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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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傷付けたくない





 白は、さらに深みを増していた。

 街道を外れ、雪山地帯の入り口へ辿り着いた一行は、自然と足を止める。


 吹き下ろす風が、これまでより一段冷たい。

 シオンが周囲を見渡し、低く言った。


「ここから先が本番だな」


 誰もが頷く。

 目的は一つ。


 ――カラー・ホワイトの捜索。


 ルーンは肩に乗るブルーテイルへ、そっと指先を添えた。


「お願いね」

「きゅう」


 小さな鳴き声。

 次の瞬間、ルーンの瞳が静かに細められた。


 意識を遠くへ伸ばす。

 雪の奥。

 風の流れ。

 微かな魔力の残滓――


「……やっぱり」


 ルーンがぽつりと呟いた。


「どうかしたのか?」


 全員の視線が集まる。


「ホワイト、やっぱり移動を再開してるわ。ここから、そう遠くはないけど…」


 シオンの目が鋭くなる。


「それでも探すんだろう。気配がわかるうちに行った方がいい」

「そうね」


 そして、一行は雪山へ踏み出そうとした。

 その時、低い声が後ろから聞こえる。


「……待ってくれ」


 フィルだった。

 彼は振り返り、まっすぐにデメテラを見る。

 その表情は、今まで見てきた中で一番硬い。


「デメテラ。君は、ここまでだ」


 空気が、ぴんと張る。

 デメテラが目を瞬かせた。


「……え?」

「ここから先は危険だって君もわかってるだろ。出てくる魔獣も強いのばかりだ。戦えない君が入っていいところじゃない」


 有無を言わせない口調。

 デメテラの眉が、わずかに寄る。

 彼女はすぐに小さく首を振った。


「……もう少しだけ、一緒にいたいんだけど」


 静かな声。

 わがままを言うような調子ではない。

 ただ、本音がこぼれたような――そんな響き。


 フィルの目が、わずかに揺れる。

 だが、すぐに表情を引き締めた。


「駄目だ」


 きっぱりと言い切る。


「これは遊びじゃないんだ。ここから先は、本当に死ぬ可能性がある」


 声音が、一段強くなる。


「だから、戻って。デメテラ」


 その呼び方に、デメテラの唇がわずかに引き結ばれた。


「…………」


 短い沈黙。

 やがて彼女は、小さく息を吐いた。


「……わかった。もうついていくのはやめる」


 困ったように笑う。

 それ以上は、食い下がらない。

 頷いたデメテラを見たフィルは、彼女に背を向けて歩き出した。


 シオンが振り返る。


「案内、感謝する。助かった」

「……ええ。気を付けてね。みんな」


 デメテラは口元を緩ませる。


 ジェイクとフィラーラもそれぞれ礼を告げて、そして一行は、フィルの後を追うように雪山へ踏み込んでいった。



 ――しばらく進んだ後。


 風の音だけが響く雪原で。

 ルーンがフィルの隣へ行き、ぽつりと口を開く。


「……いいの?」


 フィルが視線だけを向ける。


「何が?」


 ルーンは前を見たまま続けた。


「デメテラ。置いてきちゃって」

「…………」


 短い沈黙。

 フィルは少しだけ息を吐いた。


「……ああ」


 そして、低く言う。


「いいんだ。デメテラは傷付けたくはない。――大切な人だからさ」


 眉尻を下げて、フィルは笑う。

 その答えを聞いて、ルーンは、ほんのわずかに目を伏せた。


「大切な、人――」


 ずきり、と胸が痛む。

 胸の奥のモヤが、少しだけ形を変えた気がした。


 雪を踏む音が、再び静かに続いていく。

 その先で、雪山の白が、いっそう深く広がっていた。



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