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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
5、「 」

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336/342

大成功!





 東の大陸。サクラ村。


 朝の学び舎は、いつもよりも賑やかな声に包まれていた。教室の扉を開けたルーンは足を止める。

 教室の中央付近に生徒たちが集まり、その輪の中心ではマキノが何やら楽しそうに話していた。身振り手振りを交えながら、手にしている何かを周囲の生徒たちに見せている。


「……?」


 その光景を不思議そうに眺めていたルーンだったが、やがて彼女の存在に気づいたマキノが顔を上げた。

 勢いよく手を上げると、人垣を抜けてルーンのもとへ駆け寄ってくる。


「ルーンちゃん!おはよう!」

「おはよう。……朝から賑やかね」

「ふふっ。みんなにこれを見せてたの!」


 マキノの表情がぱっと明るくなり、彼女は手にしていたものをルーンの目の前に掲げる。

 彼女が持っていたものは何枚もの写真。先日行われた撮影会で撮影した写真だった。


「大好評だよ、ルーンちゃん!もう、みんな大興奮!」


 マキノは目を輝かせながら、弾むような声で言う。

 彼女の背後に目を向ければ、机の上に広げられた写真を囲む生徒たちの姿があった。とりわけ女子生徒たちの盛り上がりは凄まじく、写真を一枚手に取っては隣の友人と顔を見合わせ、楽しそうに声を上げている。


 そんな彼女たちを眺めたあと、ルーンはマキノから写真を一枚受け取る。そこに写っていたのは、ウェディングドレスに身を包んだルーンと、その隣に並ぶマキノ、そしてショウコの姿だった。

 純白のドレスを纏ったルーンは普段とはどこか違う雰囲気を漂わせていて、写真の中の彼女はカメラに向かって穏やかな表情を浮かべている。


 ルーンはしばらくの間、その写真を見つめていた。


「……やっぱり、なんだか変な感じね」

「ん?何が?」

「……いえ、なんでもないわ」


 ルーンは小さく首を横に振ると、写真をマキノに返す。


「あのっ、ルーンさん!」


 そこへ、三人の女子生徒が二人のもとへやってきた。

 彼女たちはルーンを前にすると、少しばかり興奮した様子で写真に目を向ける。


「このウェディングドレス、凄く綺麗ね!ルーンさんにぴったり!」

「本当!すごく似合ってる!」

「マキノ、もう一度その写真を見せてくれる?」

「もちろん、いいよ!」


 元気よく頷き、マキノは快く写真を差し出す。


「ありがとう!」


 写真を受け取った女子生徒たちは、さっそくその場でそれを囲み始めた。


「わあ、やっぱり綺麗!」

「ねえ、こっちの写真も見せて!」

「待って、私にも見せてよ!」


 黄色い声を上げながら、三人は写真を手に教室の奥へと戻っていく。その背中を見送ったマキノは、満足そうに再び頷いた。


「凄いね、ルーンちゃん。やっぱり、やって良かったよ!」

「……そう?」

「そうだよ!だって、あんなに喜んでもらえてるんだもん。あとでショウコちゃんとフィルさんにも、この大盛況を伝えなくちゃ!」


 マキノは嬉しさを隠そうともせず、力強く言い切った。

 撮影会を企画した本人としては、こうして多くの生徒たちに喜んでもらえることが何よりも嬉しいのだろう。

 その様子を見つめていたルーンは、ふっと表情を和らげる。


「……ふふっ」

「ん?どうしたの、ルーンちゃん?」

「いいえ。楽しそうだと思っただけよ」

「えへへ。だって、楽しいんだもん!」


 マキノは満面の笑みを浮かべる。

 その笑顔につられるように、ルーンの口元にも穏やかな笑みが広がった。



+


 昼休み。


 学び舎の校庭広場には、昼食を楽しむ生徒たちの姿があちこちに見られた。木陰に設けられたベンチの一角では、ルーン、マキノ、ショウコ、そしてフィルの四人が昼食を囲む。

 四人の中心には二枚の写真が並べられていた。

 一枚は、ルーンとフィルが並んで写っているツーショット写真。もう一枚は、ルーン、マキノ、ショウコ、フィルの四人が揃った写真。どちらも先日の撮影会で撮影されたものだ。


