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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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傷だらけの少女





 音のした方を向くと、そこには一人の少女がうつ伏せに倒れていた。

 ぴくりとも動かないその少女を見てルーンは目を見開き、ジェイクたちも言葉を失う。

 倒れていたのは、あの少女だった。


「…ちびルーンさん!」


 ダリアンが駆け寄り、彼女を抱き起こす。


「しっかり。大丈夫ですか?」


 肩を揺さぶると、少女の体が小さく揺れた。


「ん、……」


 瞼が開き、ぼんやりとした瞳がダリアンを捉える。

 少女は焦点が定まらないまま周囲を見回した。コロンと彼女の手から赤い宝石が落ちる。その宝石は砕けていた。


「……!」


 そして、ルーンの姿を見つけた。

 瞬間、少女の表情が大きく歪み、ダリアンの腕から勢いよく飛び出すとルーンに駆け寄り抱きつく。


「うえぇぇぇん!!お姉ちゃあああん!!」


 抱きついたと同時に泣き声が部屋中に響き渡る。

 少女はルーンの服を両手で掴み、顔を押しつけた。大粒の涙が次々とこぼれる。


「うわぁぁん……!」

「!」


 ルーンが少女を支えたとき、その体に無数の傷があることに気づいた。衣服は汚れ、肌からは血が流れている。


「どうしたの、この傷?」

「うぅっ……」


 ルーンは眉をひそめ、少女と視線を合わせて聞いてみる。少女は答えようとしていたが、言葉にならず、ただ泣き続けた。

 ダリアンが手をかざすと、淡い光が少女を包み込む。傷口が少しずつ塞がっていくが、少女はルーンの服を離さなかった。


「ひっく…、うぅぇぇ…」

「大丈夫よ。もう大丈夫だから」


 ルーンは少女の背中を撫でた。


「……私のルーン。何だ、それは?」


 その様子をじっと見つめていたホワイトはぽつりと呟く。声に妙な緊張が混じり、表情が強張っていた。

 ホワイトには少女の姿は人の形として見えていなかった。彼の瞳に映るのは異様な気配を放つ黒い靄。靄の放つ禍々しい気配が、周囲の空気を重くしている。


「……」


 ホワイトは身構える。

 ルーンは彼を見ようとしなかった。


「…ホワイト。貴方はもう客間に戻って」

「私のルーン。答えてくれ。そいつは何だ?」


 ルーンは答えず、ダリアンの治癒魔法を見守る。


「ホワイト。客間に戻って」


 もう一度言う。しかしホワイトは動かなかった。

 少女をジェイクへ預けて、ルーンは立ち上がる。


「これは命令よ。客間に戻って」


 ホワイトの方を向き、もう一度言った。静かな声の奥に明確な苛立ちが滲む。

 それでも彼は動くつもりはなかった。ホワイトはしばらくルーンを見つめ、やがて口を開く。


「……悪いが、それは拒否させてもらう」

「……」

「いくら私のルーンの頼みでも、それの正体が不確定なうちは、この場を離れられない。私のルーンがそれについて話してくれるまで、私はここに存在する」

「怒らせないでちょうだい、ホワイト」


 ルーンは眉をひそめる。

 ホワイトは一歩も引かなかった。


「私は、私のルーンのためにここに留まっている」


 ホワイトの目には強い意志が宿っていた。


「その得体の知れない存在から、私は私のルーンを守る必要があるのだ。私は、君を失くすわけにはいかない」

「私のためを思うのなら、今すぐ客間に戻ってほしいんだけど」


 ルーンの苛立ちが募る。

 ホワイトは首を横に振った。


「断る。私のルーンがそれについて話してくれるまで、この場を離れるわけにはいかない」

「……っ」


 ルーンは奥歯を噛み締め、ホワイトを睨みつけた。その瞬間、紫色の瞳にほんのわずかに赤が混じる。

 ホワイトは目を見開いた。


「ホワイト。言ったわよね。怒らせないでちょうだいって」


 声が低くなる。

 一歩前へ出ると紫の瞳がゆっくりと赤へ染まっていく。ホワイトはじっとその瞳を見つめたあと、拳をぐっと握り締めた。


「…そうか。私のルーン……君はもう…」


 短く息を吐く。

 言葉を飲み込み、少女へ顔を向ける。ホワイトには、そこにいるのが人の形をした少女ではなく黒い靄にしか見えない。


「……………」


 ホワイトはジェイクとダリアンへ視線を移した。

 二人も少女を見ている。その瞳にも、ほんのわずかに赤が混じっているように見えた。


「………わかった」


 ホワイトはしばらく黙り、やがて頷く。


「指示に従おう」


 ルーンを見る。

 そう言って彼は踵を返し、部屋を出た。

 廊下を歩いていく彼の背中が見えなくなるまでルーンは見送り、ピシャリと襖を閉める。


「………はぁ」


 息を吐くと瞳から赤が消え、紫色へ戻った。

 ルーンは少女へ顔を向ける。傷はすべて消え、彼女はジェイクの腕の中で静かな寝息を立てていた。泣き疲れてそのまま眠ったらしい。


「……ありがとう、ダリアン」

「いえいえ。これが僕の役割ですから」


 ダリアンはいつもの笑顔で答えた。その隣で、ジェイクは閉じられた襖を見つめる。


「……ホワイトのやつ、あんな渋ってたのに何で急に物わかりよくなったんだ?」


 その言葉に、ルーンも襖へ一瞬だけ視線を向けた。


「さあね。それより、貴方たちにはまだ聞きたいことがあるの。答えてくれるかしら?」


 ホワイトが何を考えていたのかは知らない。そもそも興味がない。ルーンはそれ以上考えず、二人に言った。


「もちろんです。時間はありますからね」

「……その前に、まずはこいつを寝かせる」


 ダリアンが頷く。

 ジェイクは腕の中の少女へ目を落とし、部屋の隅に敷きっぱなしだった布団へと運んだ。

 ゆっくり横たえると少女は少しだけ身じろぎをする。穏やかな寝息が静かな部屋に響き、ジェイクは少女の体に毛布を掛けた。



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