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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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無事





「きゅう、きゅう」


 小さな鳴き声が、白の静寂を揺らした。

 フィルの意識が、ゆっくりと浮上する。


「………いき、てる」


 重い体を押し上げ、痛みに顔をしかめながら身を起こした。


 視界に映るのは、ただ白。

 空も、地も、崩れた雪も――すべてが同じ色に染まっている。


「……助かった、のか?」


 掠れた声。


「きゅうっ」


 ブルーテイルが、彼の肩に飛び乗った。


 その動きで気付く。

 自分たちの周囲を、淡い光の膜が包んでいる。


 半透明の結界。

 吹き荒れる雪を、わずかに遮っている。


「……これは、ルーンの魔法か?」


 そう思いかけて、首を振る。


 違う。

 この魔力の質は、彼女のものではない。


 視線を落とす。


「まさか、お前が守ってくれたのか?」


 ブルーテイルに問いかける。


「きゅう」


 誇らしげに鳴くと、小さな体は地面へ降り、どこかへ駆け出した。


 フィルはその後を追う。

 数歩進んだ先で、彼の視界にそれは映った。


 雪の上に横たわる、ルーンの姿。


「……っ」


 息が止まる。

 すぐに駆け寄り、膝をついた。


「ルーン!」


 抱き起こすと、彼女の顔は苦痛に歪んでいた。


 額には汗。

 白い頬には、薄紫の斑点が浮かんでいる。


 その色に、フィルの瞳が強張った。


「くそっ…」


 雪山へ来る前の出来事を思い出す。


 街道で戦った魔獣。

 あの時、彼女の腕を掠めた爪。

 あの爪には毒があるって知っていた。

 だからずっと気に掛けていたのに。


 フィルは迷わず、防寒着をめくる。

 傷のあった場所。

 そこには、頬よりも濃い紫の斑点が、広く浮かび上がっていた。

 皮膚の下で、毒が回っている証。


「もうここまで…」


 喉が、ひりつく。


 あの毒に即効性はなく、全身にそれが巡った時に症状が現れる。

 早く処置しなければ――最悪、命に関わる。


「きゅう……」


 ブルーテイルが不安げに鳴き、ルーンの頬に鼻先を擦り寄せる。

 フィルはルーンを慎重に寝かせ、震える指で荷物袋を探った。


 取り出したのは、小さな小瓶。

 緑色の液体が、冷たい光を宿している。


 ――用意しておく。

 そう言った薬だ。


 小瓶の蓋を開ける。

 鼻を刺す、強烈な匂い。

 これが効くことは分かっている。


 だが。

 問題は――


「……飲めるか、これ」


 この薬は、とてつもなく苦い。

 意識が朦朧としている状態で、素直に飲めるとは思えない。

 無理に流し込めば、むせて吐き出す可能性もある。


「んっ、…」

「!」


 時間はない。

 ルーンが苦しげに息を乱す。


 肩が震える。

 迷っている暇はなかった。

 フィルは目を閉じ、短く息を吐く。


「……ごめん。嫌だと思うけど、我慢して」


 そう呟き、小瓶を口に当てる。

 液体を含んだ瞬間、強烈な苦味が広がった。


 思わず顔が歪む。

 だが飲み込まず、堪える。


 フィルはルーンを抱き起こし、慎重に顔を近づけた。

 意識の薄い彼女へ、確実に薬を届けるために。


「きゅうっ!」


 雪の世界で、二人の影が重なる。

 ブルーテイルが、跳ねるように鳴いた。



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