表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
73/198

カケラ





 王は、ふっと頬を緩める。


「……!」


 それは、先ほどまでの険しい表情が嘘のようなにこやかな微笑みだった。

 驚いた銀鎧の男は玉座の方を見上げ、目を見開く。


 王はゆっくりと鉱石を手に取り、高々と掲げた。


「皆の者、見よ」


 赤い鉱石が、再び淡く光を放つ。

 光が広間に広がった、次の瞬間。


「おお……!」

「鉱石だ!」

「よかった、よかった……!」


 王と同じように、周囲の兵士たちまでもが安堵の声を上げ始めた。

 歓喜の空気が、謁見の間いっぱいに満ちていく。


「(……なんだ、これ)」


 その光景は、異様ともとれる光景だった。

 ジェイクの背筋に、薄い悪寒が走る。


 王の手の中で光る赤い鉱石。

 あれに、カケラは何をした?


「………」


 疑問を抱き、ジェイクは横目でシオンを見る。

 しかしシオンは、まるですべて承知しているかのように微塵も表情を変えていなかった。


 その中で、ただ一人。

 銀鎧の男だけが、明らかに狼狽える。


「……なんだ、どうしたというのだ?」


 男の視線が忙しなく揺れる。


「貴様ら!一体何をした!!」


 そして剣が抜かれ、切っ先がシオンたちへ向けられた。


「おや」


 カケラが男の方を向き、小さく息を吐く。


「君には効かなかったみたいだね……。たまにいるんだよね。私の術に掛からない稀有な人が」


 その声は、どこか楽しげな口調だった。


「答えろ!返答次第では、貴様らをレグス送りにしてやる!!」


 銀鎧の男が怒鳴る。

 しかし、その脅しを鋭い声が遮った。


「——よさぬか!」


 王だった。

 広間が一瞬で静まり返る。


「それ以上、剣を向けるなら……おぬしもダリスのようにレグスへ向かわせるぞ」


 低く、重い声音。

 銀鎧の男は、はっと息を呑んだ。


「……しかし、」


 なおも言い募ろうとしたが、周囲の空気に押し潰される。

 やがて、彼は歯噛みしながら剣を鞘に収めた。


「…………」


 王はゆっくりとカケラたちへ向き直る。


「無礼を働いた。許せ」

「いえ」


 カケラは穏やかに口元を緩めた。


「怒るのも無理はありませんよ」


 その声音には、どこか含みがあった。




+



 思いのほか、あっさりと事は終わった。

 王都を離れ、しばらく歩いたところでジェイクは口を開く。


「……おい」


 前を歩くカケラの背に向けて、低く呼びかけた。


「いい加減教えろ。お前、一体あの鉱石に何したんだ?」


 カケラは足を止め、ゆっくり振り返る。

 そして、あっさりと言った。


「私はね、催眠術師なんだ」

「あ?」


 淡々とした口調だった。


 あの鉱石には、カケラが独自に編み出した催眠魔法が掛けられていた。

 鉱石から放たれた光を浴びた者は誰であろうとカケラの意のままに行動してしまう。という催眠魔法が。


 だから、王も兵士たちも皆、鉱石を目にした瞬間――鉱石から放たれた光を浴びた瞬間、あのような態度をとった。


「…………」


 説明され、ジェイクの眉が深く寄る。


「これで、あの少年はもう騎士団に追われることはないよ」

「そうか」


 続けて言うと、シオンが短く頷いた。

 ジェイクの声が、さらに低くなる。


「……お前、何者だよ」


 カケラは立ち止まり、正面から彼を見た。


「さっき言っただろう。催眠術師だと」

「んな冗談通じると思ってんのか。舐めんな。どんなに優秀な魔法師でも、あんな芸当できる奴はそうそういねぇ」


 ジェイクはカケラを鋭く睨みつけた。

 カケラはしばらく黙り込み——やがて、肩を竦めて笑う。


「やはり君は面白いな、ジェイク」


 その様子を、シオンが静かに見つめていた。

 カケラは胸に手を置き、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「本来、私はここに居てはいけないことになってる。“予告”をしていないというのもあるが……本当なら私は今頃、ひとりで優雅にお茶をしているはずなんだ」


 わずかに、風が吹く。


「そうしなければ、混乱してしまうからね」

「わけのわかんねぇこと言ってねぇで答えろ」


 ジェイクが遮る。


「もう一度聞く。お前、何者だ」

「……せっかちだな」


 カケラは小さく息を吐く。


「本当は私のことは誰にも話してはいけないのだが、特別だ。シオンの友人である君には教えてあげよう」


 その時——風が強く吹き抜け、フードが揺れた。


 覗いたのは、

 赤い瞳。

 頬に走る一本の傷。

 灰色の髪。

 そして——黒く染まった首元。


 カケラは、静かに名乗った。


「私の名は“欠片”。前の世界に置き去りにされ、存在を消された異物のひとりさ」


 その言葉が落ちた直後。

 シオンたちの周囲の空気が、わずかに冷えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