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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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雪の中での戦闘





 王都へ続く雪原を進んでいくと、低い唸り声が風の音に混じった。


 シオンが即座に足を止める。

 次の瞬間、雪煙を蹴散らして三体の魔獣が姿を現した。灰色の体毛に、氷のように鋭い牙。飢えた目が一行を捉える。


 空気が一瞬で張り詰めた。


「下がって、デメテラ」


 フィルが短く告げる。


「え、ええ……!」


 デメテラは頷き、素直にフィルの後ろへ下がった。守られる位置に入る動きは迷いがない。


 それを――ルーンは、はっきりと視界の端に捉えた。

 彼女の手には、申し訳程度に小型のナイフが握られている。


「(……集中しないといけないのに)」


 わかっている。

 魔獣は三体。油断すれば一気に崩される数だ。


 それなのに――。

 意識が、前ではなく横へ引かれる。


「行くぞ!」


 シオンの声と同時に、戦闘が始まった。


「うらあ!」


 ジェイクが前に出て、一体の攻撃を受け止める。

 シオンの剣閃が雪煙を裂き、確実に一体目を仕留めた。


「フィル!」

「任せろ!」


 二体目も、連携は乱れない。


「…………」


 ――本来なら。

 ルーンも、そこに完璧に噛み合っているはずだった。


 だが。


「フィル…!」

「大丈夫。デメテラは動かないで!」


 視界の端で、フィルがデメテラを庇うように立っている。


「っ、……」


 胸の奥が、ちり、と焼けるようにざわついた。


「ガアッ…ガ、……」


 二体目の魔獣が倒れる。


 残るは、一体。

 シオンが剣先を向けた。

 次の瞬間。


 最後の魔獣が、牙を剥き出しにしてルーンへ突進した。


「ルーン!!」


 フィルの叫び。

 同時に、彼が地面を蹴る。


 だが――

 わずかに、間に合わない。


 鋭い爪が、ルーンの腕を掠めた。


「……ッ!」


 焼けるような痛みに、ルーンの表情が歪む。

 けれど、すぐさま彼女の瞳が鋭く細められた。


 魔力が一気に収束する。


「――散りなさい!」


 放たれた魔法が、魔獣の体を正面から撃ち抜いた。

 雪煙が舞い、巨体が地面に崩れ落ちる。


 周囲に魔獣の気配はなくなり、静寂が戻った。


「ルーン!」


 真っ先に駆け寄ってきたのはフィラーラだった。

 彼女はルーンの腕を見て、顔色を変える。


「ルーン!血……!」

「……大丈夫」


 ルーンは短く言い、すぐに自分の傷口へ手をかざす。

 淡い光がにじみ、傷がゆっくりと塞がっていった。


「こうしていれば平気だから」


 そう言った声は、いつも通り落ち着いていた。


 ――けれど。

 その表情は、わずかに硬い。


「…………」


 フィラーラの眉が、心配そうに寄る。

 少し遅れて駆け寄ってきたフィルも、無言でルーンの顔を見つめていた。

 何か言いかけるも、言葉は出てこない。


 その後、歩みを進めていき、やがて日が傾いて、雪原は群青色に染まり始めた。


 一行は足を止める。


「……王都までは、まだ距離があるな」


 シオンが空を見上げて言った。


「今日はこの辺で野宿だな」

「おいおい。こんな寒空の下で野宿なんてしたら死ぬぞ」


 ジェイクが腕を組んで、即座にぼやく。

 だが、この周辺に町や宿はない。


 重たい沈黙が落ちかけた、その時。


「あの」


 デメテラが、遠慮がちに口を開いた。

 全員の視線が集まる。


「確かこの近くに、旅人用に建てられた小屋があったはずよ。昔、この街道を通った時に見たことがあるの」

「本当か?」


 シオンの目が細まる。


「案内できるか?」

「ええ、たぶん」


 デメテラはしっかり頷いた。

 そして一行は、彼女の案内で再び雪道を進み始める。


 隊列は、自然と先ほどと同じ形。

 前方にシオン、フィル、デメテラ。

 中ほどにジェイクとフィラーラ。

 そして――

 最後尾を、ルーンが歩く。


 しばらく雪を踏む音だけが続き、ルーンは小さく息を吐いた。

 その時、不意に声が掛かって足音が近付く。


 顔を上げると、そこにはフィルがいた。

 彼は、歩調を合わせるようにルーンの隣に並ぶ。


「………」


 視線が、先ほど傷を負った場所へ。


「腕、大丈夫か?」


 低く、抑えた声だった。

 ルーンは一瞬だけ言葉に詰まり――

 視線を前へ戻す。


「……ええ。問題ないわ」


 そっけない返答。

 胸の奥のざわつきは、まだ消えていない。


「もし、体調に何か変化とか起きたらすぐに言って。あの魔獣の爪には毒があって、…傷を治したとしても、体内にそれが入っちゃってたら大変だから。薬、用意しておくからさ」

「…………」


 無言で頷く。

 白い息が、二人の間に静かに溶けていく。


 その先に、旅人用の小屋の影が、うっすらと見え始めていた。



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