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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
5、「 」

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敵だから、とか





「えと、……警告音が聞こえたから様子を見に来たんだけど……何これ?」


 赤髪の少年は、きょとんと首を傾げる。

 少年が困惑した表情を浮かべているとKBが彼のもとへ歩み寄った。


「お疲れ様です、ルークス」

「ルークス!ルークス!」


 ピーロボがカタカタカタと音を立てながら地面を走り回る。

 どうやら久しぶりに会えたことが嬉しいらしく、小さな体を忙しなく動かして、少年…ルークスの足元を行ったり来たりしていた。

 その様子を見下ろしながら、ルークスは後頭部に手を持っていく。


「……一応、知らない人たちだったから攻撃して無力化しておいたけど……これでよかったの?」

「ええ、完璧です。ちゃんと母親の言いつけを守って偉いですよ」

「ルークス、偉い!」

「………子供扱いしないで」


 ルークスは眉をひそめた。

 自分よりも年上の相手から褒められること自体は別に嫌いではないが、こうも露骨に子供扱いされるとなんとも言えない気持ちになる。


「それで、この人たちは何?」


 ルークスは話題を変えるように、倒れている二人へ視線を向けた。


「この方々は、呪念石を盗もうと企む不届きな輩です」

「えっ!?」


 ルークスは目を見開いた。


「なんでそんなものを!?」

「意図はわかりません」

「……このこと、母さんたちには?」

「落ち着いたら報告するつもりです。ですが、まずはこの方々を洞窟の外へ送り届けます」


 KBはそう言って、足元に倒れているジェイクたちを見下ろす。

 外へ送り届ける。その言葉にピーロボはぴたりと動きを止めた。


「? 外に戻しちゃうの?何で?」

「ここは世界樹の加護を受けた洞窟です。いつまでもここに置いておいて汚しておくことはできません」

「汚す……」

「それに、この出血量を考えると、あと数分足らずでこの方たちの命は朽ち果てます。外に捨てておけば、勝手にあの世行きです」

「……な、なるほど」


 ルークスは頷くが、その顔は若干引きつる。KBの言葉には、ちょくちょく棘が混じることがあった。

 もちろん、彼女が合理的な判断を優先する人物であることは知っている。無駄なことをせず、必要とあれば迷いなく行動する。そうするようにプログラムされているのは知っているし、それはプログラムだから仕方がない。


 だがルークスとしては、もう少し言葉を選んでくれてもいいのではないかと思っていた。


 彼は以前、一度だけ母親を通じてKBにお願いしたことがあった。もう少し優しい言い方をしてほしい、と。

 母は承諾してくれたと言っていたのだが、その後でも改善される気配はなく、それどころか最近になってむしろ棘のある発言が増えているという珍事が発生していた。


 どうしてこうなったのか。

 ルークスにはさっぱり分からず、母にも何故そうなってしまったのかは分からないらしい。


「では、ルークス、ピーロボ。運びましょう」


 そう言うとKBはジェイクの体を抱え上げ、そのまま自分の肩に担ぐ。自分よりも大きな男を、まるで荷物でも持ち上げるかのように軽々と。


「わっ。KB、力持ち!」


 ピーロボは目を輝かせた。


「このくらい余裕です。ルークスは彼をお願いいたします」

「う、うん」


 そしてルークスも、少しばかり気後れしながらダリアンのそばにしゃがみ込む。

 彼の体に腕を回し、どうにか持ち上げた。


「よいしょ……っ」


 ずしり、と腕に重みがかかる。

 自分よりも少しだけ重い男の体を支えるのは決して初めてではない。それでも、KBのように軽々と運べるわけではなかった。

 足元が少しふらつく。ルークスは慌てて体勢を立て直すと、ダリアンの体をしっかり支え直した。


「大丈夫ですか、ルークス?」

「だ、大丈夫。これくらいなら……」

「そうですか。では、遅れないようについてきてください」

「う、うん……」


 もう少しくらい心配してくれてもいいのにな。そんな思いを胸の内にしまい込み、ルークスはKBの後に続いた。

 ピーロボも二人の後ろをカタカタと移動しながら、ピッ、ピッ、と音を鳴らしてついていく。


 こうして一行は、意識を失った二人の男を連れて洞窟の外へと向かった。



+



 洞窟の外。

 差し込む光を目にした瞬間、ルークスはほっと息を吐いた。


「はぁ。やっと着いた……!」


 長い道のりだった。

 もっとも、ルークスが大変だったのは洞窟の中を歩いたことよりもダリアンの体を運び続けたことの方だった。

 ルークスは入口付近の地面にダリアンの体をそっと横たえる。一方のKBはというと、どさりと担いでいたジェイクの体を足元へ下ろした。下ろしたというより、落としたと言った方が正確かもしれない。


