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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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機嫌が悪い彼女





 東の大陸。サクラ村。

 撮影会は夜まで続いた。


 東の空が濃い藍色に染まり、教会の庭に夜の帳が下り始めた頃、ようやく撮影を終えたルーンとフィルはマキノたちに別れを告げて帰路につく。

 二人の肩にはウェディングドレスとタキシードの入った紙袋が担がれていた。


「…………」


 フィルはルーンの隣を歩きながら、ふと空を見上げる。頭上には、ぽつぽつと星が瞬き始めていた。

 ルーンの腕の中ではブルーテイルが気持ちよさそうに眠っている。撮影会の間ずっと付き合わされていたせいか、疲れてしまったのだろう。


「すっかり夜になっちまったな」

「………」

「まさか、こんな時間になるまで撮影が終わらないとは思わなかったよ」


 声を掛けるが、返事はない。

 フィルは隣を歩くルーンへ視線を向けた。


「マキノたち、張り切ってたな。写真、何枚撮ったんだろう」

「さあね」


 返ってきてもその言葉は素っ気ない。声にも表情にも温かみは感じられなくて、フィルは眉尻を下げた。

 隣を歩くルーンは相変わらず無表情で、その顔を見ていると少しだけ怖くなる。


「そ、それにしても、体中がバキバキだ。……明日も学び舎が休みで良かったな」

「……ええ」

「…………」


 会話が続かない。

 どうしたものかと考えながら、フィルは首を傾げた。


「あ、そ、そうだ。これから温泉小屋に行かないか?疲れた体を癒やしに」

「いいえ。遠慮しておくわ。行きたいのなら、ひとりで行ってらっしゃい」


 提案するも、あっさりと断られてしまった。


「え、ええと……」


 フィルは首に手を当て、ルーンから視線を外す。何か話さなければと考えるけれど、次に何を話せばいいのかまるで思いつかない。どうしたら彼女の機嫌を直せるのだろう。そんな考えが頭の中をぐるぐると回っていた。

 マキノやショウコの前では、そこまで機嫌が悪そうな態度を取っていなかった。だから、てっきりもう機嫌は直ったものとばかり思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。


 それどころか、むしろその時よりもさらに悪くなっている印象があった。



+


 それからしばらくの間、二人は無言のまま歩き続ける。夜風がそっと頬を撫で、遠くから虫の鳴き声が聞こえてきた。


「…………」


 ルーンは隣を歩くフィルをちらりと見上げる。彼は眉をひそめ、顎に手を添えながら何か考え込んでいるようだった。時折、小さく唸っている。

 かすかに声が聞こえるものの、何を言っているのかまでは分からなかった。


「………、」


 ルーンは視線を戻す。

 彼女は少し後悔していた。

 どうして、あんな態度を取ってしまったのだろうか。

 今日一日、ずっと機嫌が悪かったのは確かだ。フィルの言葉に苛立たされたこともあった。けれど、それだけが理由ではない。

 慣れないドレスに長時間の撮影。思うように休めないこともあって、気持ちに余裕がなくなっていた。

 だからといって、すべての苛立ちをフィルにぶつけていいわけではない。100%彼が悪いわけではないのだから。


「……はぁ」


 ルーンは小さく息を吐く。

 謝らないと。そう思い、足を止めた。


「フィル」


 隣の彼を呼ぶ。しかしフィルは気づく様子もなく、そのまま歩き続けた。


「……フィル!」


 今度は少し声を張る。


「……っ!」


 するとフィルはハッとした様子で立ち止まり、慌てて振り返った。どうやらルーンが足を止めたことに気づいていなかったらしい。


「ルーン?どうした?」


 不思議そうに首を傾げる。

 きょとんとした表情で尋ねられ、ルーンはまた小さく息を吐いた。

 次の言葉を口にしようとする。けれど、いざ謝ろうとすると、どうしても口が重い。


「…………」

「……?」


 ルーンは眉をひそめて黙り込む。

 フィルは心配し、踵を返して近づいてきた。


「どうした?」


 もう一度聞かれる。

 口を開きかけては閉じ、何度か言葉を探す。ちょっと焦るが、彼は催促せずに待ってくれていた。そして、ようやくルーンは口を開く。


「…………ごめんなさい」


 とても小さな声だった。


「ん?」


 フィルは首を傾げる。聞き取れなかったのか、それとも意味が分からなかったのか。

 ルーンは視線を落とし、言葉を続ける。


「私、……感じ悪かった…わよね。今日」

「え?」

「自分でも分かってるの。ずっと貴方に酷い態度を取ってたなって。……その、さっきだって……あまり良くない態度をしてて……だから……ごめんなさい」


 そこまで言って頭を下げる。フィルはすぐには返事をしなかった。彼が何か言わない限り、頭を上げられない。

 自分でも今日の態度が良くなかったことは分かっている。呆れられたり、怒られたりしても仕方がない。


「……謝らなくてもいいよ。気にしてないから」


 だけどフィルは予想とは違う反応をした。


「え?」

「誰だって、そういう日はある」


 思いがけない言葉にルーンは顔を上げる。見ると、フィルは肩をすくめて困ったように笑っていた。

 ルーンは目を丸くして彼を見つめる。腕の中でブルーテイルが目を覚まし、眠たげな瞳で二人を見上げて小さく鳴いた。


「きゅう?」


 ルーンはブルーテイルの頭をそっと撫で、フィルへ視線を戻す。


「でも、…えと、嫌な思いしたでしょ?」

「ん?うーん……。確かに、ちょっと困った部分はあったけど……嫌とは思わなかったかな」


 フィルは少し考えるように唸り、眉尻を下げながら言う。

 その表情を見た瞬間、ルーンの胸の中で、引っかかっていた何かがすっと取れたような気がした。重たく感じていた気持ちが少しだけ軽くなっていき、ルーンはそっと口元を緩める。


「……貴方は優しすぎるわ」

「え?」


 ぽつりと呟く。

 聞こえなかったか、フィルは目を瞬かせた。

 ルーンは彼の横を通り過ぎ、少し進んだところで振り返る。


「やっぱり私も行くわ、温泉小屋。今日はだいぶ疲れてしまったから、長湯確定ね」


 そして柔らかな表情を浮かべてそう告げると、そのままルーンはフィルに背を向けて歩いていった。

 そんな彼女の背中を、フィルはぽかんとしたまま見つめる。


「…えと…機嫌、直った…のか?」


 疑問符を浮かべて頬を掻く。

 先ほどまでの冷たい態度が嘘のような表情だった。


「フィル、何してるの?早く行くわよ!」


 少し離れた場所から、ルーンの声が響く。その声には、やはり先ほどまでの機嫌の悪さは感じられなかった。

 あれを見る限り、機嫌が直ったと、…そう思ってもよさそうだ。けど、急に直ると吃驚する。


「…あ、ああ。…今行く!」


 フィルは慌てて返事をし、足を動かす。

 ルーンの隣まで辿り着くとブルーテイルもすっかり目が覚めた様子で「きゅうっ」と、元気よく鳴いた。



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