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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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カケラを訪ねて





 西の大陸。

 広大な森の一角に築かれた、ダークエルフたちの集落。


 朝の淡い光が木々の隙間から差し込み、葉の露をきらきらと輝かせている。そんな静かな集落をターナは足早に歩いていた。

 彼女がここへ来た目的はカケラに会うため。集落の奥にある一軒の家。そこに、現在カケラが暮らしているルーンの家はあった。

 ターナは迷わず玄関へ向かい、ノックもせずに扉を開け放つ。


「カケラ!いるか!」


 大声が家の中に響く。だが、返事はない。


「カケラ!いないのか!」


 眉をひそめ、再び声を張り上げる。やはり返事はなかった。

 ターナは家の中へ入り、リビング、寝室、別の部屋と片っ端から扉を開けていく。しかしどこにもいない。


「おい……」


 最後の部屋を覗き、誰もいないことを確認するとターナは深々と息を吐いた。

 リビングへ戻り、腰に手を当てて誰もいない部屋を睨みつける。


「今は朝だぞ……何処に行ってるんだ、あいつは!!」


 苛立ちが募る。

 ターナは昨夜からほとんど休んでいない。急ぎの用事で夜通し移動し、ようやく集落まで辿り着いたのだ。


 それなのに──。


「ったく……」


 額を押さえる。その時だった。


「……ん?」


 ピピピピ。

 どこからか、かすかな機械音が聞こえてくる。耳を澄ますと、どうやら家の中ではないようだ。


「何だ、この音は……」


 ターナは音を追って玄関へ向かい、外へ出る。家の裏側へ回るにつれ、音は大きくなっていった。


 ピピピピ。


 ターナが音の方へ顔を向けると、そこには白い台座と、その上に乗る銀色の球体が。球体と台座は一本のコードで繋がっていて、音は台座から発せられているらしい。


「……なんだ。いるじゃないか」


 ターナの眉間に皺が寄る。

 しばらくすると音は唐突に止まった。

 少しの静寂。腕を組んで待っていると、次の瞬間、銀色の球体の表面に二つの楕円形の目が浮かび上がった。そして、ぴょんっと小さく跳ねる。


「充電完了!充電完了!ヒャクパーだよ!」


 元気な声が響く。

 意思を持つかのようにコードが自然に抜け、球体はもう一度跳ねてから台座から降りた。

 その様子を、ターナーは腕を組んだまま眺める。


「おい!」

「!」


 そして、タイミングを見て声を掛けると、球体はびくっと反応し、今度は大きく跳ねた。空中でくるりと回り、正面をターナへ向ける。


「あ!」


 すると、コロコロコロと楽しそうに転がりながら彼女の足元へ近づいてきた。


「死神さん。死神さん。おはよう。おはよう」


 ぴょんぴょん。

 球体…コロタマは、まるで久しぶりに友達と会った子供のように嬉しそうに跳ねる。


「おはよう」


 ターナは挨拶を返し、すぐに本題へ入った。


「カケラは何処だ」

「ぬ?カケラ?」


 コロタマの動きが止まり、二つの目がぱちぱちと瞬く。


「いないの?」

「いないから聞いてるんだが?」

「うーむ。…ちょっと待ってね」


 コロタマはそう言うと、ピピッと小さな電子音を鳴らした。二つの目が淡く光り、その場でしばらく揺れる。


「………」


 やがて目の光が消え、コロタマはぴょんっと跳ねた。


「カケラ、見つけた。集落の外。湖にいる。リースレッドも一緒。リースレッドも一緒」

「……は?」


 その言葉を聞き、ターナの表情が固まる。


「カケラとリースレッド。湖にいるよ」

「湖……」


 瞬間、ターナのこめかみに青筋が浮かんだ。


「チッ……!」


 盛大な舌打ちが落ちる。


「こんなクソ忙しい時に朝から呑気に散歩たぁ…。あいつら…いい度胸してんな…っ!」

「!」


 声は押し殺しているものの、怒気はどうしても隠せない。その低い声にコロタマがぴたりと動きを止めた。二つの目が丸くなる。どうやら少しだけ怖かったようだ。


「……はぁ」


 ターナは大きく息を吐き、肩の力を抜く。


「湖まで行くのは面倒だな。ここで待たせてもらう」


 流石に湖まで迎えに行く気力は残っていなかった。怒りが収まったわけではない。

 踵を返す。ターナが家の中へ戻ろうと歩き出せば、その後ろをコロタマがついていく。


「死神さん。死神さん。お腹空いた」

「あ?」


 コロコロと転がりながらコロタマは言う。

 歩きながらターナは振り返り、少し黙った後、腹に手を当てた。


「ああ。そうだな。昨日の夜から休まずここまで来たから、腹は減ってる」

「カケラが作ったスコーンあるよ!」

「……スコーン?」

「うん!死神さんにあげる!あげる!」

「……それ、お前が勝手に決めていいのか?」

「いいよ!カケラのだから!」

「いや、理由になってないが」


 嬉しそうに声を響かせたコロタマにターナは足を止めて、思わず口元を緩ませる。そんなターナを見上げ、コロタマは跳ねた。


「死神さん。スコーン食べよう!」

「…分かったよ。食うから跳ねるのをやめろ」

「わーい。食べる!食べる!」


 ターナの返事を聞くと、コロタマは待ちきれないとばかりに先に家へ戻る。

 爆速でコロコロと玄関まで駆けていき、そのままキッチンへ向かっていった。ドンッ、ガシャンッ、バキッと不穏な音が聞こえてくる。


「スコーン!」


 嬉しそうな声が家の中に響く。

 ターナはその後ろ姿を眺め、呆れたように笑った。


「……まったく」


 カケラがいない苛立ちは消えていない。それでも、朝から何も食べていなかった腹はスコーンの存在を知った途端、少しだけ素直になった。


「……まあ、食いながら待つのもいいか」


 そう呟き、ターナも家の中へ足を踏み入れる。

 カケラが戻るまでの、束の間の休息。西の大陸の静かな朝は、二人の声と共に少しずつ賑やかになっていった。



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