「任務完了。お疲れ様です、ルークス」

「………本当にこのまま放置していいの?」


 ルークスは倒れている二人を見つめる。傷だらけの体。血に汚れた衣服。ぴくりとも動かない手足。

 先ほどKBが口にした言葉が頭の中をよぎる。あと数分足らずで、この二人の命は尽きる。それなのに本当に何もしなくていいのだろうか。


「構いません。この方たちは私たちの敵ですので」


 KBは冷たく言い切った。

 そこには迷いもためらいもない。


「では、私はこの件を報告してきます。ピーロボと貴方は、このまま持ち場へ戻って構いません」

「……うん」


 ルークスは小さく頷いた。

 KBはそれ以上何も言わず、空を見上げる。次の瞬間、彼女の体がふわりと浮かび上がり、勢いよく空高く跳躍した。風が巻き起こり、白と黒の髪が揺れる。


「………、」


 海から吹きつける潮風がルークスの髪をなびかせ、KBの姿は、あっという間に遠ざかっていく。

 やがてその姿が見えなくなると、ルークスはしばらくの間、黙って地面に倒れている二人を見つめた。


 呪念石を盗もうとした人間。

 確かにそれは許されることではない。

 けれど、彼らは人間だった。

 自分を育ててくれた両親と同じ人間。

 目の前で命を落とそうとしている相手を、ただ"敵だから"という理由だけで見捨ててしまっていいのだろうか。


 胸の奥が、ちくりと痛む。


「…………」


 やがて、ルークスは小さく息を吐いた。

 そして肩から下げていたバッグに手を入れて、ごそごそと中を探る。

 取り出したのは大きな二つの瓶。一つは青色。もう一つは黄色。

 ルークスはしゃがみ込み、青い瓶をジェイクのそばへ。続いて、黄色い瓶をダリアンのそばへ置いた。瓶の中では、それぞれ異なる色の液体が揺れる。

 それを見たピーロボが、ピッ、と短く音を鳴らした。


「ルークス、何してるの?」

「ちょっとね」


 ルークスはそれだけ答えると、再びバッグの中を探った。次に取り出したのはメモ帳とペン。メモ帳を開き、慣れた手つきで文章を書き込んでいく。

 さらさらとペン先が紙の上を走り、書き終えると彼はページを一枚びりっと剥がした。その紙を二つに分け、それぞれの瓶へと貼り付ける。


「これでよし」


 満足そうにルークスは頷き、ピーロボへと顔を向けた。


「……ピーロボ、約束。このこと、KBには内緒にしておいてね」

「ピッ。約束。KBに内緒。内緒。メモリーに保存。保存」


 ピーロボは目をぱちぱちと点滅させ、小さく機械音を鳴らした。

 ルークスの言葉をしっかり記録し、くるっと回る。


「うん。ありがとう」


 それを見て、ルークスは口元を緩ませた。

 もちろん、このことをKBに知られたら何を言われるか分からない。勝手なことをするなと叱られるかもしれない。

 敵に情けをかける必要はない、と冷静に指摘されるかもしれない。


 それでも──


「…………」


 それでもルークスはこの二人を助けたかった。自分にできることくらいはしておきたかった。

 矛盾してると思われたとしても自分の想いには嘘を吐かず、背を向けない。父との約束だった。

 ルークスは立ち上がり、肩にかけたバッグを背負い直す。


「それじゃ、戻ろうか。ピーロボ」

「ピッ!」


 踵を返すと、元気よく返事をしたピーロボがカタカタとルークスの後を追った。

 二人の姿が洞窟の奥へと消えていく。その場には血を流して倒れるジェイクとダリアンが残された。彼らのそばに置いた瓶に貼られた小さな紙片が風に揺れる。


 そこには、それぞれの中身と使い方が丁寧な文字で記されていた。



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