カラー・ホワイト
白煙の向こうから、掠れた声が聞こえた。
「るーん、……わたしの、わたしたちのるーん」
言葉は途切れ途切れで、それでも執拗に紡がれ続ける。
やがて煙がゆっくりと晴れていき、シオンはすぐさま周囲を見渡して仲間たちの姿を確認した。
ジェイク。フィラーラ。フィル。
そして――ルーン。
全員、無事だ。
「おい!いきなりぶっ放してくるとか反則だろ!」
ジェイクが苛立ちを隠さず叫ぶ。
シオンは何も言わず、ただ静かに剣を構え、その切っ先を“それ”へと向けた。
「……わたし、じゃまをする……るーん、じゃまをする……わたしたち、じゃまをする……」
それ…ホワイトはゆっくりと歩き出す。
まるで壊れた人形か、あるいは屍のように、ぎこちない足取りで。
一歩。また一歩。
ただ、ルーンの方へ向かってくる。
ルーンは胸を押さえ、思わずフィルの背後へ身を隠した。
普段は滅多に怯えを見せない彼女の様子にフィルは眉をひそめ、そしてなるべく彼女の視界にホワイトが入らないよう、わずかに体を動かして立つ。
「わたしの……わたしたちのじゃま……はいじょ、……はい、じょ」
ホワイトの腕が、ゆっくりと持ち上がる。
またあの光の球を放つつもりのようだ。
「っ、」
シオンが地面を蹴る。
雪を蹴り上げながら一気に距離を詰め、迷いなく剣を振り払った。
刃がホワイトの体に深く食い込む。
しかしホワイトは、避けることも防ぐこともなかった。
そのままシオンの一撃を受ける。
腹部が裂け、大量の血が噴き出し、赤い液体が雪を染め、地面へ広がった。
「………るーん、るーん」
ホワイトの体が大きく揺れる。
しかし、表情は変わらない。
苦しむ様子もない。
まるで何も感じていないかのように、ただ立っている。
シオンは眉をひそめ、すぐに距離を取った。
「今度は俺の番だぜ、シオン!」
ジェイクが叫びながら駆け出す。
振りかぶった拳が、ホワイトの顔面を思い切り打ち抜いた。
衝撃で体が吹き飛び、数メートル先へ転がる。
どさり、と音を立てて倒れ――動かなくなった。
「きゅう……」
ブルーテイルが小さく鳴く。
その体は未だ震えていた。
「…………」
ルーンはフィルの後ろからそっと顔を覗かせ、倒れたホワイトを見つめる。
その瞬間、ぴくり、と。
ホワイトの体が動いた。
くねるように体を揺らしながら、ゆっくりと――立ち上がる。
「きもちわるい……」
フィラーラがぽつりと呟いた。
「るーん、……るーん……」
立ち上がったホワイトは、再びルーンの名を呼び始める。
それからもシオンとジェイクは攻撃を続けた。
剣が斬り裂き、拳が叩きつける。
けれど何度倒しても、ホワイトは立ち上がってきた。
「くそっ、こいつ不死身かよ!」
ジェイクが舌打ちする。
「るーん、るーん……。わたしたちのるーん。たす……て……」
ホワイトが、掠れた声で呟く。
その言葉に、ルーンははっとした。
胸に添えていた手を、ぎゅっと握りしめる。
――助けて。
そう言った気がした。
「そうだ。……あの子、今までの子のように苦しんでるんだ」
「きゅう…」
ルーンは恐る恐る、一歩前に踏み出す。
近付いていこうとした時、その腕を咄嗟にフィルは掴んだ。
「近付いちゃ駄目だ」
低い声で、はっきりと言う。
そして小さく首を振った。
ルーンは振り返り、フィルを見上げる。
それから、ふっと口元を緩めた。
「大丈夫。心配ないわ」
そう言って、フィルの手をそっと外す。
「ルーン――!」
名を呼ぶ声を背に、ルーンは歩き出した。
雪を踏みしめながら、ゆっくりとホワイトへ近づいていく。
ホワイトは、ただルーンを見つめていた。
「わたしの……るーん……わたし、の」
震える手が伸び、ルーンの頬にそっと触れた。
「大丈夫。助けてあげるからね」
冷たい指。
ルーンはその手に触れ、その言葉と同時に淡く光る魔法陣を静かに展開させた。




