最初にしたこと
ジェイクが目を覚まして最初にしたこと。それは、シオンたちにこれまでの経緯を話すことだった。
「……まぁ、つまりそういうことだ」
ジェイクはそう言って息を吐く。
隣ではダリアンも時折口を挟みながら、少女と出会ったこと、彼女に協力することになったこと、そして呪念石を巡ってシオンたちと戦うことになった経緯を説明した。
二人の説明が食い違うたび、互いに補足を加えながら話は続き、やがて一通り話し終えるとエイルは腕を組んだまま大きく息を吐く。
「……なるほど。それでお前たちは彼女に協力してたのか」
エイルは二人を見つめる。
ジェイクとダリアンは小さく頷いた。
「……ちびルーンさんは、どこへ行ったんです?」
「さあな。忽然と消えた」
その問いにはシオンが答えた。
「……あいつを捜しに行くのか?」
「状況次第ではな。……だが、まずはサクラ村に戻ってルーンを問い詰める」
「…………」
シオンは少し考え、言う。
その言葉を聞いたジェイクとダリアンは顔を見合わせた。ジェイクが眉をひそめ、ダリアンも頷く。
「シオン」
「なんだ?」
「村に帰るなら、俺たちも連れて行ってくれ」
「…………」
シオンは怪訝そうにジェイクを見る。
「……理由は?」
「俺も、ルーンには話を聞きたい」
「僕はただの好奇心です……と、言いたいところですが、ジェイクさんと同じ意見です。ルーンさんには、色々と聞かなければならないことがありますので」
迷いのない返事だった。
シオンは黙って二人を見る。
エイルも隣のシオンへ視線を向け、二人は短く目を合わせた。
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「エー、大丈夫か?」
「ん……うん」
少し離れた場所では、ヴィーがエーに声をかけていた。エーは壁に背を預けたまま、小さく返事をする。
少女との戦いで負った傷は、今も妖精たちによって治療されていた。それでも、すぐに動ける状態ではない。
エーとアラタの体には無数の傷と火傷が残っている。特にエーの状態は酷く、治癒の力で少しずつ傷は塞がっているものの、完全に回復するにはまだ時間が必要だった。
「……あの子は?」
「シオンたちが言うには、突然姿を消したって。どこに行ったのかもわからん」
「そう……」
ヴィーの言葉を聞いてエーは目を伏せ、隣にいるアラタへ視線を向ける。彼はまだ目覚めていない。
「……アラタくんは、大丈夫?」
「エーほどじゃねぇが、ダメージが酷い。しばらくは休ませないと駄目だな」
「……そっか。……ごめん。私にもっと力があれば」
エーは俯き、眉をひそめた。
体を少し動かしただけで全身に痛みが走る。
「っ……」
エーは顔をしかめながらも、何とか姿勢を整えた。
「これ……もう一度、湖に行かないと駄目かな」
「駄目に決まってる。俺が連れてくから、行きたくなったら言え」
「……うん。ありがとう」
即答したヴィーの顔を見て、エーは口元を緩める。
痛みに耐えているはずなのに、その表情は穏やかだった。それを見たヴィーは眉をひそめる。
「……まったく」
小さく呟き、怪我をしていない方の肩を軽く叩く。そのまま立ち上がると、彼はエーから離れていった。
「………エー」
「!」
その時、隣からかすかな声が聞こえてくる。
アラタが目を覚ましていた。だがその声は小さく、どこか苦しそうだ。
「アラタくん……大丈夫?」
「っ、いてて……」
エーは痛む体を動かし、彼の方へ顔を向ける。
アラタは顔をしかめながらも、何とか笑みを浮かべた。
「全身痛むけど、なんとか。……エーは?」
「私は……ちょっと駄目かな」
エーも笑って、自分の体を見る。
「体が思うように動かなくて。……あの子の呪いの力で、羽根が穢れちゃってるみたい……」
「…………」
小さく咳き込むと、アラタの表情が曇った。
「……守ってやれなくて、ごめん」
「アラタくんのせいじゃないよ」
首を横に振る。
「むしろ、謝るのはこっちだよ。私は、貴方を守ってあげなきゃいけない立場なのに……っ。私の力が足りなかったかばかりに、怪我させちゃってごめん」
「? ……それはどういう?」
「アラタ」
アラタはきょとんとした。
それはどういう意味かと聞こうと口を開くが、しかしその言葉はシオンの声に遮られた。
二人が同時に顔を向ける。視線の先にはシオン。その後ろにはジェイクとダリアンもいた。
「村へ戻るぞ。……立てるか?」
シオンはアラタを見る。
アラタは壁に手をつき、ゆっくりと体を起こした。
「ああ……っ」
「アラタくん……」
エーが心配そうに眉尻を下げる。
アラタの体を飛び回っていた妖精たちが、彼の動きを助けるように治癒の力を強めた。
「手は必要か?」
「……大丈夫。ひとりで歩ける」
アラタは何とか立ち上がる。
それを確認すると、シオンは小さく頷いた。
「エー。俺たちも帰るぞ」
そこで、ヴィーも戻ってくる。
「呪念石は?」
「心配すんな。エイルが責任持って封印を強化しとくってさ」
答えると、その直後にヴィーは彼女をそっと抱き上げた。
エーは驚いて目を丸くする。
「えっ。ちょっと、ヴィー……?」
「今のお前を歩かせられるわけないだろ。またぶっ倒れられても困るし」
ヴィーはそう言って歩き出す。
エーの周囲を飛んでいた妖精たちも、そのまま彼女についていった。一匹がエーの腹部にちょこんと乗り、治癒魔法をかけ続ける。
「だから、安心してしばらく寝てろ」
「ごほっ。……うん」
エーは素直に頷いて目を閉じ、ヴィーの腕の中でゆっくりと息を吐く。
やがて、すぅ…と小さな寝息が聞こえ始め、それを確認したヴィーは、わずかに表情を和らげた。
「…………」
その様子を少し離れたところから見ていたダリアンは、ぽつりと呟く。
「……貴方って、そんな顔も出来るんですね」
「あ?」
ヴィーが振り返る。
穏やかだった表情を一転させ、彼は眉をひそめてダリアンを睨みつけた。
「何か言ったか?」
「いえ。何でもありません」
涼しい顔でダリアン答える。
「…………」
にこにこ。彼は笑い続ける。
その表情がなんだか妙に苛つき、ヴィーはしばらく彼を睨み続けた。




