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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
5、「 」

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vs.KB





 ジェイクは歯を食いしばり、KBの腕を振り解こうとする。


「ぐっ……このっ!」


 肩に力を込め、体を捻る。

 だが、KBの拘束は微動だにしなかった。腕を引けばさらに押さえ込まれ、体を起こそうとすれば地面へ押し戻される。


「てめぇ……いい加減、離しやがれ!」

「抵抗をやめてください。無駄です」

「誰が、やめるかッ!」


 ジェイクは空いている腕を振り上げ、KBへ拳を叩きつけた。しかし、ガシッと乾いた音が響く。


「なっ……!」


 KBは顔色ひとつ変えず、その拳を片手で受け止めていた。飛んできた虫を捕まえるような、あまりにも容易い動作。


「無駄だと申し上げました」


 ジェイクが拳を引こうとした瞬間、KBはその手を押さえたまま、もう一方の手で腕を捻り上げた。


「ぐあっ!」

「ジェイクさん!」


 ダリアンが声を上げる。

 助けに入りたいが、一歩でも動けばジェイクの命はない。魔法を使うにも彼を巻き込まずKBだけを無力化する必要があった。


「…………」


 ダリアンは息を潜め、KBを観察する。

 刀を持つ手。ジェイクの腕を押さえる手。姿勢に隙はほとんどない。正面から仕掛けても返り討ちに遭うのが落ちだ。


「おい、ダリアン!いつまで突っ立ってやがる!早く助けろ!」

「分かっています!今、考えていますから!」

「考える暇あんなら魔法でも何でもぶっ放せよ!」

「貴方、自分が今どんな状況にあるか分かってます!?」

「お二人とも、静かにしてください。これ以上騒ぐのであれば拘束を強めます」


 KBの冷淡な声が割って入った。

 ダリアンは口を閉じ、KBの周囲を動き回るピーロボへ視線を向ける。


「ピーッ!警戒!警戒!侵入者を警戒!」


 カタカタカタ。

 小さな体で走り回り、時折ジェイクを覗き込んではKBの足元へ戻っていく。


「ピーロボ。警告を継続してください」

「了解!警告を継続!継続!ピー!ピー!ピー!」


 ダリアンの目が細まった。

 あの小さなロボットはKBのそばを離れない。ならば、使えるのではないか。


「…………」


 彼は足元へ意識を集中させる。地面に魔力が流れ、青白い魔法陣が浮かび上がった。


「魔力反応を検知いたしました」


 KBの灰色の瞳が即座にダリアンへ向く。同時に、ジェイクの体が地面へ押しつけられた。


「ぐあっ!」

「!」

「動かないでくださいと申しました。次に同様の行動を確認した場合、対象への処置を変更します。すみやかに魔法陣を解除してください」

「いてててててっ」

「っ、…」


 ダリアンは唇を噛み、魔法陣を消す。


「賢明な判断です」


 KBの視線がジェイクへ戻る。

 その後、ダリアンは両手を背中へ回した。魔法陣を使えば察知される。大きな魔法は駄目。ならば、小さな魔法を放つだけではどうか。小さな魔法なら陣は必要ないし、検知されることもないだろう。


「………光よ」


 小声で呟き、指先を合わせてパチンと鳴らす。そこに、小さな光の球が生まれた。ダリアンは顔を動かさず、ピーロボの動きを追う。

 カタカタ。カタカタ。しばらく動きを見て、ピーロボがKBの背後へ回ろうとした瞬間、指先を弾いた。


 光球が音もなく素早く飛ぶ。


「きゃっ!」


 ピーロボの体が跳ね、ガタンッと地面へ倒れた。


「ピーロボ?」


 KBが振り向く。

 ほんの一瞬の隙が生まれた。

 ダリアンはすかさず叫ぶ。


「ジェイクさん、今です!」

「っ……」


 その叫びを聞いたジェイクは全身を捻り、拘束された腕を引き抜く。KBの手がわずかに緩んだ瞬間、体ごと彼女を押しのけた。


「うらぁッ!」

「!?」


 ドンッ!

