ルーンの異変
雪煙を巻き上げ、魔獣が躍り出る。
灰白の体躯に、氷柱のような牙。
「グルルルッ」
低い唸り声が、空気を震わせた。
「おっ。敵さん、ご登場だな!」
「………」
シオンが前へ出る。
ジェイクとフィルも武器を構え、すぐに間合いへ入った。
「シオン、作戦は?」
「死ぬな」
「はっ。わかりやす」
戦闘が始まる。
ルーンは一歩後ろへ下がり、ロッドを腰の袋へ戻した。
「グアアアッ!!」
魔獣の爪が、シオンたちに襲い掛かる。
彼らは四方に散らばり、それぞれの技で魔獣を攻撃した。魔獣の咆哮が響く。
「援護するわ!」
短く告げ、ルーンは両手を前へ。
魔法陣を展開して、魔力を練り上げる。
――しかし、その瞬間。
ぐらり、と視界が歪んだ。
「……っ!」
詠唱が、途切れる。
胸の奥が、どくん、と不自然に脈打った。
魔力が、うまく集まらない。
「(なに……?)」
再び魔法を発動しようとするが――今度は、ぐわん、と強烈な目眩が襲った。
「ぁ、……」
足元が崩れる。
ルーンの膝が、その場に落ちた。
雪の冷たさが、布越しに伝わる。
「は、…っ」
息が、荒い。
肩が、小刻みに震えている。
魔力が、散る。
うまく呼吸が整わない。
「(……違う)」
これは、ただの疲れでも、雪道のせいでもない。
これは――
体の中で、何かが狂っている。
「っ、」
ルーンの指先が、わずかに強張った。
その時。
「ガアアアアアッ!!」
魔獣の咆哮が、雪山を揺らした。
シオンが踏み込み、一閃。
「はあっ!」
鋭い軌跡が走る。
次の瞬間。魔獣の巨体が、雪原へ崩れ落ちた。
「やった!」
戦闘が終わり、シオンたちは武器を収める。
ジェイクが、魔獣がいた場所からコインを拾い上げた。
親指で弾いて、宙でキャッチする。
「みんな、お疲れ様!」
離れた場所にいたフィラーラがシオンたちに近付いた。
しばしの静寂――
……しかし。
――ミシッ
微かな音。
その音を聞いて、シオンの眉が動いた。
「……?」
――ミシ、ミシミシ……ッ
地面が、わずかに揺れる。
ジェイクたちも顔を見合わせた。
すると、シオンの顔色が変わる。
「あ!見て!」
フィラーラが頭上を見上げて、指を差した。
次の瞬間。
ゴゴゴゴゴ……!!
山肌の上方から、轟音が降ってきた。
大量の雪が、こちらに向かって崩れ落ちてくる。
雪崩だ。
「おいおいおい、嘘だろ!!」
ジェイクが叫ぶ。
全員が反射的に駆け出した。
――だが。
「はぁ、……っ、」
ルーンだけが、動けない。
荒い呼吸のまま、膝をついたまま。
体が、言うことをきかなかった。
迫り来る白。
その様子にフィルが気付き、振り返った。
「ルーン!!」
フィルの声が、鋭く響く。
彼は進路を変えて、一直線にルーンのもとへ駆け寄った。
ルーンの視界が揺れる。
「だめ……、来」
言い終わる前に。
フィルの腕が、強く彼女を引き寄せた。
そのまま体を抱き込んで覆いかぶさる。
次の瞬間。轟音と共に、世界が白に飲み込まれた。




