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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
5、「 」

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337/343

これは大変





 学び舎の校舎裏は、昼休みの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 校庭から離れたこの場所には、人影もほとんどない。植え込みの並ぶ校舎の壁際で、木々の枝だけが風に揺れている。

 そんな場所まで連れてこられたルーンは、訝しげに周囲を見回した。こんな所まで連れてきて、目の前の男子生徒は何を話すのだろう。そんな疑問だけが脳裏を埋める。


 そして男子生徒は足を止め、ルーンの方へ振り向いた。


「……えっと、まずは……ごめんな。飯の邪魔しちゃって」

「気にしなくてもいいわ。……それより、話って何かしら?」

「っ、さ、さっそく……っすか」


 男子生徒は身を強張らせる。先ほどより落ち着いたように見えるものの、視線は定まらず、両手も所在なげに動いていた。

 ルーンが黙って待っていると、彼は何度か深呼吸を繰り返す。


「じ、じゃあ……昼休みも残り少ないし、単刀直入に言うな」

「ええ」


 ルーンが頷く。

 男子生徒は気合いを入れるように、ぎゅっと拳を握りしめた。



+



「…………」


 校舎の角から少し離れた植え込みの陰に、フィルは身を潜めていた。壁から顔をわずかに出し、静かにルーンたちの様子を窺っている。


「……(なんでオレ、こんなところにいるんだろう)」


 マキノとショウコに「教室に忘れ物をした」と嘘をついて離れたまではよかった。だがそこからは完全に衝動的だった。

 ルーンが心配だった。いや、正確には、あの男子生徒がルーンに何を話すのか気になった。人目につかない場所まで連れてきて話があるだなんて、何か相談でもあるのか、それとも別の……。


「…………」


 フィルは眉間に皺を寄せる。

 別の、とは何だ。

 視線の先では男子生徒が何度も口を開きかけては閉じている。ルーンは穏やかにその言葉を待っていた。

 どうやら、まだ話は始まっていない。


「…………、」


 フィルは息を吐く。

 それと同時にふと我に返った。

 人の会話を本人たちに隠れて覗き見る。しかも、わざわざ後をつけてまで。どう考えてもこれは褒められた行為ではなかった。

 ルーンが心配だったとしても、彼女は自分の意思で男子生徒についていった。何か問題が起きている様子も今のところないし、ルーンならば問題が起きたところで対処くらい出来るだろう。ならば、自分がここにいる必要はないはずだ。


「ん……」


 フィルは一度、壁の向こうから顔を引っ込める。

 立ち去るべきだ。

 そう思った直後、また覗き込む。

 男子生徒が何かを言おうとしている。ルーンが小さく首を傾げた。


「んー……っ」


 気になる。

 このまま帰ってしまえば何を話していたのか分からない。かといって、ここに居座るのも気が引ける。


「んんんー……っ」


 居座るか、帰るか。

 そんな葛藤を何度も何度も繰り返す。


「フィル?」

「っ!?」


 頭から煙が出そうだ。

 そう思ったその時、背後から突然名前を呼ばれてフィルは肩を震わせた。振り返ると、そこには見慣れた黒髪の少年が。


「……しゅ、修介?」

「おう。……こんな所で何してんだ?」


 修介だった。

 彼の背後には二人の男子生徒の姿もある。彼らはフィルを見つめてきょとんとしていた。


「……いや、これは、その……」


 説明に詰まる。なんて言えばいいんだろう。考えていると、ふと男子生徒たちが声をあげた。


「あっ、あいつ、あんなとこに!」

「本当だ!いきなり走り出したから、どこに行ったのかと思えば……」


 二人の視線は、フィルの向こうへ向けられていた。フィルが振り返るより早く、修介が校舎の角から顔を出す。


「ん?……あいつの隣にいるの、もしかしてルーンか?」

「ああ、本当だ。……は?じゃあ、あいつ……とうとう告るん…!?」

「………こくる?」


 男子生徒たちが声を荒げる。

 それと同時、彼らと共にルーンたちの様子を見ていた修介の声が低くなった。


「それ、どういう意味だ?」

「えっ、あ、いや……その……」


 修介は腕を組み、鋭い目付きで彼らを睨み付ける。たじろぎ、怖っ、とぽつりと呟く声が聞こえた。


「え、ええと……あいつ、マサトっていうんだけど…前々からルーンのことが好きだったみたいで……」


 男子生徒のひとりが恐る恐る口を開く。


「……ほう?」

「一目惚れみたいでさ。けど、なかなか話しかけられなくて」

「普段は遠くから見てるだけだったんだけど、とある理由から、もう我慢できなくなったんじゃないかな」


 彼らの言葉を聞き、修介は校舎裏へ視線を戻す。ルーンと一緒にいる男子生徒…マサトは彼女と向かい合い、今にも何かを告げようとしていた。


「…………」


 フィルは黙ったまま。

 そうか。あの男子生徒はルーンに告白しようとしているのか。マキノたちの言った通りだ。


 告白。


 別に、おかしなことではない。ルーンは魅力的な人だ。誰かが彼女を好きになっても不思議ではない。


「…………」


 胸が、ずきりと痛む。


「……とある理由って?」


 修介が二人に尋ねる。


「ああ、それは……たぶん、これだよ」


 そう言って、男子生徒のひとりが上着のポケットから写真を取り出した。

 そこには、純白のウェディングドレスを身に纏ったルーンが写っている。撮影会で撮られた写真の一枚だ。


「今朝、マキノがさ…あ、ルーンの友達の女子生徒がさ、教室で見せてくれたんだ。これを見て、マサト、すっかり気持ちが舞い上がっちゃったみたいで」

「いつも以上にそわそわしてたもんな。で、昼休みになった途端、飯も食わんで暴走した」


 聞きながら修介は写真を受け取り、じっと見つめる。

 写真の中のルーンは普段とは違う装いで穏やかに微笑んでいた。白いドレスがよく似合っている。

 ドレスを作っていたことはフィルから聞いていた。だが、まさか着用し、写真まで撮っているなんて。


「……ふーん」


 自分もついていけばよかった。

 そんなことを思いながら写真を返すと、修介は数秒考え込む。

 そして、フィルの腕を掴んだ。


「行くぞ、フィル」

「え?」


 そしてそのまま、フィルを引っ張って歩き始める。


「ちょ、…修介!」


 引かれるまま、フィルも慌てて足を動かした。

 聞く耳を持たずに歩く修介の表情は真剣で、そんな彼らの背中を男子生徒たちはしばらく呆然と見送る。


「え?お、おい……!まさか割り込むつもりか!?」


 ひとりが声を上げた。

 しかし修介は止まらない。


「……ちょっと待て。なぁ、あいつが連れてってる、あの金髪……!」


 すると、もうひとりがフィルの姿を見て目を見開いた。


「あいつ、まさかルーンの……?」

「ん?……っ、そういえば似てたな!」


 言われて、彼も目を見開く。


「しゅ、修羅場だ……!」


 二人は顔を見合わせ、そして、彼らの声は静かな校舎裏に響き渡った。



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