くから、かすかな音が響く。
――足音。
シオンたちは顔を見合わせ、音のする方へ視線を向けた。
離れた場所で、白い煙が上がっている。
それはゆっくりとこちらへ近付いてきていて、しばらくその様子を見ていたフィルが、はっと目を見開く。
「あれって……」
煙の向こうから現れたのは――馬だった。
一頭ではない。何頭もの馬が雪を蹴り上げながら、一直線にこちらへ駆けてくる。
そしてその馬には。
白銀の鎧を身にまとった人物たちが乗っていた。