 KBの体が傾き、ジェイクは転がるように距離を取って立ち上がる。


「ジェイクさん!大丈夫ですか?」

「なんとかな。……っ、あの野郎!」


 KBはゆっくりと立ち上がり、乱れた髪を整えるとダリアンへ視線を向けた。


「……今のは、貴方の仕業ですか?」

「さて、何のことでしょう?」

「微量ですが、魔力の反応を検知しました」

「おかしいですね。僕は何もしていませんよ」

「ピッ……ピピッ……。エラー……エラー……」

「ピーロボ…!」


 KBは倒れたピーロボへ駆け寄る。

 その瞬間、ジェイクが前へ踏み込んだ。


「おらぁッ!」


 拳を振り抜くが、KBはすぐにそれに気づき、振り向きざまに受け止める。


「攻撃を確認。反撃を開始します」

「いちいち宣言してんじゃねぇよ!」


 ジェイクは拳を引き、左右から連続して打ち込んだ。

 右、左、さらに右。

 KBは最小限の動きでかわし、受け流し、手首を掴んでは軌道を逸らす。ジェイクが大きく振りかぶった瞬間、その姿が視界から消えた。


「……ッ!?」


 次の瞬間、脇腹に蹴りが叩き込まれる。


「ぐっ!」


 ジェイクの体が吹き飛び、岩壁へ叩きつけられた。


「ジェイクさん!」

「……っ、平気だ!」


 痛みに耐えて立ち上がる。拳は当たらず、KBの一撃は重い。


「この、化け物が!」

「化け物ではありません。アンドロイドです」


 ジェイクは軌道を変えながら距離を詰め、低く沈み込んだ。足元へ潜り、体勢を崩そうとする。


「動作を予測」

「なっ!?」


 KBは軽く跳び、ジェイクの肩を踏み台にして体を翻した。背中へ蹴りを受け、ジェイクは地面を転がる。


「くそっ。あの女、どうなってんだ!?」

「ジェイクさん、無茶をしないでください!」

「無茶なんてしてねぇよ!」

「あれのどこが無茶じゃないんですか。…彼女の動きに合わせてください。僕が援護します」


 言いながらダリアンは三叉槍を抜き、KBへ向けて構えた。


「武器を確認。脅威度を再評価します」

「動きに合わせろって、…それこそ無茶だろっ」


 ジェイクが正面から飛び込み、拳でKBの注意を引く。その背後からダリアンが三叉槍を突き出した。

 KBは体を捻ってかわすが、槍先が肩口をかすめる。


「このっ!」


 ジェイクが着地の瞬間を狙って拳を振り抜く。KBは身を回してかわし、反撃に移ろうとした。


「させません!」


 ダリアンが槍を横薙ぎに振るう。KBは手を引き、槍の間合いから飛び退いた。

 間髪入れず、ダリアンが左手をかざす。


「光よ!弾けなさい!」


 小さな光弾が足元で弾け、白い閃光がKBの視界を覆った。


「視覚情報に異常……」


 KBの目がパチパチと高速で瞬きをする。


「これでも食らいやがれッ!」


 その隙に、ジェイクが踏み込む。

 渾身の拳が胴へ突き刺さり、鈍い音と共にKBの体がわずかに後退した。


「うしっ!」


 KBはしゃがみ込み、痛む箇所をおさえる。


「攻撃を受けました。軽微な損傷。ですが、戦闘継続に支障はありません」


 KBは立ち上がる。殴った箇所は服が破れ、白い肌が見えていた。


「おいおい。どんな体してんだてめぇ!」

「こんな体です」

「っ、……そのすました顔、今からボッコボコにする!」


 ジェイクは再び殴りかかろうと拳を振り抜く。しかしその瞬間、ダリアンが叫んだ。


「! ジェイクさん、駄目です!下がって!」


 KBが刀を抜き、横薙ぎに振るう。


「うおっ!?」


 ジェイクは咄嗟に身を引いた。

 刃が鼻先をかすめる。


「あっぶね!」

「速度を見誤りました。調整いたします」


 KBは刀を構え直した。重心は安定し、刃先は二人の動きを正確に捉えている。

 ダリアンが槍で間合いを制し、ジェイクが横から攻める。二人は互いの動きを補いながら、KBを挟み込んだ。

 だが、KBはすぐに対応した。

 槍を刀で弾き、ジェイクの拳を受け流す。接近すれば蹴りで牽制し、二人の連携を見切るたび、反撃が正確に返す。


「……っ、こいつ!」


 ジェイクの額に汗が浮かぶ。対するKBは息ひとつ乱していない。


「このロボ女、体力底なしかよ!」

「そりゃ、ロボットですからね。疲れ知らずでしょう」

「……っ、こっからどうするよ?」

「……………」


 聞かれ、ダリアンは周囲を見渡す。

 正面からでは勝てない。KBの身体能力は人間を大きく超えている。ここで戦い続ければ、いずれ致命傷を受けることは確実だ。


「……ジェイクさん、撤退しましょう」

「はぁ!?逃げるってのか!?」

「このままずっと消耗戦を続けるおつもりですか?今は生き延びることを優先した方が身のためです。それに、僕たちがここでやられたらルーンさんたちはどうなります?」


 ダリアンは言う。

 ジェイクは悔しげにKBを睨んだ。


「……チッ。仕方ねぇか!」

「ご理解いただけて何よりです」


 ダリアンは三叉槍を地面へ向ける。


「一瞬の隙を作ります!足元にご注意を!」


 穂先から魔力が弾け、二人の足元から白い光と砂埃が広がった。洞窟内が一瞬で煙に包まれる。


「視界遮断を確認。対象を捕捉します」


 KBは二人を見失い、ジェイクとダリアンは走り出した。道は分からないが、とりあえず今はKBたちから離れる。それだけでいい。


「ジェイクさん、この道でいいんですか!?」

「知らねぇよ!とにかく走れ!」


 二人は岩場を飛び越え、曲がり角を抜けて暗い通路を駆け抜ける。

 しばらくすると、背後からカタカタという音が近づいてきた。


「ピーッ!侵入者発見!侵入者発見!」

「対象を再捕捉しました。追跡を開始します」


 続いて、KBの冷たい声が響く。


「くそっ、しつけぇな!」


 ジェイクたちはさらに速度を上げる。

 背後から迫る足音は、一定で乱れがない。このままでは追いつかれてしまいそうだった。

 その時、通路の先に二手へ分かれる分岐が現れる。


「どっちに行きます!?」

「右だ!」

「根拠は!?」

「勘だ!」


 二人は右の下り坂へ飛び込んだ。足元の石に何度も足を取られながら、それでも走り続ける。


「侵入者、逃走中!待てー!」

「逃走は無意味です。貴方たちは、この洞窟から逃れることはできません」

「……っ、言ってろ!」


 ジェイクは振り返らずに吐き捨てる。

 彼らは暗闇の奥へ走り続けた。



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