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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
5、「 」

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毎回おんなじとこから





 フィルとシオンが話を終えて客間に戻ると、部屋の中では夕食の準備が始まっていた。


 清龍と桃華がテーブルの上に料理を並べており、依千蔵とルーンは邪魔にならないよう部屋の隅へと移動している。

 依千蔵の手には学び舎で開催されるサクラ祭についての案内の紙が握られていた。二人は並んで腰を下ろし、紙に書かれた内容をじっと眺めている。ルーンの膝の上ではブルーテイルが丸くなっており、時折、興味深そうに紙へと視線を向けていた。


 客間に入ると香ばしい匂いが鼻先をくすぐる。

 どうやら今日の夕食のおかずは唐揚げらしく、揚げたての唐揚げが皿に盛られていく様子を眺めていると自然とお腹が鳴った。


「……へぇ。学び舎には、そんなお祭りがあるのね」

「サクラ祭以外にも、学び舎でやるやつはいろいろあるぜ。これから先、せいぜい楽しみにしてろよ」


 ルーンが感心したように呟くと、依千蔵は紙から目を離さずに答える。


「依千蔵。そろそろご飯にするから、その紙は部屋に置いてきて」


 夕食を並べ終えた桃華が声をかけると、依千蔵は紙を畳みながら短く返事をした。


「分かった」


 立ち上がり、フィルたちの横を通り過ぎて客間を出ていく。

 彼と入れ替わりで、ホワイトとグリーンが客間へと入ってきた。


「さて、みんな。席についてくれ」


 清龍に促され、フィルたちはそれぞれテーブルの前へと腰を下ろしていく。温かな料理が並ぶ食卓には、いつもの穏やかな空気が流れていた。

 そんな中、フィルは席につく前に桃華へと声をかける。


「桃華」

「ん?どうしたの、フィルさん」


 おぼんを胸元に抱えた桃華が振り返る。

 フィルは彼女のそばへ歩み寄ると、少し声を落として告げた。


「泣き声の件だけど……シオンも協力してくれることになった」

「えっ……シオンさんが?」


 桃華は驚いた様子で大きく目を見開き、フィルの背後へと視線を向ける。

 シオンを見ると、彼はターナと話をしていた。


「今夜も聞こえてくるかは分からないけど、今度はシオンがいる。もう何も分からないまま終わることはないと思うよ」

「…………」

「……桃華?」

「あ、えと、あのね。私も……フィルさんに話があって」

「ん?」


 眉尻を下げた桃華を見て、フィルは首を傾げる。

 彼女は何かを言いかけては口を閉じ、迷うように視線を揺らしていた。


「桃華、フィル。お前たちも早く座れ」


 そこへ、清龍が近づいてくる。


「あ、清。ちょうどよかった」

「?」


 桃華は清龍へと顔を向けた。

 どうやらフィルに話したいことは、清龍に関係しているらしい。

 そして、桃華は二人の顔を交互に見つめて、ゆっくりと口を開いた。



+


 そして深夜。

 静まり返った家の中に、再びあの声が響く。


「うえぇぇぇぇん!!」


 泣き声を耳にしたフィルは、はっと目を開けた。暗闇の中、しばらく身じろぎもせずに耳を澄ませる。

 フィルは布団から起き上がり、部屋の明かりをつけた。淡い光が室内を照らす。

 部屋の隅にはシオンが壁に背を預けて座っていた。彼はフィルが起き上がった気配を感じ取ると、ゆっくりと目を開ける。


「……聞こえたのか?」

「ああ……」


 フィルは頷き、寝間着のまま襖へと向かう。静かに襖を開け、廊下を覗き込んだ。


「うえぇぇぇぇん!!」


 泣き声が響く。

 昨日よりも、ずっとはっきりと。

 耳を塞ぎたくなるほど大きいわけではない。けれど、声の輪郭がはっきりしているせいで、まるで泣いている子供がすぐ近くにいるかのように感じられた。


「………」


 フィルは眉をひそめる。