「……というわけで、朝からみんな大盛り上がりだったんだよ!」


 マキノは、朝の出来事を身振り手振りを交えながら説明していた。

 話を聞いたショウコは、嬉しそうに微笑む。


「よかったね、マキノ」

「うんっ。これも協力してくれたショウコちゃんたちのおかげだよ!ありがとうっ!」


 マキノは満面の笑みを浮かべると、手に持っていた惣菜パンにかじりつく。

 そのあまりの喜びように、フィルも思わず笑みをこぼした。


「そんなに喜んでもらえたなら、頑張った甲斐があったな」

「ですです!」


 フィルの言葉にマキノは何度も頷く。

 そんな彼女たちのやり取りを横目に、ショウコはベンチに置かれた写真を手に取った。


「それにしても、本当によく撮れてるね。……やっぱりあの時、もっとよくカメラを見せてもらえばよかったな」

「ショウコちゃん、この間から写真の出来よりもカメラに夢中だね」

「だって、これ見て。背景までこんなに細かく写ってるんだよ?写生じゃ絶対に無理だよ、こんな細かく描くなんて」


 ショウコは写真を持ち上げ、フィルとマキノに見えるようにした。写真に写っているのは、撮影場所となった庭園の風景。

 花びらの一枚一枚や背景に広がる木々の葉まで、驚くほど鮮明に捉えられている。


「はぁ……。私もカメラ欲しくなってきちゃった」


 ショウコは羨ましそうに写真を見つめたまま、肩を落とす。どうやらショウコはカメラというものにすっかり魅了されてしまったらしい。


「ふふっ」


 そんな彼女の様子にマキノはくすくすと笑った。その隣で、ルーンもまたベンチの上に置かれた写真へと目を向ける。そして、もう一枚の写真をそっと手に取った。

 ルーンとフィル。二人が並んで写っているその一枚を、ルーンは何気ない様子で眺める。


「あ、あの!ルーン……さんっ!」


 その時、背後から、どこかぎこちない声が聞こえてきた。


「?」


 ルーンたちは声に気づいて顔を上げ、振り向く。

 振り向いた先に立っていたのは、一人の男子生徒だった。四人の視線が自分に集まった途端、彼はまるで予想外の事態に遭遇したかのように体を硬直させ、びくりと肩を震わせる。


「……何かしら?」


 ルーンは不思議そうに首を傾げた。

 男子生徒は、もう一度口を開いて喋ろうとしたが上手く舌が回らず、しどろもどろになる。


「あ、あのっ、え、ええと……その……」


 視線が泳ぐ。

 右を見て、左を見て、またルーンを見る。しかし目が合うと、慌てて視線を逸らしてしまう。

 その挙動は、どう見ても尋常ではなかった。


「あの……ち、ちょ、ちょっと……」


 男子生徒はぎゅっと拳を握りしめる。


「……話があるっ、……んだけどっ」


 声が上擦った。

 そんな彼を見つめ、マキノとショウコは顔を見合わせる。

 フィルは何も言わず、男子生徒の顔をじっと見つめていた。


「話?……何かしら?」


 首を傾げたままルーンは尋ねる。


「え、ええと……こ、ここじゃ、話しづらいかな……。その、少し、ついてきてもらえると嬉しい……というか……」


 男子生徒の頬が、見る見るうちに赤くなっていく。落ち着かない様子で何度も視線を動かしながら、彼はルーンの返事を待った。

 その様子を見れば、彼が何かを言い出すのに相当な勇気を振り絞っていることは明らかだ。


「…………」


 ルーンはしばらく男子生徒を見つめていたが、やがて小さく頷く。


「……分かったわ」


 そして、手にしていた写真を元の場所に戻してゆっくりと立ち上がった。風が吹き抜け、長い髪がふわりと揺れる。

 流れる髪を片手でかき上げれば、その瞬間、男子生徒の喉がひゅっと鳴った。


「そ、それじゃ、……こ、ここここここっちに……!」


 先ほどまでの緊張が、さらに悪化。男子生徒は顔を真っ赤にしたまま、ぎこちなくルーンに背を向ける。

 ギギギと音が聞こえてきそうなほど不自然な動きで、彼はそのまま、同じようにぎこちない足取りで歩き始めた。


「…………?」


 ルーンは眉をひそめる。いったい何なのだろうか。話があるというのなら、もう少し落ち着いてくれればいいものを。

 そんな疑問を抱きつつ、ルーンはフィルたちの方へと振り返った。


「ごめんなさい。少し行ってくるわね」

「うん」

「行ってらっしゃい」


 マキノが明るく手を振り、ショウコも小さく頷く。フィルは何も言わず、ただルーンの顔を見つめていた。ルーンはそんな彼に一瞬だけ視線を向けたものの、すぐに男子生徒の後を追いかけていく。

 やがて二人の姿が校庭広場の人混みに紛れて見えなくなり、その背中を見送っていたマキノとショウコは、ゆっくりとフィルの方へ顔を向けた。


「あの男子生徒、確かマキノたちの教室の人じゃなかった?」

「うん。……あの男の子ね、前からルーンちゃんに気があったみたいなの。もしかしたら今朝、ルーンちゃんの写真を見て、気持ちが抑えられなくなっちゃったのかもね」

「まさかあのままルーンさん、告白されるとか?」

「…かもしれないねぇ」


 二人はひそひそと話している。

 ただし、その声量は隣に座っているフィルにも十分聞こえる程度のものだった。

 聞かせるつもりで話しているのか。そんな疑念すら抱かせるほど、二人の会話は妙にわざとらしい。


「…………」


 フィルの表情が、わずかに引きつる。彼は二人の顔を見比べると、居心地悪そうに眉を寄せた。


「……ゴホンッ」


 わざとらしい咳払いが彼女たちの会話に割り込み、マキノとショウコはぴたりと口を閉じる。


「……オレ、ちょっと教室に忘れ物した。行ってくる」


 そしてフィルは言い、素早く空の弁当箱を片付けて立ち上がった。


「…忘れ物?」

「うん。忘れ物」

「何を忘れたんですか?」

「……、い、いろいろ」


 歯切れの悪い返事。

 フィルはそれ以上何も言わず、二人に背を向けて歩き出した。

 その足取りは普段よりもいくらか速く、やがて彼の姿も校庭広場の向こうへと消えていく。


「…………」

「…………」


 残されたマキノとショウコはしばらく無言で顔を見合わせ、そして、どちらからともなく口元を緩ませて笑った。



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