無事を願って
雪崩の轟音が、ようやく遠ざかる。
白煙のような雪が舞う中、シオンはゆっくりと顔を上げた。
見ると、全身が雪に埋まりかけている。
腕に力を込めて体を起こすと、雪がどさりと崩れ落ちた。
「……くっ」
鋭く息を吐く。
周囲は、完全に地形が変わっていた。
先ほどまで歩いていた斜面は消え、雪の壁と崩れた雪塊が広がっている。
「おーい…、…生きてるかー」
ジェイクの声が、少し離れた場所から聞こえた。
「問題ない」
シオンは短く返す。
雪を払いながらジェイクが立ち上がる。
フィラーラも、雪の中から顔を出した。
「わたしも、大丈夫……」
彼女は息を整えながら周囲を見渡した。
自分とシオンとジェイクの姿は確認できる。
しかしそこに、二つの影が足りなかった。
「……ルーンは?」
その一言で、空気が凍りつく。
シオンの視線が、すぐに辺りを探った。
白。
白。
崩れた雪。
「……フィルの姿もないな」
シオンの眉がわずかに動く。
雪崩の瞬間を思い出す。
逃げようとした時、フィルはルーンのもとへ駆け寄っていた。
「まさか、あいつら……」
ジェイクが舌打ちをして、視線を崩れた斜面の先へ向ける。
下方には、深い崖が口を開けていた。
雪崩の流れは、そこへ向かっている。
つまり――、フィルとルーンは。
「落ちた可能性があるな」
シオンが言う。
フィラーラの顔が青ざめた。
「そんな……」
シオンはすぐに歩き出した。
崖の縁へ向かって雪を踏みしめ、慎重に覗き込む。
下は白い霧に包まれ底が見えないが、雪崩の跡が崖下へと続いていた。
「……行くぞ」
シオンが言う。
迷いはない。
「行くって?」
フィラーラが問う。
「降りるのか?」
「ああ。生きているなら、下にいる」
シンプルな判断。
ジェイクは腕を組んで、肩を竦めた。
「ま、それしかねぇか。俺たちと同じで、雪ん中に埋もれてんなら急いで助けねぇと」
その言葉に、フィラーラの瞳が揺れる。
「……うん。フィルとルーン、助けるっ」
小さく頷く。
シオンは崖の斜面を確認した。
完全な絶壁ではない。
雪と岩が混じった急斜面。
慎重に進めば降りられる。
「足場を確かめながら行く。滑るなよ」
「了解」
ジェイクが答える。
フィラーラも力強く返事をした。
そして三人は、ゆっくりと崖を下り始める。
フィルとルーンの無事を願って、彼らは少しずつ足を進めた。




