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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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モヤモヤモヤモヤ





 それからしばらくして。


 デメテラの家のテーブルには、簡単な地図といくつかの荷物が広げられていた。


「王都までなら、この街道を北東に抜けるのが一番早いわ」


 デメテラは慣れた手つきで地図をなぞる。彼女は、王都の城に勤めていた両親の影響もあり、地理に明るかった。


「へえ、詳しいじゃねえか」


 ジェイクが腕を組む。


「昔から、何度か行き来してるからね」


 さらりと答え、デメテラは顔を上げる。


「出発は明日の朝でいい?」


 自然に“自分も行く側”として話を進めている。

 フィルは一瞬だけ眉を寄せたが――結局、何も言わなかった。


「……構わない」


 シオンが短く了承。

 デメテラの表情がぱっと明るくなる。


「よかった。じゃあ今夜のうちに準備しちゃうわね」


 立ち上がり、てきぱきと動き始める。

 フィルはその背中を見て、小さく息を吐いた。

 諦めと、わずかな苦笑が混じったような吐息。


「……………」


 ――それを。

 ルーンは静かに見ていた。


 胸の奥のざわつきは、まだ完全には消えていない。


「(……どうして)」


 自分でも、うまく説明できない。

 デメテラが加わること自体に、不満があるわけではない。

 頼れる同行者が増えるのは良いことだ。


 ――それなのに。


「…………」


 視線が、無意識にフィルの方へ向く。

 彼は、いつもの表情に戻っていた。


 先程、デメテラと話していた時に見せた、あのわずかな表情の緩みが――なぜか、頭から離れない。


「ルーン?」


 不意に名前を呼ばれ、ルーンははっとする。

 顔を向けると、フィラーラがこちらを見ていた。


「どうしたの?」

「……何でもない」


 反射的にそう返して、視線を外す。

 フィラーラは一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、それ以上は追及しなかった。


「今日は休もう」


 シオンが低く告げる。


「……ええ」


 その言葉に短く頷くも、ルーンは胸の奥に残る小さな違和感をまだうまく飲み込めずにいた。



+


 翌朝。


 港町の空気は、前日よりさらに冷え込んでいた。


 ルーンたちはそれぞれ事前に用意していた防寒着に身を包み、町の北門をくぐる。吐く息は白く、踏みしめる雪はきゅっ、きゅっと乾いた音を立てた。


 先頭を歩くのは、シオン。

 その少し後ろに、フィルとデメテラが並んでいる。

 ジェイクとフィラーラを挟み、


 そして――

 一行の最後尾を、ルーンが静かに歩いていた。


 雪原を渡る風が、フードの縁を揺らす。

 足跡が一本の列になって続いていくのを、ルーンはぼんやりと眺めた。


 前方から、楽しげな声が風に乗って届く。


「そういえばあの時、フィルってば一人で突っ走って――」

「無茶はしてないし」

「してたわよ。きっと今も、昔と変わらずなんでしょ」


 くすくすと笑うデメテラ。

 フィルは呆れたように息を吐いているが、完全に嫌がっている様子ではない。


 むしろ――

 ほんの少しだけ、声の調子が柔らいでいた。


 ルーンの歩調が、わずかに鈍る。

 胸の奥が、またざわつく。


「(……楽しそうだな)」


 ぽつりと浮かんだ感想に、自分で小さく眉を寄せる。

 前を行く二人の間には、自然に言葉が行き交っている。


 昔から積み重ねてきた時間が、そのまま形になっているような距離感。


 自分たちといる時のフィルとは、少しだけ違う顔。

 ルーンは無意識のうちに、視線を細めていた。


 足元の雪を、少し強く踏みしめる。

 きゅっ、と音が鋭く鳴った。


 その時。

 前を歩いていたフィラーラが、ふと振り返る。


「ルーン、足元大丈夫?」


 はっとして、ルーンは顔を上げた。


「油断してると転ぶからな。気を付けろよ」

「……ええ」


 ジェイクが言い、短く答える。


 返事を聞いた二人は一瞬だけルーンの表情を確かめるように見て――それ以上は何も言わず、前に向き直った。


 再び、前方からデメテラの笑い声が届く。


 ルーンは視線を落とし、マフラーに口元を半分埋めた。


「(……なんか、嫌だ)」


 胸の奥の小さなモヤは、雪道を進むごとに、わずかに輪郭を増していく。


 その正体を、まだ彼女自身は知らない。




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