 これほどはっきりと聞こえているのに、本当にシオンには何も聞こえていないのだろうか。


「……きゅう?」


 そこで、背後から小さな声。振り返るとブルーテイルが目を覚ましていた。もぞもぞと体を起こし、眠たそうに欠伸をする。


「特に異常は感じないな」


 シオンは立ち上がり、フィルの隣へと歩み寄った。廊下を見渡しながら呟く。

 壁や床に異変があるわけでもなければ、何者かの気配が感じられるわけでもない。

 少なくとも、シオンの目には何も映っていなかった。


「泣き声はどっちから聞こえる?」

「今回も、ルーンの部屋の方から…」

「そうか……」


 シオンは視線を廊下の奥へと向けた。


『はっ。こんな偶然ねぇよな。毎回毎回おんなじとこから泣き声が聞こえてくるなんてそうそうねぇよ。やっぱりあの女は泣き声の主を隠してる。確定だ』


 頭の中に刻印の声が響く。

 フィルは眉をひそめた。


「……行くぞ」

「あ、ああ!」


 考え込むフィルをよそに、シオンは足を動かし廊下に出る。

 フィルは慌ててブルーテイルを呼び寄せ、その小さな体をしっかりと抱きとめてシオンのあとを追う。


 廊下を進んでいくと、やがて曲がり角に差しかかり、その向こうから桃華が歩いてきた。


「フィルさん、シオンさん」


 彼女の後ろには清龍の姿もある。

 二人の姿を見たフィルとシオンは、足を止めた。


「……清龍も来たのか」


 シオンは桃華の背後にいる清龍に声をかける。


「清にもね、この話をしたら……俺も協力するって言ってくれて」

「ここは俺の家だ。俺の家で異変が起こっているのなら、俺が調べなきゃ駄目だろ」


 清龍は当然のことだと言わんばかりに答えた。

 その表情は真剣そのもので、フィルは清龍に向き直ると深々と頭を下げた。


「改めて、ありがとうございます。清龍さん」

「……気にするな」

「きゅうっ」


 清龍は短く返事をした。

 フィルの腕の中でブルーテイルが声を上げる。嬉しそうな鳴き声。

 張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。しかし。


「うえぇぇぇぇん!!」

「きゃっ……!」


 その穏やかな時間は長く続くはずはなく、突然響いた泣き声に桃華が小さく悲鳴を上げた。

 彼女は驚いたように肩を跳ねさせ、清龍の腕にしがみつく。


「聞こえたのか?」


 泣き声がした方へと顔を向けると、清龍が尋ねた。桃華は何度も小刻みに頷く。


「う、うん……!」


 清龍は怯える桃華の手を優しく握り、周囲を見渡した。


「……やはり何も聞こえないな」

「おそらく、刻印がこいつらに泣き声を聞かせているんだろう。詳しくは分からないがな」

「刻印が……?」


 シオンは腕を組みながら言った。

 清龍は眉をひそめ、フィルと桃華は顔を見合わせる。


「うえぇぇぇぇん!!」


 再び、泣き声が響いた。


「きゅう……」


 ブルーテイルが悲しげに鳴き声をあげる。小さな耳が、ぺたりと垂れ下がった。

 フィルはそんなブルーテイルの頭を、そっと撫でる。


「大丈夫だ」


 そう声をかけながらも、フィル自身の胸には不安が広がっていた。


『フィル。まずは部屋の前に行け』


 刻印の声が頭の中に響く。

 フィルは廊下の奥へと視線を向けた。泣き声が聞こえてくるのは、変わらずルーンの部屋の方。

 そこへ行けば、何かが分かる。

 それとも、また何も分からないまま終わるのか。


「……うん」


 フィルは刻印の言葉に小さく頷く。そして、ブルーテイルを抱いたまま再び歩き出した。

 その背中を見てシオンが続き、清龍と桃華も互いに顔を見合わせたあと、そのあとを追う。


 夜の廊下に四人分の足音が静かに響く。


 その先にあるのはルーンの部屋。

 そして、その向こうからは今も幼い子供の泣き声が止むことなく聞こえ続けていた。




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