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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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夜の小屋にて





 旅人用の小屋は、思ったよりもしっかりした造りだった。

 中で火を起こすと、凍りついていた空気がゆっくりと緩んでいく。


 長旅の疲れもあり、ほどなくして皆、毛布にくるまって眠りについた。



+



「………」


 暖炉の前で、ルーンは静かに火を眺めていた。

 隣には、フィラーラ。彼女は、ひとりで起きているのはつまらないだろうからと、眠気を抑えてルーンに付き合っていた。


 外では雪がしんしんと降り続いていて、火のはぜる音だけが、周囲に小さく響く。


 しばらくの沈黙のあと、やわらかな声が隣から落ちた。


「……ルーン」


 ルーンは視線を火へ向けたまま答える。


「なに」

「港町出てから、ずっと元気ない」


 ルーンの指先がわずかに動いた。


「そうかしら」

「うん。……もしかして、具合…悪い?」

「……別に。なんともないわ」


 いつもの短い否定。

 フィラーラは、眉尻を下げて言葉を続ける。


「嘘。ルーン、表情かたい。船を降りるまで、そんな事なかった」


 責める気配は、欠片もない。


「……ルーン。フィルとデメテラ、ずっと見てた。気になるの?」


 ルーンの呼吸が、ほんの一瞬だけ乱れた。

 だが、すぐに言葉を返す。


「別に。気になんてしてないわ」


 即答だった。


 ――けれど。

 火の明かりに照らされた横顔は、どこか硬い。


 フィラーラは少しだけ首を傾げる。


「そっか」


 否定はしない。

 ただ、静かに火を見つめ、小さく言った。


「……ねぇ、ルーン」

「なに」


 ぱち、と火が弾ける。


「誰かが、他の人と楽しそうにしてるの見て、胸がモヤモヤするのって……」


 言葉を、少しだけ選ぶように間を置いて。


「……大事に思ってる証拠、かもしれないよ」

「え、」


 ルーンの瞳が、わずかに揺れた。

 すぐには、何も言い返せない。


「……なに、急に」

「えへへ。なんとなく、ルーンが悩んでるみたいだったから」


 フィラーラの笑顔が、やけに眩しく感じる。

 胸の奥のざわつきが、名前を与えられかけているようで――落ち着かなかった。


「……なにそれ。知らない、そんなの」


 ようやく絞り出した声は、少しだけ小さかった。

 フィラーラは、優しく笑う。


「うん。今はそれでいいと思う。ゆっくり、答え出す。わたし、見守ってるね」


 それ以上、踏み込まない。

 外では、雪が静かに降り続いていた。


「……………」


 ルーンは膝を抱えるようにして、火を見つめる。


 胸の奥のモヤは、消えていない。


 けれど――


 それが何なのか。

 ほんの少しだけ、輪郭が見え始めていた。



+



「……ん、」


 小屋の中は、静かな寝息に満ちていた。

 火は小さくなり、赤い熾がゆっくりと明滅している。


 その中で――

 フィルは、ふと目を覚ました。


 何かに起こされたわけではない。

 ただ、長年の癖のように、浅い眠りから意識が浮かび上がっただけだった。


「…………」


 無言のまま、ゆっくりと視線を巡らせる。


 ジェイクは豪快ないびきをかき、シオンは微動だにせず眠っている。

 デメテラも、毛布にくるまって穏やかな寝息を立てていた。


 そして――

 暖炉の近く。


 二つの人影。

 フィラーラと、ルーン。

 彼女たちは膝を抱えるようにして座り、火をじっと見つめている。


「(……まだ寝てないんだな)」


 起き上がって声を掛けようとしたが、ルーンの横顔を見て、それはやめた。

 その横顔は昼間よりもずっと静かで、どこか硬く、フィルは思わず眉を寄せる。


「…………」


 視線が、そこから離れなかった。

 火の明かりが揺れるたび、ルーンの横顔に淡い影が落ちる。


 感情を押し殺したような表情。

 しかし、何かを考え込んでいるように見えた。


 フィルは、気付かないうちに小さく息を吐く。


「………」


 しばらくの間、フィルは無言でルーンを見ていた。

 やがて、何も言わないまま静かに天井を見上げる。


 そのままゆっくりと目を閉じた。

 小屋の中には、薪のはぜる音だけが残る。


「…………」


 ルーンは、自分が見られていたことなど知らないまま、そのあともずっと火を見つめ続けていた。



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