写真、欲しい?
それからしばらくして、ルーンとフィルは橋を離れてマキノとショウコのもとへ戻った。
近づくと、マキノとショウコは何かを眺めながら楽しそうに話していて、ルーンとフィルは顔を見合わせる。
「……何してるの?」
ルーンが尋ねると、マキノが顔を上げた。
「あっ。ルーンちゃん、フィルさん!見てみて!」
差し出されたものを受け取る。それは一枚の紙だった。そこに写されていたのは、先ほど橋の上に立っていた自分たちの姿。
「……何これ?」
「これ、写真か?」
「知ってるの?」
「ああ。実際に見るのは初めてだけど。これがあるってことは、カメラも?」
「ここにありますよ!」
横から覗き込んだフィルが尋ねる。マキノは首からさげていたカメラを彼に見せた。
「何それ?」
ルーンは眉をひそめる。
フィルはルーンに、かくかくしかじかと簡単にカメラの説明をした。
「……ふーん」
ルーンは眉をひそめた状態のまま写真を見つめる。紙の上に自分の姿が残っているというのは、どうにも不思議だった。
「よく撮れてるでしょ?」
「ええ。……でも、どうしてこれを?」
「ふふふ。教室のみんなにも見せようと思ってねっ!みんな、ルーンちゃんのドレス姿を見たいって言ってたから!」
マキノは嬉しそうに笑い、そう言ってカメラを大事そうに抱きしめる。
ルーンは、女子生徒たちが自分のウェディングドレス姿を見たいと盛り上がっていたことを思い出した。
「……そういえば言ってたわね」
「きゅうっ、きゅうっ」
その時、フィルの肩からブルーテイルが超えをあげる。写真に写ったルーンが気になるらしく、身を乗り出して鼻をひくひくとさせていた。
「気になる?」
「きゅうっ」
ルーンが声をかけると、ブルーテイルは元気よく返事をする。次の瞬間、ぱくっとブルーテイルは写真を咥え、そのまま地面へ降りた。
近くのベンチへと駆けていき、ベンチに飛び乗ると写真をそっと置く。その横で体を丸めて目を閉じた。その様子から、どうやら気に入ったらしい。
「キツネくん。写真、気に入ったみたいだね」
「ルーンさんとフィルさんが写ってるからかな?」
「写真は、あの一枚だけなのか?」
「いいえ。まだ何枚かありますよ」
「えっ。まだあるの?」
「もちろん。ショウコちゃん」
「はい、これ」
マキノがショウコを見る。
ショウコは巾着袋から、ごそっと何枚もの写真を取り出してルーンに渡した。
写真には、橋の上に立つルーンとフィルの隣に並ぶルーン、二人が手を繋ぐ姿、少し離れた場所から撮った全身像など、様々な二人の姿が写っている。
「うわ、たくさん撮ったな」
「こんなにいっぱい、どうするのよ」
「もちろん、これもみんなに見せるよ。あっ。もしかして、この中に欲しいものとかある?」
「……ないわよ」
呆れたようにルーンは息を吐く。マキノは残念そうに眉尻を下げた。
その横ではフィルが写真を何枚か見比べていて、それに気づいたショウコが声を掛ける。
「フィルさんも、欲しいものがあれば言ってくださいね」
「えっ!?」
するとフィルの肩が跳ね、ルーンは顔を彼の方へ向けた。
「フィル、これが欲しいの?」
「え、い、いや!あ、え、ええと……その、オレじゃなくて……」
フィルは慌てて首を振り、視線を泳がせながら続ける。
「フィラーラと桃華にも見せたら喜ぶかなって思ってさ。…ほら。あの二人もルーンのウェディングドレス姿、見たいって言ってたから」
「じゃあ、どれか持って帰りますか?」
その言葉を聞いてマキノはルーンから写真を受け取る。
「ええと、この中でオススメは……」
そして彼女は真剣な顔で写真を選び始め、ルーンとショウコも覗き込んだ。
「…………」
フィルは、ほっと胸を撫で下ろして誰にも気づかれないようにそっと息を吐く。
危なかった。ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、自分も欲しいと思ってしまった。
だが、それは絶対に言えない。特にルーンの前では。絶対に。
「これなんてどうですか?」
一枚の写真を選び、マキノはそれを手にする。
「フィルさん、どうぞ」
「あ、ああ」
フィルは写真を受け取った。
そこに写っていたのは、橋の上でブーケを手にするルーン。純白のドレスに風に揺れる髪。写真の中の彼女は普段より柔らかな表情を浮かべていた。
「……」
フィルの胸がどくんと鳴る。
思わず見つめたまま言葉を失った。
純粋に。素直に。綺麗だと思った。
「ほうほう。よく撮れていますね」
「!?」
その時、背後から突然声がする。
驚いて、フィルは慌てて振り返った。
「……先生!?」
そこに立っていたのはケインだった。いつの間に来たのか、いつもの穏やかな笑顔を浮かべ、フィルの手元の写真を興味深そうに見ている。
ケインはフィルから少し離れて全員を順に見渡し、そして「こんにちは」と丁寧に頭を下げた。
「こんにちは」
ルーンたちも挨拶を返す。
しかしフィルだけは黙っていた。
挨拶どころではない。手元の写真を見つめたまま落ち着かず、どくどくと鳴りやまない心臓に焦っていた。
まさか、今このタイミングで先生が来るとは思わなかった。写真を握りしめないよう気をつけながら、フィルはそっと息を吐く。
そして、しばらくしてやっと落ち着いてきたところで彼もケインに挨拶をした。




